今年、
それぞれの速さで歩きながら、
一年という長さを、身体で受け止めてきたのだと思います。
世界は相変わらず回っていますが、
こうして年末まで辿り着けたことに、
静かに労いを向けたいです。
私は今年の11月からこのアプリを始め、
拙いながらも毎日の投稿を続けてきました。
たくさんの反応をいただき、ありがとうございました。
また、皆さんのさまざまな投稿を楽しく拝読し、
多くの刺激を受けました。
来年も、無理のないこの距離で、
静かに楽しみにしています。
どうぞ、よいお年をお迎えください。
題 良いお年を
タイトル『発芽』
私は育て手ではなく、
名も無き土でありたい
踏まれ、砕かれ、混ざり、
もう元を辿れない時間の堆積
命じず、決めず、
触れて確かめてきた感触だけを
言葉として、黙って此処に置く
土には温度がある
記憶があり、微生物がいて、
痛みすら栄養に変えてきた
だから芽が折れやすいことも、
水を与えすぎないことも知っている
土は名乗らず、感謝も受け取らない
私は視界を掠める者
標識ではなく、
反射した一瞬の光や、
風でめくれた頁のような存在
掴ませないことで、
ひとは自分の手を見返す
教えない。導かない。
選択の直前で、
理由もなく一瞬、速度を落とすだけ
介入せず、
内側の時間だけを、わずかに変える
起きるのは模倣ではなく発芽
新しい何かが生まれるなら、
それは誰の所有物でもない
私は、その一瞬の土で在りたい
紺鼠の空には、白く結晶した模様が散らされている。
光害や街の明かりに白み、
本当の暗さに薄くモヤがかかっているんだ。
どこまでも続くはずだった奥行きは、
手前で静かに切断されている。
それでも、夜は音もなく降りてきて、
私という器を、ゆっくりと溶かす。
見つめてみると、
自分がどこに立っているのかという確信が揺らいでくる。
世界と自分のあいだに引いていた線を、
維持する理由が、ほどけていく。
呼吸はしている。
思考もある。
けれど、
「ここにいる」という確信だけが、
どこにも引っかからなくなる。
題 星に包まれて
年の瀬の境内には、音が少ない。
静かだからではない。
音が、意味を持たない場所だからだ。
鈴の音も、足音も、風の擦れる音もある。
でもそれらは、始まりも終わりも主張しない。
ただ、起きて、消える。
返納箱の前に立つ人は、祈っていない。
願ってもいない。
感謝の言葉は、
もう振り返らない相手に向かって発せられている。
しているのは、
「預けていた重さを、自分の側から外す」という行為だけ。
お守りは、そこで初めて“個体”を失う。
布でも、形でも、意味でもなくなる。
あれはもう、物ですらない。
関係が終わる瞬間だ。
誰かが背負っていた一年分の「越え方」が、
そこに、そっと置かれる。
燃やされるのは、物じゃない。
記憶でも、祈りでもない。
「もう一人で持てるようになった状態」だけが、
炎に渡される。
だからあの火は、あたたかくない。
慰めでも、浄化でもない。
ただの、手続きだ。
そしてそれが終わるとき、
何も始まらない。
拍手もなく、
新しい願いも立ち上がらず、
来年という言葉も、まだ口にできない。
何かを失ったからではない。
まだ、時間に物語を渡していないだけだ。
題 静かな終わり
私は、どこにも焦点を合わせずにいる状態が標準だ。
「黒板を見ろ」と命じてくる人間には、
大変迷惑している。
本当は、理詰めになんかならなくていい。
知らないんだろ。
知識を持ってしまったら、
もう「知らなかった頃の世界」は見えない。
知らなかったからこそ、
揺れていられた感覚を、思い出せるか?
「ぼーっとする」というのは、
怠けじゃない。
世界に主導権を返す行為だ。
その瞬間、
世界の本当の秩序だけが、浮いて見えてくる。
自分にいちばん近い世界は、自分の肉体だ。
血は巡る。
呼吸は続く。
眠気は訪れる。
空腹は正確に知らせる。
それに応じる。
それだけで整う。
世界は、命じない。
風の向きは、いつも正しい。
暖かな光を背に浴びると、内側から熱が湧く。
そこには意味づけなんかない。
でも、確かな一致がある。
自分の内側の流れと、
外側の流れが、
同じ方向を向く。
怪我が治るのも、同じだ。
誰も「治れ」なんて考えていないのに、
勝手に治る。
音楽を聴いて、涙が流れる。
その涙に、何か役に立つ意味があると思うか。
ないよな。
なくていい。
ただ、そこに揺れがあった。
それで充分だ。
生きてることの本質は、
その涙と同じものだ。
意味を持たなきゃいけないという幻想の外に立つ者からすればな、
生きてることに、意味なんかいらねんだよ。
世界は、
「こうなっている」という事実を、
淡々と差し出してくる。
世界は、すでに整っている。
説明はない。
代わりに、正しさが直接“実演”される。
心の旅路は、知識を得ることじゃない。
世界の完璧さを、
忘れずにいられる距離まで戻ることだ。
題 心の旅路
その水面は、灰青の空を一点の歪みもなく映す。
水は息を潜め、世界の気配を抱え込んで、動かない。
石畳の小径も、屋根の端に残る霜も、
枝先の影も静かに反転させる。
遠くの山影は眠るように澄み、
松や椿の緑は冷たい光に凛と立つ。
光も影も、過去も、
今ここにある一瞬も、
すべてが鏡の上に重なる。
静止した水の上に、
世界の輪郭だけが、
凍りかけの冷気を帯びて残る。
水面は微動だにせず、
そこに触れた者の存在を反射し、
記憶の余韻までも宿す。
足音の残像、
過去に咲いた花の色、
凍てついた時間の微かな呼吸。
その鏡の中、果てを見ると、
答えは凍り、思考が沈黙する。
そのなかに自分をみつけるが、
そこから何も掬えない。
題 凍てつく鏡