君と歩いた道
「お父さんしっかりね」
「おう、お前もドレス踏むなよ」
そしてチャペルの扉が開いた。
同じみの結婚行進曲。
参列者に囲まれ厳かな雰囲気に緊張感があるが、長いウェディングロードのおかげで少しずつ慣れていく。
一歩ずつ純白の姿と歩む度に、小さい娘と歩いた公園、家への道、祭りの屋台の思い出が走馬灯の様によみがえる。
涙ぐむ俺に、隣で小さく幸せそうに微笑む。
「まだ泣くのは早いわよ、お父さん」
ささやいて組んでいた腕を解いて娘は、花婿の隣りに並んだ。
ぐっと奥歯を噛んで涙をこらえてチャペルの指定の椅子に座わる。
これからは俺の代わりに隣りをずっとあの男が歩んで行くのだと思うと、また万感の思いが込み上げる。
そして、またその子供へとそうやって続いていくのかと。
……自分達のように。
気がつくと母さんが笑いを噛み殺していた。
「なんだよ」
「だって、貴方。あんなに花婿にらんで」
にらんでるつもりはなかった。涙を耐えたせいでそう見えたらしいが、格好付かないので何も言えなかった。
夢見る少女のように
母親がまた恋をした。
私が知る限り父と別れてから5度目の恋だ。
恋は盲目というが、今度の男は最悪だった。
何があったか言いたくないし、思い出したくもない。
とにかく母も暴力を振るわれたしお金も持ってかれた。
母は泣いた、私を抱きしめて泣いたが、気づいてしまった。
夢見る少女のような瞳に。
あぁ、この人いま自分の不幸に浸ってるだけだなと。
案の定、別れた後も似たような男を選んだ。
私は逃げるようにして友達の家を転々とした。
母は、私を守ることを選ばずに男を選んだのだ。
その夢見る少女のような瞳で。
すれ違う瞳
初めは仲の良い友達で、次は仲の良い親友になった。
次第に共通の趣味に没頭し、小さい見栄が絡んだ些細なウソ事すら互いの秘密になった。
無言の約束、無言の誓い、無言の敬愛、無言の慈愛。
いつしかそれらはズレていく。
小さな不安感と小さな違和感、ささやかな嫉妬、ささやかな驕り。
いつのまにこんなに変わってしまったのだろう。
私も、貴女も。
過去の私を見てる貴女と、貴女に過去の面影を探す私。
決して交わらないすれ違いの瞳に、胸が苦しい。
bye bye…
ロミオメールというものがある、別れた男からの未練がましいメールやLINEの文章のことだ。
そんなロミオメールが届いたのは私が元彼と別れた半年後。
やれ、挨拶もなしにいきなり会いたいと言ってきたり、どれだけ愛してるか語られても。
気持ち悪いを通り越して逆に笑いのネタでしかない。
友達に困ったフリをしてスクショを送ると案の定、爆笑していた。
今は既読無視作戦中だ。
既に男や気になる奴がいるのか、とか色々送ってきては疑心暗鬼になってきている。
そして最後、
『bye bye…』
で、ようやく通知が途絶えホット一息つく。
やかましいわ。
一生私にかかわらず、自己陶酔に浸ってろよアホが。
君と見た景色
子供達が大きくなり、巣立った後には貴方と私の2人きり。
貴方はいつも家族旅行に行くと疲れたと言って、ホテルから出て行きませんでしたね。
思い出せば、お金もなく新婚旅行もしていなかった私達。
今日は2人きりの旅行で、普段からぐうたらな貴方が珍しく山に登ろうと誘ってくれたから。
頂上までゆっくりと2人で時間をかけて登っていく。
はじめて貴方と見た景色。
私は忘れませんよ。