秘密の手紙
昔辛いことがある度に手紙を書いていた。
宛先不明。
誰にも届かないそれに、忘れたいと念を込めて。
そんな何十、何百にも及ぶ手紙を
部屋の掃除をしているときに見つけた。
いつもは開けない押し入れの奥底。
使い古されたような箱の中。
もう何年も前の手紙。
だから、開けてみようと思った。
大量の便箋。そのひとつを手に取り開封する。
その手紙には所々水滴の跡のようなものがあった。
泣いたのだろうか、この手紙を書いているときに。
最後まで読んでも
その時の自分の気持ちが私にはわからなかった。
もう過ぎたことだから。
今の私には辛かったという記憶しか残っていない。
何がどうとは説明できない。
そっか。
誰にも理解されないってわかっていたから
自分の中で消化しようとした。
でも消化しきれないから手紙にして
自分の思いを吐き出そうとしたんだ。
また、笑うために。
また、人と関わるために。
また、自分らしくいるために。
冬の足音
冬に飲む水が好き。
とても冷たいのだけれど、
お風呂上がりに飲むと生きていると実感する。
冬に見る星が好き。
冬の夜空はとても澄んでいて、
世界は広いのだろうと何故か感じてしまう。
冬に入る電気毛布が好き。
最初は冷たいのだけれど、
入っているとだんだん暖かくなる優しい熱。
冬に食べるみかんが好き。
コタツに入って食べていると、
いつの間にか手が黄色くなっているんだよね。
これ全部、冬だから味わえる「好き」なんだ。
冬は今日本に遊びに来ている。
いつまで日本にいるんだろうか。
冬がきた痕跡をたくさん残して行って欲しいね。
凍てつく星空
田舎に住んでいた。
だから毎日綺麗な星空を見ていた。
でも都会の方はそうではないことを知った。
あまりにの違いにびっくりしたな。
なんにも見えないんだ、本当に。
だからかな。
都会に出ると夜はいつも寂しい。
学校帰りの夜空はただずっと暗かった。
飲み込まれそうなほどに。
実家に帰った夜。
ふと空を見上げると一面に星が広がっていた。
広く、強く光る星々。
懐かしさと少しの肌寒さ。
星座なんて全く分からない。
どれがなんの星かなんて全く知らない。
でも、誰が見ようと皆が綺麗だと言うのだろう。
自分も恒星のように誰かを照らす人になれたら。
なれたらいいなと、思ってしまうんだ。
霜降る朝
朝は苦手。夏も冬も関係ない。
でも寒いと起きるのがもっとキツくなるから、
朝はいつも少し暖かくなった時間に家を出る。
でも今日は何故か早くに目が覚めた。
二度寝もなんだかできなくて、
仕方なく体を起こしてストーブをつける。
市販の缶コーヒーをコップへ注ぎなおし、牛乳も入れ、
無糖ラテをつくる。
ブラックのままでも美味しいけれど、
今日は少し贅沢に。
沢山服を着込んだあとは、
少しだけ窓を開けて朝の匂いを嗅ぐ。
「冬らしい匂いだ」
朝は苦手。夏も冬も関係ない。
でも寒くなった朝に飲む無糖ラテ、
ストーブの何とも言えない匂い。
冬らしい朝もたまにはいいと思う。
心の深呼吸
君の前に立つといつも少しだけ緊張する。
それは多分、君に嫌われるのが怖いからだ。
わかっている。
君は人を簡単に好いたり嫌ったりしない。
でも。
だから怖い。
気づかないうちに嫌われて
ハブられてしまうことが昔もあった。
どんなに顔色を伺っても
一度間違えばそれで全てが終わってしまう。
嫌われたくない。
君には嫌われたくない。
「大丈夫だよ」
私の心を読んだかのように君がそう言う。
「大丈夫、明日も明後日も多分晴れ」
あぁ、一緒に出かける話をしていたんだった。
「じゃあ折角だし2日とも遊びに行く?」
「えー!行きたい!」
ビデオ通話で映る君の顔は笑顔でいっぱいになった。
「ふふっ」
「どうしたの?そんなに笑って」
「私ね思うんだ。貴方といる時すごく幸せだって」
「だからね、大丈夫だよ。ずっと一緒!」
君の笑顔が眩しくて、
少しの深呼吸をした後、一番の笑顔で笑った。