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11/3/2025, 7:29:18 AM

 ちょっとした小悩みがある。
 
 小さい頃、虫や蝶をとるのが楽しみだった。捕まえると、その美しい羽や形をじっくりと観察する。そのうち標本というものがあるのを知った。美しい姿をそのまま残せるなんてと標本を作り始めた。上手に作るのは、なかなか大変だけれど夢中になった。

 大人になって、自分で作らなくなっても標本を見るのは好きだった。博物館などで機会があれば、時を忘れて見入った。
 
 でも、仲の良いあの人は虫が苦手だ。秋の枯葉が舞う公園を一緒に散歩している時、トンボが横切っただけでもビクビクしている。
 
 ああ、もっと親しくなって家に来ることがあったら。あの引き出しに、大切な標本がひとつ入っている。あれを見たらなんて言うだろうか。自分のことを嫌いになってしまうのではないか。
 そのことがずっと気がかりなのだ。


「秘密の標本」

11/2/2025, 6:51:42 AM

 手袋を片方よく落とす。凍えるような寒い朝なのにまた落としてしまった。手袋の手に荷物を持ち、片方の手はポケットに入れて歩く。

 冴えた空気の中、日差しは強い。長いコートに大きめの紐履、まるでペンギンのような影ができている。ペンギンがペタペタ歩いている。今日は、会うかな?と思っていると、「おはよう」と声がして、もうひとつ影が並んだ。

 「そんな格好していると、転ぶよ」。「手袋落としたから」。「また? よく落とすよねえ」。何だか自分でも腹ただしくなってきて、思わず足を早めた。すると、隣に伸びる影からすっと手が伸びてきて肘を掴まれた。ポケットから出た手を手袋の手が包む。「特別に今日は手を掴んでいいよ」と言う。

 「貸してくれるんじゃないの?」。「こっちが寒いでしょ」。手袋の手は大きくて、とてもあたたかかった。この人は、時々こんなずるいことをするんだと思いながらも、つい笑ってしまった。


「凍える朝」

11/1/2025, 9:47:38 AM

 あの時君は、その人のことを光のようだと思っていたのではないか。それならば自分は影かななんて。
 
 光には、必ず後ろに影がある。もしかしたら、光のように思っているその人が、君のことを光だと思っているかもしれない。誰かが光で、他の誰かがその人の影なんかではない。
 
 たとえ、どんなに光輝いているかのように見えても、その人の一面でしかない。もしもその時、光が当たっていたとしても、その人の心のうちはわからない。そんな中でも、ずっと自分の影の部分を見つめているのかもしれないのだから。

 みんな光と影の部分でバランスをとっている。それぞれ違う。どれがすごいとか優れているとか、だめだとか、そんなことでもない。
 

「光と影」

10/31/2025, 8:17:52 AM

 あなたは、今もこの道でがんばっていると思っている? 新しい道へ行くと言って、離れていったのだから。
 
 すごくやりがいがあって楽しかった。でも、無理をし過ぎて、もう見るのも嫌になってしまった。それからは、まったく違うことをした。頭の片隅には、置いてきてしまった思いがずっとあった。

 ほかのことを始めてみても、なんだかんだでその道はよく進まなくなった。不思議なくらい弊害がきた。きっと心の奥底では、そのことを本当にしたいと思ってないのだ。やらなくてはと義務的に思っているだけなのかもしれない。

 また、心の片隅に追いやっていたことを始めてみようと思った。うまくいこうといくまいと、心の底から楽しんでいたい。
 
 そして、あなたにまた会うことがあったら、続けているよと笑顔で伝えたい。


「そして、」

10/30/2025, 7:24:41 AM

日が暮れるのが早くなった。しかも日差しがなくなると、一気に風も冷たく感じる。強く吹き付ける風に、思わず下を向くと、前方の暗がりにぽつぽつと灯りが見える。ゆるゆると動く灯りに照らされていたのは、ワンコだった。

 首輪についた灯りが、顔の辺りをぼーっと照らしている。暗闇に馴染む色合いなので姿形がわかりにくかったが、よく見ると頭の部分がもふもふと大きく、体のほうがほっそりとしている。
 
 気づくと、その大きな目がこちらをじっと見ていた。吠えるでもなく、しっぽを振るわけでもなく、ただただ見つめられている。というより、すっかりその態勢で固まっている。
 
 飼い主さんが、「行くよ」といいながらリードをひく。それでも動かない。私が横を通り過ぎる時もじーっと見ている。かわいい。思わず声が出そうになる。大きな目とそのもふもふの頭のバランスが良すぎた。近寄りたくなるのを我慢して通り過ぎた。

 それだけだけど、寒風の中ほっと心が温まった。散歩中のワンコに出合うのは、私の密かな楽しみなのだ。


「tiny love」

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