ピンチの時こそ笑顔を。
昔そう言った友だちがいた。
そのことは疎遠になってしまったけど、その当時何気なく言われた言葉を思い出した。
実際できてるかと言われたら全く出来ていない。
何故かというと余裕が無いから。
ピンチ、お終い、絶体絶命、そんな時に笑えるのか?
今はまだ出来ないけど、いつかはそうなれるようにちょっとだけ鏡に向かって笑ってみる。
うん、ぎこちないなぁ。
私の私だけの感情はどこにも書けない。
地位も立場もライン越えも関係なく。私の感情は私のものなのに。
私のこの思いは罪なのでしょうか。
こんなのは間違っているのでしょうか。
こうして口をつぐむのに慣れてしまうと、言葉が消えていってしまう。
どうか、貴方だけの言葉を消さないで。
チクタク
腕時計の針を回してみる。くるりと通常とは逆向きに回し、どんどん過去を遡る。
現実には時は変わらないけれど、この腕時計の中には私だけの時間が存在するのだ。
そうだよね、貴方は反対するよね。
でもね、こうでもしないと貴方を守れないじゃない。
貴方は俺が何とかするからって言うけど、そうしたら貴方が傷付いてしまう。
あたしはね、もう守られてばかりは嫌なの。
貴方が傷付くぐらいならあたしがやってやる。
あたしがこれからすることに文句ばかり言う貴方の首に腕を絡ませて物理的に口を塞ぐ。
驚いて隙ができた貴方を逃がさないように、まるで愛し合う恋人たちのように。
漸く腕を放すと呆然とした貴方の顔。余りにもポカンとした顔で笑ってしまった。
そうだよね、あたしたち恋人でも何でもないもんね。
どうして、と呟いた貴方はバランスを崩して勢いよく倒れた。
口付けと共に送った即効性の睡眠薬、効いてきたみたい。
これで邪魔は無し。
憂も無くなったあたしはドアノブに手をかける。
「生き延びなさいよ」
眠気に負けまいとする貴方に吐き捨てるように言ってドアを閉じた。
最期のキスを貴方に。
途方もない。
そんなものが続くわけが無い、わかってるんだよ。いつかは消えるんだ。
学校だっていつまでも続くわけが無い、会社勤めだって永遠では無い。ましてや生命は有限だ。
なのにどうして貴方とのいまは消えてほしくないって思うの。ずっとずっと、それこそ10年、100年、1000年続いたって構わない。
あなたとなら些細な時間だよ。