鉛色の重い雲。
こんな空の日は大抵雨か雪が降る。
そして僕は今日、傘を持っていない。
みるみる暗くなっていく空に、傘の今の持ち主を思う。みかんの段ボール箱に猫と赤ちゃん猫たち。うちはアパートで飼えないから、風避けに差し掛けてきた僕の傘。折りたたみで、親がデパートか何かの忘れ物処分で貰ってきて、くれた傘。
誰か拾ってくれたらいいな。
親猫はお産が終わったばかりのようで弱っていた。
でも赤ちゃん猫にとって親の命は命綱だ。
僕は祈りながら空を見上げた。雨はまだ降らない。
【物憂げな空】
僕はみんなのママになってしまった。小学校高学年のママ。子ども達はうさぎとニワトリとメダカだ。そう、別の言い方をするなら、僕は生物係に選抜されたのだ。生徒が少ないから、僕だけが生物係だ。
メダカは25度の水温を保って、藻についた卵を別の水槽に移して。うさぎとニワトリは小屋のお掃除をしてそれぞれに餌をあげる。
毎日学業の合間に忙しく面倒を見ていたら、嬉しい驚きがあった。うさぎとニワトリが子どもを産んだのだ。もちろんニワトリは卵だ。うさぎの赤ちゃんは小さかった。ふさふさの毛玉になる頃には、ニワトリの卵からヒヨコが孵った。
手のひらに乗ってしまう小さな命。僕が守ってみせるんだ。卒業までは、僕がママなんだから。
【小さな命】
僕には、世界で一番愛するものがある。それはプリン。固めで、濃厚で、時々すが入っていても良い、手作りの焼きプリンを愛している。
僕の理想にぴったりなプリンを見つけた。出会ってしまった。それはレストランの裏メニュープリン。
オーナーの奥さんがお手製で出している、数量限定プリンだ。
記念日だからと駄々をこねて、お金も積んで、一日分買い込んでしまった。愛する味わいに浸れる喜び。今日中に食べてくださいねというオーナー奥さんの言葉に頷いて、冷蔵庫に大事にしまって、風呂を浴びた。
湯上がりに食べようとしたら、妹が容器ごと抱え込んで滅ぼしていた。おおプリン、My love,I miss you!
【Love you】
わたしは月が好きだ。光量が丁度いい。
目全体から比較して黒目が大きいわたしの目には、少し太陽は眩しすぎるのだ。その分夜目もきく。
太陽ほど暑く明るくなくて、でも冴え冴えと気持ちの良い光を放つ月が好きだ。
しかしこの評価は雪が降ると一転する。
雪かきは腰を痛めているわたしにも家族にもしんどい。なのでお天道様にぜひ自然融雪していただきたくなるのだ。この時ばかりは太陽の力強い光がありがたい。太陽にエールを送ってしまう。人間とは都合の良いものである。
【太陽のような】
わたしが失った最も大きいものは、多分創作能力だと思う。どんなにつらい時でも創作に逃避したり、置き換えたりして生き抜いてきた。大うつ発作を起こした時も、自力でメンタルを立て直そうと創作に没頭した。
それがいけなかった。当時わたしは創作の相談を大事な相手にしていた。相手が就職後うつを抱えてしまっても、わたしは自分のうつに引っ張られて配慮出来なかった。結果、その人に全否定された。
ガラガラと世界が崩れた。わたしの拠り所は失われた。それまでの一生をかけて構築したものが、瞬時に消えて失くなった。
わたしはそこから立ち直れていない。今の創作能力はゼロに等しい。多分立てる日は来ない。
【0からの】