『秘密の手紙』
誰にも言わないでこっそりと綴ってきた手紙を
鍵付きの引き出しからそっと取り出した。
宛先はない手紙だけれど、気が向いた時は
私も知らない誰かに向けて言葉を連ねている。
私の心臓が止まった時、この手紙は燃え尽きて欲しい。
誰の目にも触れず、あの世へ一緒に持って行きたい。
でも、あなたになら読まれてもいいかもって、
最近はすこしだけ思ってるよ。
『冬の足音』
強い風が吹いて、イチョウが空に舞った。
足元では黄色の絨毯が出来上がっていて、
歩くたびにカサ、と音が鳴る。
今年も冬が来たなぁと、
凍りそうな手でマフラーを巻きながら思う。
『贈り物の中身』
差出人不明の荷物が届いた。
どうも怪しく思って、開けるのを躊躇ってしまった。
気付いたら届いてから1週間が経った。
でも、何故か開けなければならない感じがしたから、
カッターを取り出してダンボールを開けた。
1冊の日記のようなものが入っていた。
やはり名前は書いておらず、私宛で正しいかも不明。
それでも、なんとなくだけど、
これは未来の私からなのではないか、と思った。
書かれている字も、少し方言が入っている感じも、
私のような気がしてならない。
どういう仕組みかも分からないけれど、
きっと未来にいる私は生きていて、
今いなくなると未来にいる私も消えてしまうから、
とめようとしているのかなって、思った。
もう少しだけ、がんばってみようかな。
『凍てつく星空』
私が生まれた日は雪が降っていたらしい。
満天の星空が見えてたらいいなって思ったけど、
雪が降ってるんだから星が見えるはずがない。
最近決めたことがある。
もしも、
この世から私の大切なもの全部がなくなって、
ひとりぼっちになってしまったら、
誕生日の夜にはきれいな星空が見える場所で、
星を見ながら寝ようって。
きっと寒くないと思うんだ。
だって、大切なものが何もなくて、
既に心は凍ってしまっていると思うから。
きっと、空気は澄んでいて星はきれいだろうな。
『君と紡ぐ物語』
どうなるかも分からない未来を考えることが好き。
私はいつか、大きな家を買って、
私の大好きなものが詰まった家にするんだ。
音楽のお部屋を作って、グランドピアノを置くの。
そのお部屋の本棚にはたくさんの楽譜を並べるんだ。
他にもね、
壁一面本棚のお部屋を作って、書斎にしたいな。
このお部屋には小さな冷蔵庫でも置いて、
本とお酒を楽しめたらうれしい。
それでね、私の横にはいつもあなたがいるの。
おばあちゃんになってしわしわになっても、
ずーっと私だけを愛して欲しいな。
私の想像する未来に、
いつまでもあなたがいてくれますように。