宵風に吹かれたい

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11/29/2025, 5:38:27 AM

朝、目を覚まして窓の外を眺める。
霧が深くて遠くまでは見えないけど、子供達の楽しそうな声が聞こえる。
パリパリ、キャッキャッ、ザクザク。
霜が降ったんだなぁ。霜の降った葉や土を踏んで遊んでる光景が目に浮かぶ。

私も、外へ出たいな。
薬の作用で髪は抜け落ち、手足は痺れ、吐き気なんて毎日で。毎朝痛みで目を覚ましては絶望感に打ちのめされる。

あぁ、私も、あの地へ足を下ろしてみたい。
霜枯れしたように動かない体を憎む。

憎んだところで、霜は溶けない事を知りながら。

11/24/2025, 8:00:24 AM

今日は塾。明日はピアノ。明後日はバイト。
そうやって手放してきた時間が、私のためじゃない事くらい知っている。
母親の第二の人生のコマでしかない。
友達からの誘いも断って、全ての時間を将来に投資する。

後ろから聞こえる楽しそうな笑い声、グラウンドから聞こえる沢山の黄色い声援、体育館から聞こえるシューズが床を擦る音。青い春を見ないフリする。
いつの間にか耳に入るのは自分の孤独な足音だけ。

私が手放した時間には、いったいどれほどの青い春があっただろうか。
私の人生は母親の人生。失敗した母親のための人生。
母親のために手放した時間に、私はいない。

全ては母親のため、私は従順なコマとなる。

11/23/2025, 8:08:06 AM

色っぽい唇の紅が大好きだったよ。

キスをすれば移るし、食事の後は必ずお手洗いに行くけど、そんな君が大好きだった。

何年経っても僕とのデートではその紅を塗る。
お決まりのレストランで、お決まりのコース料理。
それでも君は喜んでくれる。
デート前に鏡の前で変わらない紅を塗る君。そんな君の準備を待つのが楽しいよ。

結婚して何年経ったかな?50年以上は経ってるかな?今年は1人。思い出のレストランにきたよ。

君の紅が僕に移らないなんて、僕には想像できなかったのにな。

11/22/2025, 1:23:53 AM

毎日、同じ夢を見る。
走っている誰かの後ろを追いかけようとする夢。
毎回追いつけずに目が覚める。

気づけば目からは涙が溢れ出していて、必死に何かを掴もうと虚空に手を伸ばしている。
「誰か」その「誰か」を見つけるために、断片的にしか再生されない夢を掴もうとしている。

待ってくれ。置いていかないでくれ。頼むから。
必死に記憶を巡っても出てくるのは後ろ姿の誰か。

なぁ。お前は一体誰なんだ。
誰かも分からないのに、なんでこんなに必死なんだ。

今日も、夢の断片でしかない「誰か」を必死に探している。

11/19/2025, 11:30:12 AM

心にぽっかりと穴が空いた。
とはよく使われる表現で、寂しいとか、苦しいとか、そういうのじゃない。ただ、ナニカが足りない。そういう心を表した言葉だ。

一気に寒くなったこの季節は孤独感が増す。
冷える指先に、まだ薄暗い朝に、冷たいシーツを1人で濡らす夜に、人肌が一段と恋しくなる。

それでも今日が来たら生きなきゃいけないから、冷たい水で顔を洗って表情を固めた。
いつの間にか涙が溢れることがないように。

外に出て一歩、一歩と歩き出す。
風が心に空いた穴を吹き抜けていく。

私を孤独だと言うように。

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