薄暗い部屋で静かに火が灯るランタン。
壁には、若い時の私の影が映っている。
あの頃はヤンチャで色々好き勝手にやっていたな。
懐かしい記憶が、次々と蘇っていく。
しばらくすると、影は形を変え、太っていた中年時代の影になる。
好きな物を食べ、酒をよく飲み、女遊びをよくしていたな。
女の影が現れ、ビンタされて、痛がる私の影。
……遊び過ぎて、当時付き合っていた彼女にフラレたことを思い出す。
それから新しい彼女は出来ず、ずっと独身のままだ。
影はまた形を変え、現在の顎髭の伸ばした老人の私になる。
懐かしい記憶を見せてくれるというランタン。
色んな記憶を見せてくれたおかげで、沢山思い出したよ。
もう、心残りは……ない。
忘れないうちに、行くとしよう。
私は目を瞑り、あの世へと出発した
冬へ
どうして急に寒くなるのですか?
寒くなったと思ったら、気温を上げて暑くしないで下さい。
服装に困るし、気温差で体調が悪くなっちゃいます。
寒くなるなら寒くなるで、気温は下げたままで上げないで下さい。
今年も冬に手紙を送ったが、相変わらず返事が来ない。
冬はきっと、すごく冷たい奴にちがいない。
そう考えながら空を見ていると、冷たい風がヒュ〜と吹いた。
夜空に浮かんだ真ん丸の満月。
俺達が住む世界をじーっと眺めている。
「今日のお月様、すごく綺麗だね」
夜空を見上げながら言う彼女。
月の光に照らされた彼女は、月に負けないぐらい綺麗だ。
「どうしたの?私のこと、じーっと見て」
「月より君の方が綺麗だなぁって思ってさ」
「んもー!やだー!恥ずかしい!」
そう言って俺の肩を叩く彼女。
力が入っていて、まぁまぁ痛い。
多分、照れ隠しだろう。
「でも、君もかっこいいよ?」
「えっ――」
言い返そうとした瞬間、彼女の顔が近づいてきて、唇を重ねられ、塞がれる。
俺達は月の光に照らされながら、二人の世界へ入っていった。
空からこぼれ落ちてくる木漏れ日。
光を浴びた花と草は、元気よく背を伸ばしていた。
俺も元気を分けてもらうべく、花と草に混ざって光を浴びる。
「んー……」
思わず背伸びをしてしまう。
自然の中で浴びる太陽の光は気持ちいい。
心が穏やかになるし、パワーが貰える。
その証拠が、足元に生えている立派に育った花と草だ。
仕事で疲れた時やストレスが溜まった時に、こうして自然の中へ来るようにしている。
やはり、自然に触れるのが一番いいと思う。
もう少し、このまま光を浴びていよう。
時間を忘れて、自然の空気と太陽の光をたっぷり堪能した。
授業が終わり、一気に賑やかになる教室。
席を立ち、幼馴染みの席へ向かう。
「ねぇねぇ、今日は一緒に帰ろ?」
「ん?ああ、分かった」
あくびしながら答える幼馴染み。
猫があくびしたみたいな顔で可愛い。
ささやかな約束をして、席へ戻った。
放課後、幼馴染みと一緒に帰ろうとしたけど……担任から用があるから職員室まで来てほしいと言われてしまう。
「ごめん。職員室に行かないといけなくなっちゃったから、先に帰っていいよ」
「ん?ああ……ふあ~~あ」
背伸びしながら、大きなあくびをする幼馴染み。
昨晩、ゲームに熱中し過ぎて夜更かししたらしい。
幼馴染みにバイバイして、職員室へ向かった。
窓の外はもうすっかりオレンジ色。
用はすぐに終わったけど、別の話をしていたら結構時間が経ってしまった。
暗くなる前に早く帰らないと……。
下駄箱に着くと、出口に長い影が伸びていた。
影の持ち主は……幼馴染み。
先に帰っていいよって言ったはずなのに、どうして?
「まだ帰ってなかったの?」
「ん?ああ……あれからまた寝ちゃってな。気がついたら夕方になってて、今から帰るところ。一緒に帰るか?」
幼馴染みはそう言って、わざとらしいあくびをする。
もしかして、私のこと待っててくれたのかな?
だとしたら、すごくうれしい。
幼馴染みの元へ、小走りで向かう。
「うん、一緒に帰ろっ」
外へ出ると、夕陽が私達のことを遠くから見ていた。
地面には、私と幼馴染みの影が並んで伸びている。
うれしくてはしゃぎたい気持ちを抑えながら、幼馴染みと一緒に帰路に着いた。