白井墓守

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1/17/2026, 1:54:08 AM

『美しい』

美しい死体だ。
死んでいるのが惜しいと思ったが、そもそも死んでいなければ美しくないのだ。

○○○

美しい、とはなんだろうか。
例えば美しさのイデアが存在して、それを満たしていることだろうか。
それとも、多数の人間からレッテルを貼られていることだろうか。
もしくは……人生を狂わしてしまうような、そういった魔性の類いを、人間性を犯しく(おか)させてしまったから、か。

とある死体があった、死体はたいそう美しかった。
純白の真珠のような染み一つない肌。
少女のような華奢で細長い手足。
薔薇色に染まった頬、宝石を埋め込んだような瞳、心を惹き付けてやまない頬笑み。
星屑を溶かしたかのように煌めく天の川のような長い髪。
高級品だとわかる良い生地が使われたフリルの多いドレス。
そして、展示ケースのように死体を閉じ込めた巨大な水晶のオブジェクト。

その姿はまるで等身大の人形で、死体という奇異な感覚よりも芸術作品として感嘆の息が思わず漏れるような一品だった。

……その材料が人間である、ということを除けば。

歯の治療跡、頭髪、血液によるDNA検査により、その人形が生きていた人間である、と判明したときの世間の反応はすごかった。

しかも、被害者は皆――不細工と呼ばれる女子であった。

嘘だ、と信じないもの。
あんな死体なら私もなりたい。と希望を抱くもの。
嫌悪した顔を表では見せつつ、裏では写真集を買い漁って魅せられて抜け出せないもの。

「結局、あなたはどうしてこんな事をしたんですか?」

私は探偵だ。
だから、どうしても好奇心が押さえらなかった。
そして、今目の前に、あの美しい死体を作った職人がいる。

職人の性別は分からない。男性にも見えるし、女性にも見える。若いようにも見えるし、年老いているようにも見える。

「簡単な事だ。私は美しい芸術作品を作りたかった。彼女たちは死んだとしても美しくなりたかった。ただの利害の一致さ」

そういって職人はニコリと笑った。
人の良さそうな、虫をも殺したことがなさそうな笑みだった。

「私を警察に付き出すのかい?」
「……いいえ。付き出しても証拠は無さそうだ」

私が諦めたように肩を竦めて首を振ると、職人は正解だとでもいうように一つ頷いてみせた。

「生者はおかえり。ここは君には早すぎる」

そういって職人は優しく私に紅茶とお菓子を振る舞ってくれたあと、手土産のシフォンケーキを持たせて見送ってくれる。

――人生に絶望したら、またおいで。

それはぞくりと背筋を撫でられたような、甘い甘い猛毒のような誘惑だった。
いつの日か、人生に絶望する日が来たとき。私は間違いなく、この職人のことを思い出してしまうのだろう。

「どうか。人生に絶望する日がきませんように」

望みのない、宛もなければ、意味もない。
しかし祈らずにはいられない希望を口にした。


おわり

1/16/2026, 1:06:58 AM

『この世界は』

この世界はゴミカスである。
とっくの昔に腐り果てたヘドロに成り果てたのだ。

ゾンビの一日は、ドロドロに熔けた体をかき集めることから始まる。
溶き卵みたいになっている自身の身体……だと思うものを、まるで粘土でプリンの山を作るように一生懸命に形作る。
そしてようやく自分の身体となって、目が見えて口が聞けるようになる。

「あー、あああー??」
「ようやくお目覚めかよ、ウケる」

声のした方を見る。
真っ青な顔色に、傷一つない美しい滑らかな肌。
ビリビリに破れた中二病が憧れる黒いコート。
猫のような目付きの青年が、そこにいた。

「仕方ないだろ、お前みたいな強化ゾンビとは違うんだ」
「眠るたびにドロドロになるとか、弱ゾンビ達は大変ですなぁ(笑)」

からかうような態度とは裏腹に、こちらに手をさしのべてくれる辺りが性根の良さを浮き彫りにする。
有りがたくその手を取って、腰を浮かせて立ち上がる。
ちなみに、独りで立ち上がろうとすると、半分の確率でつるっとすべってもう一回からだの形成からやり直しだ。

「ほんと。俺が幼馴染みだった事にありがたく思えー?」
「はいはい。めちゃくちゃ感謝してるよ、まじで」

僕たちは、幼馴染みだ。
そして、ゾンビだ。

……世界は腐り果て、人類はみなゾンビになった。
世界大戦がおき、核兵器に次いで科学兵器が使われた末路がコレだった。
人類は傲慢な態度の対価を支払ったのだ。

「……なぁ、アレ……なんだ?」
「ん?」

……女の子だ。しかし、おかしい。ありえない。

ゾンビには特有の青白い肌がある。
しかし、その女の子は真っ白い肌をしていた。
そう、人間の肌、なのだ。

「あれ……ここは、どこなのかしら?」

目が合う。
おそらく、ここが僕たちの運命の分岐点だった。
この出会いは、世界の運命を変えるきっかけとなる。

これは、特異点の女の子と、ゾンビとなった世界で、ゾンビを人間に戻すために世界と立ち向かうお話。


……続かない。

おわり

1/14/2026, 11:59:00 PM

『どうして』

どうして、と溢した言葉は泡となり消えた。
遅すぎたのだ――全てが。

揺らめく視界に思わず苦笑する。
それはいつもの光景で、残った罪悪感だ。

「また、そんなものを見ているのか」

掛けられた声に振り向く。
精悍な顔つきの逞しい肉体をした青年。
……しかし下半身には二本の足ではなく魚のような尾があり、また露出した上半身や顔には鱗のようなものが所々に存在する。
つまり、彼は伝説でいうところの人魚、もしくは魚人という存在なのだ。
見た目も若々しく二十歳頃の青年に見えるが、実のところは数百年を生きているとのこと。

「この貝で出来た夢眼鏡は、とっても面白いね。いつまで見てても飽きないや」
「ニンゲンとはよく分からんな。ほら、飯にしよう。ニンゲンはこまめに食べないと死んでしまうのだから」
「ありがとう」

カラフルな珊瑚礁の中、テーブルのような形をした珊瑚に、椅子のような形をした珊瑚。
大きなシャボン玉の泡の中には酸素があって、喋ることも歩くことも、息を吸うことも出来る。
食卓の上に並べられたワカメや貝などの素材。最初は生で出されていたが、苦言を呈して料理を教えるとワカメのスープやホタテのバターソテーなど火を通したものが出されるようになった。
彼はとても聡明で好奇心が強く、融通がきく性格なのだろう。また、人魚の中でも変わり者らしい。こんな人間の面倒をみて一緒に暮らしてくれるほどに。

「……まだ、諦めないのか」
「うん」

ポツリと溢された言葉に、僕は頷いた。
彼の瞳に心配そうに懸念する色をみた。
有難いと思う、そして申し訳なく思うも僕は止めるつもりはなかった。

「……ニンゲンの寿命は短い。それに、オレにはお前が背負うべきでは無いように見えた。それでもか」
「うん。たとえ前世の僕でも、僕だと思うから。それに……今もどこかで待っている気がして、放っておけないんだ」
「はぁ、難儀だな。お前というヤツは」

人魚姫の話を知っているだろうか。
アレは実話だ。

僕は愚かな王子側で、人魚姫が泡になるのを止められなかった。
気づいたときには遅かった。あの子は既に泡と化してした。
前世の王子だった僕は失意の内に死に、それは未練となって今世の僕に引き継がれた。

ただの奇妙な夢かと思っていたが、人魚の彼に出会って僕は確信した。
アレは夢じゃない。本当にあった事なのだと。

「人魚姫の転生、か。ヒトの身で探すなど、珊瑚の中から金で出来た真珠を探すようなものだ」
「うちではそれを、砂漠の中から一粒の砂金を探すようなものって言うね」
「笑い事か……全く、宛もないのに」

そういって眉を寄せる彼に僕は笑う。
あぁ、本当にそっくりだ。
ぶっきらぼうな口調でお人好しなところも、苛立っているような顔で心配しているところも、そしてキリッとした目元と鱗の色もまさに。

「まあ、大丈夫だよ。君がいれば、それで」
「はぁ? ニンゲンとは、よく分からんな……」
「あはは」

人魚姫の話は本当だと僕は言ったが、たった一つだけ訂正しなければならないことがある。
それは――王子を救った人魚姫が女性ではなく男性だった事だ。
そう……今、目の前に居る彼のように。

「やっと会えた……今度こそ君を幸せにするよ」
「? なんだ、小声で何か言ったかニンゲン」
「……いいや、なんでもないよ」
「そうか」

僕は笑う。
ところで君、なんで格好いい姿なのに、そんなに声は可愛らしい美少女声なの? お陰でずっと女性だと思ってたんだけど??


おわり




1/14/2026, 3:49:44 AM

『夢を見てたい』

夢とは、いかなる味がするものか。
甘いのか、辛いのか、それとも無味無臭のものか。
もしも味が無いのに噛み続けるのなら、それはどんな行為なのだろうか。惰性だろうか、執着だろうか。

あぁ、夢を見てたい。
そんな自分になりたかった。そう思う。
だが、ふとして気がつくのだ。
……これこそが、自分の夢なのでは? と。
口のなかでグツグツと笑った。失笑だ。
夢を見るのが、自分の夢なんて。まさに滑稽極まりない。

――結局のところ、私はニンゲンモドキに過ぎないのだ。


「おい。オマエの夢はなんだ。ニンゲン」
「ん? そうだなぁ。お腹いっぱい、ご飯を食べることかなぁ~」

足元でニンゲンがニコニコと笑っている。
冒険者、と呼ばれるチクッとする棒切れを持ったオトコだ。

「食べればいいじゃないか、ニンゲン。土も木も岩も、世界にはたくさんあるじゃないか」
「ん~。ドラゴンと違って、俺たちは土や木とかは食べられないだよな~」
「……なんだそれは。誠に奇っ怪な生き物だな、オマエは」
「伝説の存在であるドラゴンに言われちゃうとはねぇ~」

訝しんでドン引きした私に対して、お腹を抱えてケラケラと笑うニンゲン。
ちょっと前に森で出会ったこのニンゲンは、とても変わっている。
普通、私を目の前にしたら泣き叫んで逃げるか、不気味に笑って体にへばりついてくるかの二択なのに、このニンゲンは目をキラキラ輝かせて話しかけて来たのだ。
それから、たまに森で話すようになった。

「俺らの関係も、もう十年か~」
「あぁ、たったの十年だな」
「あはは、流石ドラゴン~」

ふと、ニンゲンが笑うのをやめた。真剣そうな眼差しでこちらを見て口を開く。

「俺さ、夢があるんだ。子供の頃からの夢」
「? なんだ、それは食えるのか?」
「食べられないよ。だって、夢は見るものだから」
「??」
「俺はね――」

そういってニンゲンは夢を語った。正直、下らないと思った。
だけど、言うのだ。この夢を見てたい、と。

……少しだけ、憧れた。

アイツが、あのニンゲンが死んだ。寿命だった。
だから、この地から飛び立とうと思う。

目的は一つ。
夢を、探しに。

『俺、ドラゴンと友達になるのが夢なんだよね。俺ら、友達になれたかな』

私は答えることが出来なかった。友達というものを知らなかった。嘘をつきたくなかった。

「私とオマエは友達だったのか。それを知るために、私は旅に出るよ」

アイツの墓という石の塊を鼻息で撫でる。
墓に植えられたピンクの花が、優しく揺れている気がした。


おわり

1/12/2026, 7:08:23 AM

『寒さが身に染みて』

寒さが身に染みて、心が風邪を引きそうだ。
とは、人生で一度は聞いたことがあるセリフだとは思う。
実際に現在進行形で、自分はそれを味わっている。

「なんでかき氷の中に埋められてたんだ、俺は」
「ほら、夏に言ってたじゃん? 暑すぎて、かき氷に埋まりたーい!って。最近、作れたから早速埋めてみたよ!」
「だからって真冬にするのは辞めてくれ、死ぬ」

「いや、もう死んでるけどね」
「…………は?」

寒さが身に染みて実際に凍死した俺が生き返るためにゾンビチートでツエーした件について。



……続かないどころか、はじまらない。
おわり

P.S. ネタ浮かばなかった。時間もなかった。

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