何が原因かわからないけれど、ずーんと落ち込むことがある。きっと小さな何かが一つ一つ心の奥に沈んでいって、それがいっぱいになった時、ああもう限界となる。
そんな時は、何もかもが刺々しく感じる。今日会った人、街で会う知らない人、お店で出会う人
、目に入る景色、自分、すべてがなじまない。もう、人としているのが嫌になって、どんよりと狭いグレーの世界に入っている。
とことんグレーの空気をまとっていると、ある時、ふぅっと抜け出すときがある。知らない人の何気ないひと言、たわいもない会話、接してくれた人の笑顔だったりする。
抵抗しても、温かいものがじわじわとグレーの世界に広がってくる。こんなに自分を含めて人は嫌と思っていたのに、人から感じるぬくもりは、悔しいほど効果てきめんだった。
「ぬくもりの記憶」
指先が出ていないと何かと不便なことがある。いちいち手袋を外すのが面倒で、指先が出ている手袋を買ってみた。甲の部分にカバーがついていて、被せると一見ミトンのようになる。必要な時は、カバーを外して手先を使う。
これはとても便利かもと思っていたのだけれど、なんだかカバーを被せても冷える気がする。指先の部分をスースーと風が抜ける感じがするのだ。素材のせいというわけでもなさそうだ。同じ素材の普通の手袋だと温かく感じる。やはり指先をぴったり覆わないと寒いのだろうか。
指先には、色々と繊細な感覚があるのかもしれない。そんなわけで、今はもとの普通の手袋を使っている。やっぱり五本の指一本一本がすっぽり覆われるのは、温かいのだなとあらためて思う。
「凍える指先」
雪は積もることもあったけれど、サラサラとした雪を見たのは、スキー場に行った時がはじめてだった。どこまでも続く白い雪。雪がこんなに眩しいということもはじめて知った。
サラサラと一粒一粒は軽いのに、踏み締めるとサクッサクッと硬い。リフトで登っていくと、さらにその奥は真っ白な世界が広がっていた。
日差しがさして、さらに眩しい。白く彩られた木々。山の勾配は雪で角がそがれ、ふんわりとした厚い層がずっと続く。その雪原の先に向けて、ぶらぶらした足をぐんと伸ばしてみる。白い世界にスキーの板ごと吸い込まれていきそうだった。
「雪原の先へ」
あれ? すぐと言っていたのに来ない。駅を出て、冷たい空気に包まれている。吐く息が白い。今日は、かなり冷えている。はぁーっと何度か息を吐いてみる。白いもやが顔を囲んですぐ消えていく。子どもの頃は、よくこうやって遊んだなと思う。
映画やドラマで白い息を吐きながら、セリフを言っているのを見ると、なんだかムードがあるな思う。きっと俳優さんたちは、寒くて大変なんだろうけれど、頬を寒さで紅くしながら、白いもやに包まれるのがいい。そのシーンをより盛り上げている気がする。
ごめーん、と言いながら君が走ってくるのが見える。頬がほんのり紅くなって、白い息を吐きながらくる姿に、待ったのなんて全然気にならなくなる。
「白い吐息」
長年の習慣で、すっかり寝るのが遅くなっている。夜型なんだと勝手に思って夜更かししていた。でも体の不調があるのは、やっぱり早寝早起きしたほうがいいということだろう。
少しでも早く寝ようと電気を消して横になる。なんだか目が冴えてなかなか眠れない。だいぶたっても一向に眠れないので、カーテンをちらっと開けて外を眺めてみる。
遠くに見えるマンションの部屋の灯りが、何箇所かポツポツとついている。少ないけれど、まだ起きている人がいるようだ。なんだか仲間がいるようでほっとする。この部屋も誰かから、まだ電気がついているなと思われていたのだろうか。
カーテンを少し開けただけで、窓の外の冷気が伝わってくる。しっかりと端まで閉めて、また横になる。少しずつでもいいから生活のリズムを整えていこう。眠れなくても目を閉じていよう…。
「消えない灯り」