どうりで羨ましく感じるわけね
思い出を残さないと得られないのよ
残すほどの事でも無かったものね
それを大切に仕舞っておくのが
どんなに難しいったら
わかる?
誰にも言ったことがないから
誰も知らないでしょうけど
もう過ぎてしまった事を思うと
もやがかかって時間がとまって
すぐ引き返すの
あたしずっと欲しいものがあるみたい
でもそれら全部捨ててしまった
人でなくても良いのなら
この縫いぐるみの感触に似てる
【遠い日のぬくもり】
ポトポト。
ぽたぽた。
「うーん」
てりてり。チルチル。
「ちがうのよ」うんうん悩む腕組みの子。
「もっといいのがあるはずなのよ」
あたまをつかって! 帽子のポンが、ふわふわたむたむ。
周りの子らも、ぽてぽてわやわや。
「まーだきまらないの?」
「あのねあのね」
「こんなのがすきー」
危ないから近付かないで。
両手の囲いをそっと建設。よじ登らないで。
「みえないもん」「ねー」
…………。
ゆらゆら。
「それなのよ!」
ビシッと決めて、くるりポージング。「きょうからこのこはゆらゆらなのよ」
ぱちぱちパチパチ、わあわあキラキラ。騒がしい夜。
満更でもないけれど。
「さあみんなでわになっておどるのよ」
つくえのうえの、ちいさなせかい。
キャンドルも語源も通じない世界。
より共感を得られたものの重複した名が決まる世界。
「とってもきにいったのよ」
ふんふん歌って影揺らすから、水を差さずに見守った。
卓上ツリーは無くたって。
ひとりでは居られない夜。
【揺れるキャンドル】
どうでもいいことが頭の中を、ぐるぐると。
浮かんでは繋がらずに消えてゆく。
本当に行きたいところへ足が向かない。
『寄り道するのも良いもんだ』
面白いことに出会うから。
あの人が云っていた通りには、なかなか。そう上手くはいかないもので。
『何も考えずに進むまで』
人生に石橋を叩く暇も無い。
あの人がつぶやいた真理にも、なかなか。たどり着くには長すぎる。空を仰いで。
……目を細める。
遠く、飛び石の隙間。
天使の梯子が降りている。
「ぼーっと突っ立って、なぁに考えてるの」
向こうから翠色のうちわ片手に、ぴょいぴょいと。
ゆたりと扇げば神楽鈴。
「ふたつ曲がれば逢えたのに」
ね、なにをかんがえていたの。
いいえ何もと応えておく。ふぅんと関心の途切れる声。
「ほんとうに惜しいのに」
あの橋を渡りましょ。
うちわ指すほう、見落としていた抜け道が。にやりと天使の口元が覆い隠され。
【光の回廊】
自分で思ってるより広くはなかった
最初から容量も決まっているし
せめて目盛りがついていれば対応だってできたかも
そう 気づけなかったことが敗因
日ごろ意識しないでしょう
吸っている空気の重さだとか
計測する機会もなかなか無いし
だから仕方がないって諦めてる
時間は巻き戻せないものだし
ひっくり返しても循環しない
ほら 漏斗口を見上げてみてよ
ドロドロしていて落ちきらないでしょ
【降り積もる想い】
姿見の前で裾をつまむ。
爪先を引いて、もう何度目かの印象練習。
――とっても素敵よ! ほら、やっぱりこの色が似合うでしょう?
叔母の称賛が過ぎっても素直に受けとめられなくて。
次にくる言葉は決まっているから。
――ああ、姉さんにも見せたかったわ……
鏡と写真を見比べる。
棒立ちになれば、途端にうなだれる肩と首。
対して貴方の、気品にあふれた佇まい。
悪気がないのはわかってる。それでも重くのしかかる。
今の娘の姿を見たら、どんな顔するだろう。赤子のままでいられたら、どんなに幸せだっただろうか。
周りの賛辞を真に受けてでも胸を張っていられるように、冷ややかな視線に微笑む努力がいつかは実を結ぶように、
写真の前で一歩下がって礼を尽くす。
脚はいまだに震えるけれど。
「まあ、こんなところにいた!」
「叔母さま」
「探したのよ。もうすぐ迎えが来るはずだから……あら」
――じっとしていて。
すると、からだのあちこちに手が伸ばされ。
編み込まれた髪や襟元、裾のレースや飾り物。引き締められ、整えられ、終いに背中を軽く叩かれ。
「猫背が直ってないわよ」
叔母の動作は手慣れていて、
そしてなぜか、
遠くの日々を懐かしむような優しさがあった。
急かされるまま歩き出す。
今夜もし上手くいかなくても、貴方に報告できる気がした。
【時を結ぶリボン】