まそむ

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10/18/2025, 12:07:22 PM

駅を出たら白い闇にみるみる視界を奪われた。

滅多に見ないほどの濃霧。
自分の手さえ霞んで見える。
足元もおぼつかない。
霧の中を泳ぐように歩く。

ここは家の近く、いつもの一本道。
濃霧が出ても、迷うはずがなかった。

さあっと霧が晴れた時。
太陽が眩しくて思わず目を閉じて。
ゆっくり目を開けて、声を失った。

ここはどこだ。
道すらない、荒れた野原に立っていた。
周囲の住宅もない。
自分の家も。

振り返ると駅がない。見えないのではなく、ない。
ただただ、荒野が広がっていた。

自分は過去に来てしまったようだ。
穿いていたズボンが、昔風のもんぺに変わっていた。

ばあちゃんに会いたいな。まだお若いのかな。
最期まで聞けなかったレシピ、聞けるかな。
地形と記憶を頼りに、冒険が始まった。

【光と霧の狭間で】

10/17/2025, 11:01:40 AM

あたためておいたガラスのポットを前に、リーフティをティーキャディースプーンですくう。
Tea for me, tea for pot.
1杯は自分、もう1杯はポットの分。

熱湯を注ぎ入れ、リーフが踊り出すのを確認して。
ティーコジーをかぶせ、3分計をひっくり返す。
さらさらと音もなく滑り出す砂時計をじっと見つめる。

砂時計は、落ち切っても、音を立てない。
だから、目を離せない。
でも僕は、こうしてただ砂時計を見つめている時間が好きだ。
だから3分計を選ぶ時に、一番見ていて飽きないものにした。

最後の砂の一粒が落ちたら、ティーコジーを外す。
ゆっくりとポットをゆすって、茶漉しを通して、あたためておいたお気に入りのカップに、紅茶を注ぐ。

芳しい香りが立つ。
僕だけの、幸せな時間だ。

【砂時計の音】

10/16/2025, 10:39:02 AM

星図とは、恒星の位置や明るさを平面に書き記したものをいう。

僕は夜空が好きだった。
良く星を見上げて自分なりに星図を作っていた。
お小遣いを貯めて天体望遠鏡を買うのが夢だった。

うん、気づいた? そう、過去形なんだ。

「勉強しなさい。机に向かいなさい」
僕の星図を取り上げて、ビリビリに破く親。
「空ばかり見て。あんた偏差値幾つだと思っているの」

僕の夢は、僕の情熱は、バラバラにされて、ゴミ箱に放り込まれた。
これは僕が人間から、人形になった夜のお話。

【消えた星図】

10/15/2025, 10:59:42 AM

わたしには恋愛感情がない。
そういうふうに生まれついた。

だけど人を人として愛することはできる。

愛から恋愛要素を抜いたら何が残るって?
それは尊敬とか、尊重とか、相手を大事にしたい気持ちだと思う。
恋愛分からないわたしは、そう思う、ってだけ。

【愛-恋=?】

10/14/2025, 12:05:35 PM

梨の別称に「ありの実」という言い方がある。
梨が「無し」に転ずるため、縁起のよい言い回しがあるのだ。

だけど。

夕ご飯の後に梨が出た。
剥くのは小学生のわたし。
小さい頃から刃物の扱いに慣れろと言われて。
まだ、ピーラーもない時代。

一生懸命、皮を剥いて、六切りにして、芯をとって。
家族全員分剥いたら、手を洗って、やっとデザート。

「食べてもいいですか?」
「あんたの梨は無し」

ありの実、と言わなかったわたしの皿が、親に取り上げられる。
わたしはフォークを持った手を、虚しく下ろして。
親の笑い声が背後から追ってくるから、急いで食卓を去るのだ。

梨を見ると今でも思い出す。
日常茶飯事だったなあ、って。

【梨】

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