蓼 つづみ

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2/4/2026, 10:41:05 AM

君の息が触れる距離では、
僕の虚勢はもう役に立たない。
「ねえ」と呼ぶ代わりに、
君はわざと視線を外し、
子どもみたいな顔のまま、
ひどく大人びた沈黙を差し出した。
これは恋なのか、
互いにまだ名前を決めきれないまま。
ただ、友達という言葉にも
どこか収まりきらず、
笑って誤魔化したあと、
行き場をなくした鼓動だけが
妙に正直な足取りで近づいてくる。
背徳は、思ったより静かだった。
似合わない大人のふりを、
ふたりでそっと真似しているみたいに。
ただ呼吸だけが
わずかに速さを変え、
触れていい理由を探しはじめる。
「ねえ……
これ、あとで困るやつだよね
…やめる?」
そう言って、
君は境界線に片足を乗せる。
名前も、関係も、役割も、
まだ保留のまま。
言葉の代わりに
体温だけがゆっくり流れ込む。
それは誓いでも未来でもない。
終電のない夜に生まれた、
明日へ持ち越せない衝動。
少し息が詰まりそうで、
それでも確かに
生きていると知るための距離。
唇が離れると、
何も決まっていない関係は
また曖昧な輪郭へ戻っていく。
けれど、ほんのさっき確かに
君と僕は、名前のないまま
同じ温度を悟ってしまった。
だから、もう一度だけ。
ラベルのないまま、
境界線の上で、
そっと — Kiss.

題 Kiss

2/3/2026, 11:16:29 AM

待て。焦るな。
人の群れが速すぎるだけだ。
あと百年もすれば、皆死ぬ。

名前も、声も、
昨日までの怒りも、
きょうの予定も。

君も死ぬ。
俺も死ぬ。
その順番に意味はない。

石は残るが、
石を見上げた目は残らない。

言葉は写されるが、
それを言った喉の温度は残らない。

それでも、
朝は来て、
靴は減り、
誰かはまた立ち止まる。

千年先も、それは同じだ。
生まれて、
混ざって、
消える。

だから今、
急ぐ理由はそんなに多くない。
遅れても、
間違えても、
世界の帳尻は、いつも別のところで合う。

題 1000年先も

2/3/2026, 12:24:40 AM

朝、靴ひもを結ぶ
考えずとも
指先は先に、交わりを覚えている

結び目は
今日も同じ高さで止まり
理由はもう、残らない

丘へ向かう道の端
踏まれずに残る
名も呼ばれぬ青

それを見たかどうか
確かめる間もなく
足は自然に進んでいく

誰に教わったのか
もう思い出せない

それでも
立ち止まらなかったことだけは
確かに、ここにある

それは頭で覚えている記憶ではなく、
身体と感覚に刻まれた
忘れないものの場所。

題 勿忘草(わすれなぐさ)

2/2/2026, 12:24:51 AM

高くこぐと、きりん公園は少しかたむいて、
ぼくをつつむ風だけが、つよくかわる。

それがおもしろくて、また足をのばす。

よくゆれるから、きょうも左から三ばん目がいい。

だれに話しかけてみても、へんじはない。
でも、あの子とは きのう、目があった。

さいきんは、
じぶんがいるかどうかは、もう気にしてない。

太陽がのぼってくる。
ぼくのかげは、うすくなる。

もっと明るくなると、
あの猫が来るから、少したいくつじゃなくなる。

地面に足がとどきそうになるたび、
すこしだけ、せかいのほうが とおざかる。

右のくつをとばしたら、
遠くまでとんで、
かた足でケンケンして こけたけど、
いたくなかった。

くつの向きは、晴れのほうへ ころがった。

題 ブランコ

1/31/2026, 9:10:19 PM

名札を伏せたまま
抱えてきた沈黙が
今さら重力を主張する

守るふりをして
実は閉じ込めていたのは
他でもない この衝動だ

予測不能な明日が
背中を押すなら
もう弁解は要らない

制御不能なものほど
欲望のふりをして
倫理の仮面を剥ぐ

触れずにいられる距離は
清潔だが
清潔すぎて呼吸ができない

奪う想像は
容易で
容易すぎて 吐き気がする

それでも
温度のない正しさより
濁った許容に沈みたい

説明を免除される白
裁定を下さない光
そこに身を預けることを
堕落と呼ぶなら 喜んで

幼さは否定する
だが
諦観までは差し出さない

これは共有ではない
これは反抗でもない
ただ
ここに残す 未回収の熱だ

題 旅路の果てに

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