待ってて、すぐそこへ行くから
泣かないで、大好きな人よ
花嫁はブーケを握る。誰もが固唾を飲んでいた。
彼女のノーコン具合を知っているからだ。
前に投げようとすれば後ろに飛ぶ。かといって後ろ向きで投げようとすれば何故か前に飛ぶのだ。
さて、晴れの日である今日はどうなるか。
花嫁振りかぶって投げました。なんと、とてつもなく上空へ上がりましたが無事女性陣の方へと飛んでいく。
だが誰かがそれを掴むより早く、そして速くトンビが掴んで持っていく。
「トンビは油揚げでなくともいいのか」
新婦の父親の言葉は、その場によく響くのだった。
散った桜の花びらを掴むと願いが叶うんだか、幸せになれるんだか。
なんかそんなことを聞いたことがある。
少しずつ散り始めた桜の花びらに手を伸ばす。掴めない。
もう一度伸ばす。やはり掴めない。
なるほど、幸せを掴み取るというのは難しいということか。
あ、掴めた。
幸せになれるかはわからないが、達成感を得られるのは確かだ。
考えようによってはこの達成感が、幸せの一部なのかもしれない。
願い・・・・・・、特に浮かばないので団子を所望する。
「俺に片想いする幼馴染みの女の子がほしい」
「二次元に行け」
剛の言葉に咲哉は興味なさげにスマホをいじる。
「ちょっとは真面目に聞いてくれよ」
「じゃあ真面目に聞ける内容を話せよ」
「ちょっとぐらい優しさプリーズ! 俺の夢見る心を育ませて!」
「なるほど。二次元にいってみるといいんじゃない」
「言い方が優しくなったらいいってもんじゃないからな」
咲哉はため息を吐いてスマホを切り剛に向き直る。
「片想いしてくれる幼馴染みの異性なんて二次元にしかいないだろ」
「だから夢見たいんじゃん」
「現実を見ろよ。小さい頃に遊んでいた異性の友達なんて、成長すればグループ作って疎遠だぞ」
「そんなこと言うなよ。俺は寝坊しそうになったら起こしてくれて一緒に登校し、小言をいわれながらも俺のことを放っておけない世話好きな幼馴染みがほしいんだよ」
「急に贅沢になったな」
咲哉の白けた視線を受けても剛はぶすくれるのみでダメージはなさそうだった。
「ってか咲哉はそういうのねぇの? 転校生が過去の思い出の女の子とか、地味系の女の子といい感じになるけど実は人気アイドルだったとか」
「それもう二次元で十分だと思うけど」
咲哉は腕を組み視線を右上に移す。
「あえて言うなら姉かな」
「姉」
「日常的に茶化してくるけど、酔っぱらって抱きついてくる美人の姉がほしい」
「咲哉、男4兄弟の末っ子だもんな」
「2番目の兄がボディービルにはまってて暑苦しいんだよ。筋肉を、見せて、くるな」
「さ、咲哉。落ち着け」
いつのまにか熱が入ってきた咲哉の肩を剛は叩いてやった。咲哉は深いため息をついた。2度目のため息である。
「姉がほしい。もう妹でもいい。『おにいちゃん』って呼ばれたい。『にーに』でも可」
「お、おう。それだけ聞くとやべぇと思うけど、咲哉の立場からするとわからんでもない」
「だからな、剛」
咲哉の目は若干死んだ目になっていた。
「二次元に行くのがいいぞ」
「あ、それ咲哉のことでもあったのか」
タンポポの綿毛を思いきり吹いた。
遠くの空へと一斉に飛び上がっていく。
紙飛行機が上手く作れた。
遠くの空へと飛んでいった。
シャボン玉を息を吹きかける。
遠くの空へと時おり虹色に光る。
風船が手から離れた。
遠くの空へとぷかぷかと浮かんでいく。
人間が空を飛ぼうと必死になった。
今では飛行機が当たり前のように飛んでいる。
地球には重力があるはずなのに、それに反発するかのように飛ぼうとしている。
思っていたのとは違うかもしれない。すぐに落ちてしまうかもしれない。
しかし人類だって飛べるようになったのだ。鳥のようにはいかなくても、飛ぶことはできたのだ。
やってみよう。失敗するとしても。
やってみよう。恥ずかしくても。
やってみよう。結果が思ったとおりにならなくても。
今とは違うものが見えるかもしれないから。