紅の記憶
母の鏡台に置かれた金色の口紅
見様見真似で紅を巻き上げ
鏡の中の自分を覗き込む
禁断の衣を纏っているそれは
内緒で触ることも憚られる大人のアイテム
鏡越しの想像だけでドキドキが止まらない
我が家の洗面台に放置された
色とりどりのリップスティック
孫がお顔にお絵描き 無邪気に遊んでいる
ただ塗るだけのメイク道具
この色いいと一本手に取り唇にのせた
紅をさす…と呼ぶにはどこか相応しくない
何かが足りない
あの口紅の記憶が鮮明過ぎて
夢の断片
世界中で悪夢を食べ過ぎたバクが続出
消化不良でドクターストップがかかってるってニュースに出てた
どうりで
最近嫌な夢ばかり細切れで見るんだよ
あいつらの食べ残した夢の断片ってわけか
そう言えば誰もが夢を見られる世界を創りたいって五代さんが叫んでいたなあ
それって皆んなが今を生き生きと過ごし明日を思い描く気運を創り出すってことだよね
そろそろ俺たちも変わる努力をしないと
この世を他人任せ心をバク任せにし過ぎてきた警告かもね
この夢の断片は
見えない未来へ
椰子の木の周りをぐるるるる…
うなりながらまわっていたトラが
バターになっちゃう
3歳の私はちびくろさんぼのお話に夢中
バターバター黄色くてトロッと美味しそう
すくって食べたい幼子の憧れトラバター
お話の中の食べ物は突拍子もなく非現実で
見えない未来へ掻き立てられる
だってこの頃バターなんて知らなかったし
ホットケーキもなかったから
おやつはおばあちゃんのきな粉おにぎり
それから数年経ったある日
船乗りの伯父ちゃんがヨーロッパから帰国した
土産は何とバターだった
それは円い缶入りで、船に乗ってやって来た
トラの絵はついていなかったががっかりなんてしていられない
なんたって半世紀前の田舎では
見ることもなかったレア品だ
家族が車座になり目の前のバター様に息を呑む
開缶とともに「ウッ」
嗅いだのことがない異様な臭い…
トラのにおいだきっと
あー確かにこの黄色は
間違いないこれはトラのバターだ
と子どもの私は思い込んだ
鼻をつまむ家族を横目に
すくって食べたいと申し出たが即却下
これは腐っているという事になってしまった
それでも高級なレア品は捨てるに捨てられず…
我が家でひっそりと鳴りを潜めていたのを
こっそり私は舐めたんだろう
瞬時に吐き気と頭痛に見舞われた
恐るべしトラ?バター
一撃を喰らった記憶は大人になった今も鮮明だ
吹き抜ける風
自分は今どうしたいのかって
毎日一つ自問自答することにしている
吹き抜ける風の中ならね…
背を押してもらいたい?
向き合い立ちはだかりたい?
仰向けに寝転んで過ぎ去るものをただ見送りたい?
ううん真面目ちゃんはもう十分
大人は卒業
ただただ子供心を取り戻したい
たっぷりとしたワンピースを帆にして
風に身を委ねたら舞い上がれるなんてね
メアリーポピンズみたいに傘につかまり
空からふんわり舞い降りて来るの
九死に一生のおばあちゃん?
違う違うよメルヘンがいい
記憶のランタン
一度は行って見たい憧れのランタンがこれ
ベトナムホイアンのランタン祭り
通りに橋に川面に…色とりどりのランタンが溢れる 賑やかで心浮き立つような若い光
雲南省麗江の赤いランタン
円熟の赤燈とトンバ文字が古の迷宮へいざなう
タイのロイクラトン
バナナの葉に花飾りを付け蝋燭の灯りを灯す
手ずから川の女神に捧げる祈りをのせる
まあ、妄想ばかり書いてもしょうがないし
うーん思い出せ
あった!この間手放したColemanのランタン
福島で初キャンプの30数年前
家族4人顔寄せあってワクワク初点火
パパ念願の外国製のその灯りは
幼子の記憶のランタンになったんだと思う
なぜかって?
息子はキャンパー
娘は山ガール
愛用のランタンを持つ大人に育ったからね
そう言えば父を母を愛犬を…沢山の愛する者を送った墓前のあかりも加えたいわ
記憶のランタンは消えることなく増えていく
私を遠くから静かに照らしているって思いたい老いた身の心のお守りにいいでしょ