『寂しくて』
寂しいというのは、いったいどんな気持ちだろうか。
考えた事はないだろうか?
寂しいとは、いったいどういう気持ちなのかと、いうことを。
寂しくて、会いたくなっちゃった。
寂しくて、病みそう。
寂しくて、心細い。
冷めてしまったオードブルのような、破裂寸前のポップコーンのような、そんな感情。
……果たして、そんな感情に意味などあるのだろうか。
たいていが、負のようにも思える。
それに、相手が居て寂しいという感情が生まれるというならば、相手が居なくなれば、寂しいという感情すら生まれない筈だ。
寂しいから、あなたを殺した。
とは、あまり聞かない気がする。
何故だろう、
たとえ、合理的だと分かっていても、感情的な部分を重点的にスポットライトを浴びせて注目しているからだろうか??
おわり
………虫歯が痛い。
『透明な羽根』
透明な羽根が落ちていた。
どうして分かったのかは、自分でも分からない。
ただ、呼ばれている気がした。
真夏の炎天下、僕はアスファルトが茹だるような道路でしゃがみ込み、透明な羽根を指で触れる。
つるりとしたガラスの表面が、まるで夏に食べる素麺みたいだ。
ゆっくりと割れないように慎重に手の平で包み込む。
「あつ!!」
僕は思わず手を離した。
冷えピタぐらいの冷たさだった透明な羽根が、いきなりカイロほど温かくなってビックリしたからだ。
透明な羽根は地面に叩きつけられ、砕け散る……と思ったが、ふわりとしゃぼん玉のように、パチリと弾けて消えた。
何だったのだろう。
僕が不思議に思い首を傾げつつも、気を取り直し目的地に行こうと足を一歩踏み出した瞬間。
僕の足は止まった。
「あれ……僕はどこに向かおうとしていたのだろう」
不思議な事に、僕は自分の目的地がわからなくなっていた。
おわり
『冬支度』
「冬支度しようと思う」
「冬支度って、どういう意味か知ってる?」
「知らん」
「…………」
最近の季節の変わりようは、すごかった。
暑い夏が終わって秋が来るのかと思いきや、飛び越えて寒々しい冬が来たのだから。
押入れから冬用の厚みのある布団を取り出し、クローゼットにしまった半袖を長袖に取り替えていく。
薄手のコートを取り出しつつ、マフラーと手袋は今はまだ良いかと横に避けつつも直ぐに取り出せるように前の方へ仕舞った。
「で、冬支度って言ってたけど、君は何をするの?」
隣で腕を組みながら頭を抱えて唸る彼に対して、僕は着なくなった夏服を折りたたみつつ、そう聞いた。
「アレだな……冬といえば……」
「冬といえば?」
カッと、目をかっぴらく彼。
うん、こわい!
「鍋、だな」
「…………な、べ???」
呆気に取られる僕に対して、彼は自分のスペースからモリを取り出す。随分と立派で手入れされているそれは海で使う物のようだ。
「え、まって、待って。な、な、なに? え??」
「ん? ほら、鍋の材料を狩ってこないと、だろ」
僕が慌てて止めると、彼は不思議そうに首を傾げてみせる。
――なんでお前が自分で狩ってんだよ。
「あー、うん。まだ、鍋はちょっと、はやいと思う」
「そうか?」
「…………うん」
「そうか、わかった。食べたくなったら言ってくれ、狩ってくる」
いや、買って来てくれ。頼むから。
何も言わず無言で苦笑いする僕。
どうやら、うちの同居人の冬支度は胃袋に限定され、かつ自分で食材を狩ってくるのが基本スタイルらしい。
「ぼく、いつのまに、バーバリアンとシェアハウスしたんだろう……?」
「ん? なにか言ったか?」
「いえ、べつに、ナンデモナイヨ、ハハハ」
乾いた僕の笑い声だけが、晩秋の空に溶けていった。
おわり
『時を止めて』
時を止めて何ができると言うのか。
思考というものが、脳伝達によるものだというのならば、きっと時が止まった空間で、我々は思考すら出来ないだろう。
いや、もっと言うなれば……。
――我々は、時が止まった事にすら気がつけないだろう。
「だから、時が止まっても無意味だ」
「あなたって、ときどき無性に情緒に欠ける発言をするわねぇ……今ここで時が止まれば良いのに、は比喩表現だというのにねぇ……」
「残された時と未来を、今を大事にして生きていたい。君と思い出を紡ぎたい……架空の意識もない永遠というものより、私は具体的な実現性のある未来を君と描きたいのだが」
「あら、素敵。惚れ直しちゃうわ」
おわり
『キンモクセイ』
「キンモクセイって、なーんだ?」
「ええ、クイズのレベル低すぎだろー」
「はは、やっぱり分かっちゃうかぁ」
「そりゃ、知らない方がヤバイからなぁ……」
「「この星の名前、禁木星!!」」
これは、随分と先の地球の未来。
木の資源が枯渇しそうになり、木製の物が禁じられた世界。
割り箸は愚か、家や椅子などの家具すらも木製から別の素材になった世界。
禁木星と呼ばれるようになった星に住む、未来に住む世界の人々の話。
……続かない。
おわり