小さい頃のお誕生日は、自分にとって特別だった。
小学校でその日はお誕生日を祝ってもらえた。
家に帰るのが、楽しみだった。
だけど、わたしの誕生日に養母が亡くなった。
誕生日、わたしは学校から帰って心を躍らせていた。
でも、お祝いは、なかった。
お座敷にお坊さんが来て、長く正座をさせられた。
用意したお菓子はお坊さんのためのものだった。
おもてなしをして、お見送りして、おしまい。
わたしの誕生日が祝われることは無くなった。
お坊さんが来なくなっても、わたしの誕生日は養母の墓参りのための日になった。
【おもてなし】
いつまでもいつまでも、心の中にあの日の焚き火が燃えている。
僕が描いたクレヨン画。
空を青く塗りつぶして、明るい太陽を黄色く塗った。
幼稚園の時のお絵描き。
太陽は赤だと大人に言われた。
僕には昼間の太陽は黄色か白に見えていた。
先生にも親にも赤に塗り直すよう言われた。
僕は、おひさまはしろいもん、と言った。
すると親は僕の絵を取り上げて、焚き火にくべた。
丸まって燃えていく僕の絵。
幼い僕は悔しくてわあわあ泣いた。
それからクレヨンを使わなくなった。
あの日の焚き火は今も心の中で勢いよく燃えている。
【消えない焔】
どうして、生まれてきたんだろう。
「生まれて来なければ良かったのに」
どうして、生きているんだろう。
「この金食い虫が」
どうして、いつも父を怒らせるんだろう。
「何がごめんなさいだ、ふざけるな」
どうして、夢を持っちゃいけないんだろう。
「俺のいう通りに進路は決めろ」
どうして、わたしは意見したらいけないのかな。
「うるさい黙れ」
どうして、わたしは愛されない?
「世間体の方が大事に決まっているだろう」
天国の父が、生前放った言葉が、いちいち耳に響く。
永遠の呪縛と、終わりのない問い。
わたしはいないほうがいい?
「早く死んでしまえ」
【終わらない問い】
カラスが落ちていた。
僕はカラスってとっても綺麗な鳥だと思っている。
真っ黒で、声はうるさいけれど、艶やかで賢くて。
でも、ゴミを漁るからか、皆に嫌われている。
いつだか、カラスを飼っている人に会った。
ペットのカラスは良く躾けられていて、憧れだった。
野鳥ではなくペット用に輸入されたカラスらしい。
落ちていたのは野鳥のカラスだ。
車に撥ねられたのか、ぐったりしている。
ハンカチ越しに持ち上げて、連れ帰った。
獣医さんに診せて、治療してあげたいと思った。
飼えなくてもいいから。
畑で野焼きをしていた親は、僕の腕のカラスを見て嫌な顔をした。
まだ息があるのに、捨てなさいと怒る。
可哀想だ、助けたいと言ったら、僕から取り上げた。
そしてカラスを、ハンカチごと火に放り込んだ。
火は半死半生のカラスを覆い尽くした。
燃えて揺れる黒い羽根が目に焼き付く。
それも涙でにじんで、やがて何も見えなくなった。
【揺れる羽根】
鍵のかかる箱に、日記を入れていた。
それが小さかった頃の、わたしの秘密。
アンネ・フランクの日記に影響されて、居もしない親友に宛てて日々を綴っていた。
毎日、お酒を飲んで、兄を怒鳴り殴る父。
毎日毎日、わたしの目の前で、3時間は続く。
母は素知らぬ顔で部屋から消えている。
わたしは兄が殴られなかった日を記録しようとして、1日もないことに気がついた。
何年続いただろう。本当に1日も途切れなかった。
自分が殴られるより恐ろしかった。
目の前で兄が暴力を振るわれ続けるのは。
きょうはつらかったけれど、あしたはきっときょうよりひどいから、きょうはまだ、しあわせ。
呪文のように同じ言葉が並ぶ日記。
暴力が兄からわたしに向いた頃、わたしは、秘密の箱ごと、日記帳を庭で焼いた。
【秘密の箱】