「何してる」
「初雪が……」
雨模様を気にするように手のひらをかざして、そんな彼にならって男も隠していた両手をさらして。
「初雪か」
春の綿毛とも区別のつかない、ちいさなちいさなひかり。
別段発光していなくとも、見分けられるのはそのおかげ。瞬くようにちらちらと。
閃くようにぴかぴかと。
現に彼の瞳をみれば、贈り物を授かるようなひかりかたをしている。
「すごい」
どうしたと尋ねる前に、「みてよこれ」と差し出され。
手ぶくろのうえには、ちいさなちいさな晶のもと。
「凄いな」
「すごいです」
「綺麗だな」
「きれいですね」
おそらく以前も二人で見た光景を、交わした言葉をなぞらえる。
あの時はたしか、こうだったか? 男が再度手をかざした。
贈られるひかりはちらちらと乗り、瞬くまに姿を消す。
くくくと彼が笑った。
その暖かく包まれた手のひらを見て、男は口を尖らせ、笑った。
【手のひらの贈り物】
強い思いに苛まれたって いいうたは浮かばないんだって
だれか私に言ってください お前の情緒に関係無いって
邪魔だって追いやられたって被害者面して居座ります
どうか私に言ってください お前の人生に興味無いって
帰り道に浮かびつづける言葉の端々や
涙とともに流れる記憶
うずくまって書き殴るうた
解読不可能でしょうけど何が書いてあるかわかります
翌日には感情だけが残っているから
削る技術が到達地とは 余韻が残れば全て良しとは
評価するに値するにはこの場に居なければなりませんか?
本当は私をみないでほしい
つくったそばから飛び立ってゆく
どうかあの点に目をやって
【心の片隅で】
若くして亡くなった祖父が名付けたんだと。桜の散り始める時期にまた、なんで。もっと季節に合う名にしたらいいじゃない。周りは必死に止めたけど、祖父は譲らなかったらしい。
黒々と染まった和紙に白一文字、飛び出す勢いで書されたと。これ見よがしに掲げては、何も語らず晩年を迎えたとか。
雪見障子から思い出す。
生前積み上げた人望を最後の最後に荒削り、そこまでして祖父が譲らなかったもの。
雪とは祖父のなんだったろう?
私は祖父のなんだったろう。産まれて内心は喜んだのか、疎まれたのか。いくつ季節が過ぎ去ればこの心情も変わるのか。
障子窓から何が見える。思い出には何が映る。
桜とは祖父のなんだったろう。
散り際のもの悲しさと、去り際のみすぼらしさと、宙を舞っては歩を彩る地続きの刹那さと。
【雪の静寂】
年 月 日(☂) :
朝、ねぼうした。先生におこられた。
給食のカレーはおいしかった。おかわりした。
年 月 日(✸) :
みんな同じクラスだった! 神!
はじめてヒゲそったら口のはじが切れたっぽくて、地味に痛い。
年 月 日(★) :
今夜は流星群だって。わざわざ外に出るのめんどいから、もう寝るけど。
年 月 日(✸) :
来年は受験生かー。もっと遊びたい。
数学のテストは意外といい点とれた。
『()内は天気を書く欄ではありません。』
年 月 日( )✸:☂
なんか、どっかから落ちる夢みた。からだバラバラになってて「やば!」っておもったけど、ぜんぜん痛くないし、今思えばそっちのほうがやばかった。
✕✕、ありがとう! ずっと間違えてた。
( )には何を入れたらいい?
『私は✕✕ではありません。()内への記入の必要はありません。』
年 月 日( ) :
また同じ夢見た。すごく高いところから落ちてる。
受験やだな。
ごめん。なんて呼べばいい?
あと、天気はどこに書けばいい?
年 月 日( )☂:
また落ちた。場所は覚えてない。
『天気を書く必要はありません。』
年 月 日( ) :
年 月 日( ) :
雨がふってて寒い
年 月 日( ) :
年 月 日( ) :
まだ落ちてる
年 月 日( ) :
年 月 日( ) :
年 月 日( ) :
『人生を記録する必要はありません。正確に夢の内容を書いてください。』
【君が見た夢】
なにが不安?
言葉にするのもつらい様子。
その顔をよく見せて。
それから溜息。大きく吐いて。
なにか思い出した?
それは走馬灯では懐かしく感じるかもしれないし、
誰の人生にも記録されない虚像でしかないかもしれない。
なにもしたくなくて、ここにいる?
存分に。
身が朽ちるまでいたらいい。
ともに朝日を浴びて化石になって、粒子に還って波に乗ろう。
明日は宇宙へ旅に出よう。
変更線の無いばしょへ。なにを持ってく?
なにが大切?
この際だからおもい荷物は捨てていこう。
旅に不安はつきものだから。
思えば、ここも旅先だから。
【明日への光】