『秘密の標本』
秘密の標本というものがある。
誰しもが秘密を抱えている。
そんな秘密の標本を眺める事が出来る。
標本室への鍵を――僕は持っている。
逢魔が時。
僕は手渡された。
ただ道を聞かれて教えただけの仲で、たった数分話しただけの仲で……そして、数秒前に呆気なく頭を銃で撃たれて死んだ人に、僕は手渡された。
次の継承者は……君だ、と。
僕に手渡された、それが……秘密の標本室へ鍵だ。
これを使えば、どんな有名人の秘密をも握って、世界を自分の意のままにする事が出来る。
だからこそ……この鍵を狙う悪人が多く存在するって事だ。
どうして、どうして僕なんかに?
僕は至って普通の高校生だ。
他のクラスメイトのように学校から表彰されるような事はした事がないし、実はちょっとビビリで小心者だ。
でも、鍵は僕の手の中にあった。
……どうしよう、どうすれば良いのだろう。
僕は頭を抱えながらもとりあえず学校へと向かう。
その姿を付け狙う視線に気が付かないまま。
これは、僕が新たに出会う仲間を始めとして、みんなと悪から秘密を守るために戦う話だ。
おわり
『凍える朝』
凍える朝がやってきた。
昨日の出しておいたボールに入っていた水の、表面が薄く凍っている。
窓のしたにはつららが生まれてきていた。
小さな片手鍋でお湯を沸かして、ココアを飲む。
ひんやりとした身体に染み入るような甘さと暖かさ。
そう、こんな日々がつい、つい先日……から?
「で、こんな冬の朝が2年も連続で続くのって可笑しくない?」
「いや、気づくの遅すぎか」
おわり
『光と影』
光があるから、影がある。
そんな話を聞くが、もしも光と影。二つが1:1ではなく、1+1であったら、どうなるのだろうか。
「まったく、イカれた科学者の考えることは分からないね!」
光族という者がある。
正真正銘、光る、という特質を生まれ持った種族だ。
影族という者がある。
正真正銘、影を作る、という特質を生まれ持った種族だ。
基本的に、光族は警察で、影族は犯罪者として扱われる事が多い。
光族の能力は、明るく照らすだけでなく、闇に葬りさられた真実を照らすのにも、重宝された。
しかし、影族の能力は、日陰を作るという細やかなものから、真実を影に、闇に葬るといったら犯罪に適したものが多かったからだ。
だがしかし、影族が息絶えなかったのは、光族の影響が大きい。
なぜだかは分からないが、闇族の数が減ると光族の出生もまた減っていくのだ。昔の名残りだろうか。
少し前には、人類の完全なる平等な平和が約束されたというのに、それは影族にだけは適応されていないらしい。
影族だけは、生まれてきてはいけない能力を持っているにも関わらず、死ぬと死ぬで光族や他に迷惑がかかると、奴隷のような管理をされているからだ。
だから、こそ。
影族は脱走し、光族はそれを捕まえることを命令される。
自殺する前に、四肢を引きちぎっても良いから生きて捉えろ、と。
「まったく、イヤな仕事だ」
そう言って光族に生まれた一般的な若者が、今日も脱走した影族を追跡する。
……もしも、違った事といえば。
「?」
「え、かわいい」
その光族の青年が、脱走した影族の女の子に一目惚れした事ぐらいだろうか。
これは、影族の女の子に一目惚れした光族の青年が、世界を敵に回して好きな女の子に生きていて欲しい話であり、その女の子が世界をひっくり返すような重要なポジションであると判明してもなお、愛を貫くという純愛なストーリーである。
………………続かない。
おわり
『そして、』
そして、君は灰になった。
死にたくないと言ったのは、誰だっただろうか――君だ。
人間が怖いと怯えていたのは、誰だっただろうか――君だ。
初めて優しくして貰ったと嬉しそうだったのは、誰だっただろうか――君だ。
あの人に何か恩返しがしたいと笑っていたのは、誰だっただろうか――君だ。
吸血鬼だとバレて顔面をボコボコに殴られていたのは、誰だっただろうか――君だ。
涙でぐちゃぐちゃな顔面なのに無理矢理に笑顔を作って大丈夫と強がっていたのは、誰だっただろうか――君だ。
あの人が困っているとき真剣に悩んで心を痛めて胸に固く閉じた拳を握りしめていたのは、誰だっただろうか――君だ。
止める僕に対して本当に辛そうに顔を歪めながらゴメンと謝り日の光の方へあの人を助けるべく走り出したのは、誰だっただろうか――君か?
吸血鬼は、日の光を浴びれば灰になってしまう。
そして、吸血鬼だった者の記憶は、生き残った者から失われてしまうのだ。
だから、こそ。
僕は、僕は……。
――そして、君は灰になり……僕は君を忘れた。
おかしなメモを見つけた。書いた覚えがない。
随分と昔に書かれたのだろう、古びたメモだ。
謎に大切にされていたようで、厳重に宝箱にしまわれていたようだが……僕は、こんなものを書いた覚えはない。
何処かから紛れこんでしまったのだろうか?
そう思い、僕はその紙を“呆気なく”ゴミ箱に捨てた。
「あれ、おかしいな……なんで泣いているんだろう、僕」
おわり
『おもてなし』
おもてなしってのは、各家庭において異なるものだとは思う。
……だからといって、これは無いんじゃないだろうか?
「え? みんな追い求めてるよ??」
「そりゃあな」
「……嬉しくなかった?」
「流石に自分の意思で決めさせて欲しかったよ」
「そっか……不老不死のヴァンパイアになれるって、みんながみんな嬉しい訳じゃないんだね」
ヴァンパイア家系のおもてなし、特殊すぎるだろ……。
今日から、ヴァンパイアによるおもてなしによってヴァンパイアにされた俺の生活が始まる……。
目標は人間に戻ること、かな。
おわり