"遠い鐘の音"
ウェストミンスターの鐘とか?
ビッグ・ベンは有名だよね。
学校のチャイムなんかにも採用されているメロディなんだけど、実物とチャイムの音を比べると近くて遠いというか、微妙に惜しいというか。
ビッグ・ベン鋳造当時は基準周波数高めが主流だったらしいから、今聞くとちょっと不思議な音をしているよね。
"夜空を越えて"
飛行機は窓側の席に座りたい派だ。
特に夜間から明け方にかけて、日をまたぐようなフライトの場合は。
雲の上、小さな窓越しに眺める外の景色。
暗闇から徐々に色味が変わっていき、光が射す瞬間。
夜空を越えて、新たな世界へ来た感じがする。
"ぬくもりの記憶"
大丈夫だよ。
子供なんて単純なものだからさ。
気紛れなぬくもりの記憶ひとつあれば、
あなたを憎まず生きてゆける。
それさえ与えられなかったら?
まぁ、お察しの通りだよね。
"雪原の先へ"
"凍える指先"
白々と輝きを纏う雪の大地に寝転がり、
薄く曇りがかった太陽に手を伸ばす。
けれども、凍える指先は空をつかむばかり。
どこまでも行ける気がした。
温もりを無くしていく身体を置いて、
どこまでも、どこまでも。
今でも時折夢を見る。
白く、冷たく覆われた雪原の先へと思いを馳せて、
いなくなりたい、と切実に願った日々のことを。
"白い吐息"
まだ微睡みに沈む街をのんびり歩く。
薄暗い中、人の気配のない道はちょっと特別感があるよね。
白い息を吐き出して冷たい空気を肺いっぱいに取り込むと、気分がスッとした。
いつも猫が屯している通りに差し掛かった時だった。
パチッと弾けるような音の後、大音量で流れる高音。
思わず耳を塞いだ。
辺りを見渡し、生け垣に隠れる様にして置かれた小さな機械を発見する。
猫避けの、超音波が出るタイプのやつ。
動くものを感知するとキーッという高い音が延々と続く、恐ろしい機械だ。
若干ふらつきながら足早にその場を後にした。
猫が集まることで迷惑する家もあるだろうから、猫避けを設置すること自体は仕方ないのかもしれない。
でもね、あれ、普通に聞こえる人もいるんだよ……。
とくに不意打ちでくらうとダメージが大きい。
まだ耳鳴りがする耳を押さえながら、通り道を変えるべきだろうか、とため息を吐いた。