アナタが大好きだよ。大好きだったよ。
でもアナタはもういいお相手がいるもんね。
そうやって、無理やり諦めたつもりでいたのに、アナタってそんな人だったんだ。
昨日の夜、明かりを灯したスマホが一件の通知を知らせた。そこに書かれている文字は「ねぇ」だった。
スマホに通知がかさなる。「お前のこと好きかも」
何?それ。アナタにはもう可愛い彼女がいるでしょ?
あぁ、そうなんだ。アナタってそういう人なんだ。
最低。そう思ったと同時に、チャンス。とも思った。
大好きなアナタじゃなくなったけど、アナタと一緒にいられるかもしれない。
でもなぁ、アナタに利用されたくはない。
だからさ、
「答えは、まだ」黒文字を打つ。
結婚も視野に入れてた彼に別れを告げられた。
ある夜。賑やかな居酒屋で、明るい雰囲気とアルコールの匂いに包まれながら「別れよう」だなんて。
何もわからないまま、次の日なんとなく仕事を休んで少し離れた場所にある汽車に乗った。
朝方の寒い空気が腫れた目にはちょうどよかった。
窓は結露していて、外は霧で覆われている。
知らない地名の切符を買ったから、どこを走ってるのか分からないけど、それでいい。
ねぇ、私今年で30になるんだ。
これからどうなると思う?結婚できるのかな?
そんな嫌な悩みが頭を埋め尽くす。
もういっそのこと霧に埋もれて消えてしまいたい。
汽車の中、冷たい空気に包まれた私は
これからどこに行くのだろう。
君と見上げる月。
初めての夜。私の部屋で君と1つになった日。窓から刺す月明かりが綺麗だったね。
私の頬を撫でて、深い口付けをしてくれた。
ねぇ、あの頃は良かったね。
今となっては私なんて都合のいい女。
君の呼ぶ時間に君の部屋に行って体を預ける。
君は終わるとすぐにどこかへ行ってしまうけど、私は何も知らないフリをする。
君の部屋に1人。月明かりがやけに眩しくて目に染みるの。
私、どうやったらあの頃に戻れるの?
お願い、もう一度だけでいいから。
私の部屋で綺麗な月を君と見上げたいの。
人といることがステータスだった。
途切れなく誰かといることが「人気者」で、クラスでのカーストも上位だった。
俺の人生に空白なんてない。空白なんて作ってしまえば、俺の肩書きは無くなってしまう。
いいよな。陰で生きてる奴らはそんなこと気にしなくて良いんだろ?
俺もそんな気楽に生きたかったよ。
でも、でも、俺は持ってしまったこの地位を手放すのが怖いんだ。
なぁ、誰か。
俺に空白の時間をくれよ。俺の隣にいて、何も話さず、何も干渉しない。
そうしたら、俺は肩書きも、空白も、手に入るんだ。
あなたがいなくなって、私の心は台風のよう。
台風が来たみたいに荒れてグチャグチャで、あらゆる傷を作った。
それでも時間が経てば台風は過ぎ去る。
台風が過ぎ去ったその現場は見るも絶えない。
瓦礫が積み重なり、木々は倒れ、土砂が流れる。
澄み切った空が忌々しくて、重たい体が動こうとしない。
ねぇ、帰ってきてよ。
台風による洪水で流された子供を救ったあなたは、私のことなんて考えていなかったでしょう?
そんなあなたが好きだった。
澄み切った空の下、あなたのお墓に花を添える。
台風の過ぎ去ったこの季節に。
まだ止まらぬ被害から、目を逸らすように。