グニャリと曲がった校門前の枯れ木達。
地面には、沢山の枯葉が落ちている。
元々これが桜の木だったなんて信じられない。
大気汚染が、こんなにもひどくなるなんて……。
今では外へ出る時は、必ずガスマスクが必要になっている。
だが、この町の大気汚染数値が基準値の倍になり、もう住めなくなってしまった。
「なにしてるの?早く行くわよ!」
お母さんに呼ばれ、止めていた足を再び動かす。
まだ卒業まで通っていない学校を後に、住み慣れた町から離れた。
空のあちこちに浮かぶ、光り輝く星々。
月は雲に隠れながらこっちを見ていた。
あと少しで、今日が終わってしまう。
子供の頃は一日が長く感じたが、大人になってから一日が短くなった気がする。
明日になれば再び今日は訪れない。
もう少し、一日が長くなればいいのにと思う。
そうすれば、もっと色んなことが出来るから。
……まぁ、そんなことを考えても時間だけが過ぎ、今日が終わる。
考えてる間の時間ぐらい、止まってくれよ。
スマホの時計を見ると、今日が終わるまで一分もない。
せめて、今日に別れの挨拶だけしておこう。
今日にさよなら。また明日。
自室の床に置かれた無数の段ボール。
今日は仕事が休みなので、部屋の掃除を兼ねて断捨離することにした。
ある程度、いらない物を段ボールに詰め終わり、残るは……。
目の前の白いクローゼットと目が合う。
多分、約一年ぐらい開けていない。
いや、開けたら当時のことを思い出してしまうから、開けないようにしていたのだ。
覚悟を決め、クローゼットを開ける。
中には、沢山の可愛い服とスカートが眠っていた。
どれも全て、お気に入りだった服達だ。
……当時付き合っていた彼氏との思い出の服でもある。
出来るだけ見ないようにして服とスカートを掴み、サッと段ボールへ入れていく。
この服は確かデートで着た時の……このスカートは彼氏が似合うって褒めてくれたなぁ……。
だめだめ!思い出すな私!過去に囚われるな!
両手で一気に服達を抱き締め、クローゼットから取り出して段ボールへ投げ込む。
……よし、これで全部。
段ボールの蓋を閉じ、ガムテープを貼った。
どっと疲れが出てきて、段ボールを椅子代わりにして座る。
目の前には、中が空になったクローゼット。
私の心の中も、今こんな感じなのだろう。
……また、新しい恋が見つかるよね、きっと。
しばらくの間、何も入っていないクローゼットの中を、ぼーっと見ていた。
君のことを誰よりも愛しているよ。
えっ?証拠を見せてほしいって?
そうだな……。
君のことを好きだと言っている奴らを消してくるよ。
そうすれば、誰よりも愛しているって証拠になるし、君のことが好きなのは俺だけになる。
我ながらいい考えで一石二鳥じゃないか。
えっ?人を殺すのは怖くないかって?
ああ、怖くないね。
さっきも言っただろ?俺は君のことを誰よりも愛している。
君を手に入れるためなら、人殺しだってするさ。
……どうしてそんな悲しい顔をするんだ?
えっ?そんなことをする人とは思わなかったって?
だって君が証拠を見せてほしいって言うから……。
あっ!ま、待ってくれ!逃げないでくれ!
俺は君のことを!誰よりも!愛しているんだ!
どれだけ追いかけても、君はどんどん離れていき、手を伸ばしても届かなくなった。
郵便受けに入っていた一枚の手紙。
送り主は……私から?
おかしい、私は自分に手紙を書いた覚えはない。
新手のいたずらか詐欺だろうか?
恐る恐る手紙を開けて読んでみる。
"これを読んでいるってことは、無事に届いたってことね。私は10年後の私よ。10年後は、過去の自分に手紙を送る逆タイムカプセルが流行っているの。この手紙を送ったのには理由があって、それは……"
思わず、生唾を飲み込む。
10年後の私は、何を伝えるためにこの手紙を送ったのだろう?
覚悟を決め、続きを読む。
"10年後の私はイボ痔になってしまったから、過去の私はイボ痔にならないように、しっかりお尻を洗ってね!"
……なんじゃそりゃ。
わざわざそんなことを知らせるために、10年前の私に手紙を送るなんて……。
もっと、伝えることあるんじゃないの?
まぁ……イボ痔は嫌だし、気をつけておこう。
この日から、私はお尻をいつもよりしっかり洗うことを心掛けた。