感覚はとうの昔に無くなっていた。
手を擦り合わせても
それが自分の手だとは認識出来なかった。
「まだ起きてる?」
彼女の腕が少し動いたように見えた。
ここから見える景色は
これ以上に無いほど白く、荒く、我々を突き刺している。
「 」
ああ、肺がダメになってしまった。
ふと彼女の方へ顔を傾けると
彼女も少しこちらに傾きながら
分厚い手袋を着けた手をこちらに倒してきた。
人気もない、音も聞こえない雪山。
我々が白い衣に包まれても
その手とこの身体の間に挟まることはなかった。
私は幸せ者だった。
さいごの温もり
あと少しだ
あと少しだって
何回言うんだ
もう足も棒みたいで
息も絶え絶えで
もうやめようって言おうとした
でも
君のそんな顔を見たら
そんな声をかけられたら
あと一歩だけならって
幾度も思ってしまうんだ
深夜に床に倒れ込んでからどれほど経っただろうか。ふと、重い頭を窓の方に向けて見ると、カーテンと壁の隙間からは、黄色の柔い光が溢れ出ていた。
寝てるのか起きてるのかも分からない時間は、長いのか短いのかも分からなかった。
僅かながら意識がはっきりしてきたところで、私はなんとなくカーテンを開けた。
眩しい。
様々な障害物に妨げられながらも、太陽は私の目を一直線に刺してきた。
太陽が昇ると同時に鳥が朝の挨拶をする。さっきまでは闇と化していたであろう街並みは、それを忘れさせるかのように太陽の光を反射していた。
強く光り輝く太陽は、一日の始まりを知らせる。
今日も終わらない今日が始まった。
「もし、世界中が私達の敵になったらどうする?」
「そうだな、難しい話題だ。でも、僕は必ず最初に君を殺すよ。その後は、まあ、どうにかするさ」
「ふふ、適当なのね。でも、私、貴方の手で最期を迎えられるなんてとても嬉しいわ。私も貴方を殺した後どうしようか考えていたの」
「はは、なんだ、僕たち相思相愛じゃないか」
「だって、貴方の最期は誰にも渡したくないもの」
「僕も、君にそう思っているよ」
「そうね、もし私が貴方を殺したら、人のいない、深い、静かな海に沈めてあげるわね」
「それじゃあもし僕が君を殺したら、誰もたどり着けない、広い、綺麗な花畑に埋めてあげよう」
「ふふふ、嬉しいわ。そうだ、約束しましょう。先に殺した方が、絶対ね」
「ああ、約束しよう。絶対だ」
あの日
太陽の下で笑っていた向日葵は
いつしか
冷たい地面を静かに見つめるようになっていた