『溢れる気持ち』
洪水のように溢れる気持ちが、止められなかった。
我慢して我慢して我慢してダムのように決壊したソレは、瞬く間に全てを奪っていった。
○○○
世の中には、良い事と悪いことがある。
良い事はしてもいいけど、悪いことはしたらいけない。
悪口を言うのは良くないこと。人を嫌うのは良くないこと。
仲良くするのはいいこと。喧嘩するのは悪いこと。
……だからずっと、我慢してきた。
僕はどうにも凡庸で、やることなすこと在り来りだ。
特に長所もなければ、短所もない。
至って平均点が取れるような、そんな凡庸さ。
隣の幼馴染は、顔が良くて、性格が良くて、勉強も運動も出来て、色んな人から人気だ。
幼馴染であった僕らは、よく比べられた。
そのたびに彼は言う。
「俺ら、友達じゃん。そんなの関係ないよ」
僕が、一番そう思いたかった。
…………思えなかった。
募って募って、限界まできていた僕はやらかした。
幼馴染の結婚式。
僕は親友としてスピーチを任された。
偽るべきだった。根も葉もない嘘八百を並び立てるべきだった。この世に存在しない親友とやらの役を演じ切るべきだった。出来なかった、そんなこと。
全てを吐露した。
人生にたった1度しかない晴れ舞台をぶち壊した。
僕は全てを失った。
友人、知人から縁を切られ、両親からも絶縁された。
「お前がそんなヤツとは思わなかった。言ってくれれば良かったのに、俺ら親友だろ?」
——僕は親友だと思ったことは、一度も無かったんだよ。
全てを失った筈なのに、どこか清々しい気分だった。
なんとなく空を見上げる。
「あぁ、空ってこんなに青かったんだ」
思わず涙が溢れてきて、僕はボロボロと子供のように泣いた。
やっと、生きてるって気がした。
おわり
『Kiss』
柔らかな頬に口付けを落とした。
——瞬間、頬は氷に包まれた。
「ごめんなさい、こんな方法しかとれなくて」
○○○
わたしは雪女だ。
そして、人間の男の恋人が居る。
もうすぐ結婚する予定だったが、おそらく無理だろう。
「おめぇのとこの女、ありゃあ化物に違げぇねぇぜ」
「そんな事、言わないでくれるか? 僕の大事な人なんだ」
「坊ちゃん、悪いことは言わねぇ。止めておきなせぇ」
「彼女は何もしてないじゃないか。子供を救っただけだ」
「熊を一匹、氷漬けにして……でしょう? 恐ろしや」
村の子供が熊に襲われそうになっていた。
だから咄嗟に、吹雪で氷漬けにしてしまった。
そして、わたしはそれを見られてしまったのだ。
もう、無理だ。無理なのだ。
やっぱり、人間と妖の恋は実らない。
「はぁ……駄目だなぁ、こりゃ。……一緒に殺すしかねぇべ」
「だなぁ。村に一人の医者だったが、しゃあねぇべや」
クワを掲げられ、殺されそうになっている彼の前に出る。
熊を氷漬けにしたように、吹雪で二人の村人を凍らす。
「……君は、今のを聞いていたんだね。ごめん」
「いいえ。これは仕方がないことだったのよ」
「なぁ、逃げよう。二人ならきっと」
「いいえ。……ごめんなさいね」
二人で逃げられたらどんなに良いだろう。だが、無理だ。
彼は身体が弱いのだ。逃避行になんて堪えられない。
だから、わたしは彼の柔らかな頬に口付けを落とした。
瞬間、彼が氷漬けになる。
しかし、吹雪と違うのは、彼の氷は溶けること。
溶けたときには、彼は生きているだろう。
——これは足止めの氷だから。
「さよなら」
わたしはその場から去った。
流れ落ちる涙が、氷の粒となり、キラキラと輝いていた。
おわり
『1000年先も』
1000年先もずっと君と居たい。
そう思っていた筈なのに……。
そんな思いは露と消えた。
「ごめんなさいね」
「……なんといえばいいか、わからない」
彼女はとても綺麗な笑顔で言った。
「あなたの子が出来たの。私だけでなく、この子も愛してくださるわよね?」
……僕は君だけで良いと思っていた。
だけど、うん。
1000年先もずっと君たちと居たい。
僕はそう思った。思えた。
——たとえ、彼らが100年しか生きない人間で。
——僕が、あと1000年生きるエルフだったとしても。
おわり
『勿忘草(わすれなぐさ)』
Forget me not.
(わたしを忘れないでください)
○○○
勿忘草は、青紫の小さな花だ。
僕の最愛である彼女の大好きな花だ、愛した花だ。
彼女が勿忘草を手に笑うことは、もうない。
僕は無言で、勿忘草の花束を墓石に捧げた。
「天国に、勿忘草は生えているのかな」
ポツリと僕はそう呟く。
旅行好きの僕がまだ行ったことのない場所。
いつか僕も行くことになる場所。
天国に思いを馳せつつ、僕は彼女の冥福を祈った。
今日は青天だ。
まるで勿忘草の花畑のような、雲一つない青空。
僕は真冬の冷たい空気をものともせず、ひと呼吸した。
冷たい澄んだ空気が肺に溜まる。
生きている、そう実感した。
もう動かない、感じない彼女と違って。
彼女は笑顔が似合う女性だった。
よく人助けをしている人だった。
僕がなんで、自分の利益にもならないのにそんな事をするのかと聞いたとき、彼女は笑ってこう言った。
『わたし、忘れられるのが怖いの。だけど人に優しくしていたら、死んだときに覚えている可能性が増えるじゃない?』
と。
真夏の太陽のような笑顔が眩しくて、僕は目を細めたのを覚えている。
「僕は、忘れないよ——忘れられるものか」
僕は無言で取り出したエンゲージリングを取り出した。
「あともう少し早ければ、君は奥さんになってくれていたのかな……なんて」
片方のエンゲージリングを花束の横に置く。
あぁ、今日は本当に空が青いな。
きっと天国では勿忘草の花がたくさん咲いているのだろう。
おわり
『ブランコ』
「ねぇ、あなたってブランコって漕げるの?」
「ブランコ? あ、ああ……日本一周余裕だぜ!!」
「馬鹿なの?」
おわり
〈他、迷走した没案〉
『ブランコ』
サーカスの空中ブランコが揺れる。
人間が落ちてきて、人々の悲鳴が上がった。
『ブランコ』
僕はブランコを食べた。
ワサビをちょっと付けて食べると美味しかった。
『ブランコ』
公園のブランコが揺れる。
……誰も乗っていないのに。
○○○
今日、ちょっと長文書く気なかった。