揺れるキャンドルを支えて、足元の人に声をかけた。
「ねえ、これ揺れてるけどここで大丈夫?」
相手はこちらに見向きもせずに応える。
「あぁ大丈夫だ。とりあえず全部配置してくれ」
返事がテキトーだ。
僕は何となくやりきれない思いを抱いて、
脚立を降りていった。
足が地に着く安心感を味わいながら、
彼の元に近づき。
眩しく感じればいいと思ったから、
キャンドルを背に、彼を影に隠すように立つ。
光を絶たれて違和感を覚えた彼はこちらを振り返り、
案の定眩しそうに、
まるで昼寝から起きたばかりの猫のように目を細めた。
雪の静寂は重々しい。
窓の外ではどこまでも同じ色が積もっている。
白さが周りの音を吸って、
耳が痛くなるほどの静寂が襲う。
薄暗い雲と、さらに薄暗い室内から、
ぼんやりと外を眺め続ける。
雪を見るのは初めてで、
イスに膝立ちで窓の外を覗き込んでいた。
考えていたより怖い風景に、
あまりいい気分にはなれなかったが、
星になるんだと言われた。
適合手術を受けて、星のエネルギーを体内に貯蔵出来るようになるらしい。星のエネルギーって何だ。
この手術はほぼ違法の代物で、どこの認可も受けていない。
だから僕のような認可のいらない、身よりのない子供を買い集めたようだ。
改造したって本体の性能は変わらないだろうから、
手術を受けた僕が強くなるなんて有り得ない。
そう思っていたのに。
凍える指先でタップする。
薄暗い風が吹く中、電話番号をもう一度確認して、
勢いよく受話器のマークを押した。
きっかり3コール後に通じた電話に、
「ちょっと!助けてください西園寺さん!今僕追われてるんです!」
と叫んでみた。するとあくびを噛み殺した西園寺さんに、
「知らん。今何時だと思ってる?夜中の1時だ。良い子は寝ている時間だよ。俺は寝る」
と、無情にも電話は切られてしまった。
ここで諦めてしまうと彼は本当に寝てしまうので、
諦めずに電話をかけるべきなのを僕は学習している。
またきっかり3コール後に、
「景子くん。今度は何に巻き込まれたんだ?君は女性なのだから気をつけるべきだと、俺は散々忠告しただろう。それを無視したのだから、全て君に非がある。俺は今回は手伝わないぞ。」
「そんな〜。絶対西園寺さんが関心ある案件ですよ今回は。とりあえず話を聞いてみません?」
「君はそう言って、俺を何度も危ない目に巻き込んだだろう。今度は、」
消えない灯があればいいなと、考えたことある?
僕はある。
小さな頃に家中の電気が止まったことがあった。
ガス水道も同時に止まった。
何も知らなかった僕は、なぜ電気が止まったのか分からなかったが、ただ、暗闇の中、寒くて、心細くて、なんでもいいから灯りが欲しかったのを覚えている。
何も無くても燃え続ける消えない灯。