目の前で炎が燃え上がる。
渦を巻き、全てを飲み込むように、立ち昇る。
それが放火だと判明するのに、そう時間は掛からなかった。
僅かな心当たりがあった。逆恨みから、こういうことをする人物。
焔が灯る。心の中に、どす黒い焔が。
この復讐の焔は決して絶やさない。必ずおまえを飲み込んでやる。
『消えない焔』
いつまで経っても終わりが見えない。
問題が山積みで、これが永久に続くのではとさえ思えた。
そういえば、動画で見たことあるな。ある特定の条件に達しない限り永遠にクイズが出題され続けるというドッキリを。
もしかしたら、これもそうなのかもしれない。
……いや、条件はわかっている。
本当は永久なんじゃなくて、この大量の問題を解けば終わるって。なんなら解き切らなくても、時間がくれば終わるって。
いや、だって問題数多い上に難し過ぎるんだよ、このテスト!
『終わらない問い』
目の前で羽根が揺れる。
フリフリと。お尻の上で。
「ミーちゃん、お尻に羽根ついてるよ」
そう言って、ミーちゃん――飼い猫のお尻から羽根を取り除く。立派な白い羽根だった。
「もー。どこで付けてきたの、こんな羽根。天使かと思っちゃったよ」
でも天使なのは間違いない。だってこんなにかわいい。天使過ぎる。この世のかわいいを全て詰め込んだようなかわいさだ。
ミーちゃんは体をペロペロと、どこか得意げに毛づくろいした。
飼い主は知らない。
その羽根が、その辺を飛んでいる鳥を狩って付いたものだということを。
他の生物から見たその姿は、まるで悪魔のようだった。
『揺れる羽根』
昔、天界に優秀な二人の天使がいました。
二人の天使がいれば、世界は安泰だと思われていました。
しかし、二人の天使のうち、一人は、もう一人の天使に嫉妬していました。自分と並ぶ、いや、自分よりも優秀な天使がいるなんて。
天使はある日、天界の禁止区域に立ち入りました。
禁止区域の奥には、箱が眠っていると言われていました。
その箱は、ずっと昔に、ある人間が自分を犠牲に、悪魔を閉じ込めものだということでした。箱の奥底では、犠牲になった人間の魂と悪魔が、今でも戦い続けているという話です。
その話を知っているにも拘らず、天使はその箱を開けてしまいました。
その責任を、もう一人の天使に擦り付ける為に。
そうして、再び悪魔が解き放たれ、世界には憎悪や悲嘆、苦痛などといったものが溢れてしまいました。
もう一人の天使は管理責任ばかりか、開けた犯人とまで疑われ、天界から魔界に堕とされてしまいました。
彼は、天界の光を拒絶するかのように、闇を纏いました。
それから、優秀だったその天使は魔界を納め、魔王として君臨したということです。
『秘密の箱』
この世界には魔法や魔物といったものが存在している。
人々は、魔法の恩恵を享受し、また、魔物の影に怯え生きていた。
「わぁー! 海だー!」
「これが海……」
「すげー!」
「本当に大陸って海の中にあるんだな……」
仲間達と旅を続けるうちに、新しい大陸へと進むことになった。
他にも大陸が存在していることは知っていた。海を跨いだその先にあることも。しかし、知識として知っていても、実際に初めて海を目の当たりにすると、なんとも不思議な感覚になる。
「この向こうに、新しい大陸が……」
目を凝らすが、ただ広い海が広がっているだけだった。
「相当遠いみたいだから、見えるわけないよ」
「船に乗っていくんだよね!」
港に止まる大きな船を見上げる。
本当は、仲間に、変身して人を空に乗せて飛べる生き物がいるのだが、それはそれ。一度船に乗ってみたいという大多数の希望で、船に乗ることなった。
出発は明日。
ワクワクしながら宿で一晩過ごす。
「無人島に行くならば」
「はい?」
「無人島って知ってるか? 海には大陸以外にも小さな島がいくつかあって、その中には誰も住んでいない島もあるらしい」
「へぇー」
「で、無人島に一つだけ持っていけるなら、何を持っていく? って定番の質問があるらしい」
「なんで一つだけ」
「荷物増やしたくないんじゃね?」
「まぁでも魔法使える人なら荷物なくても大体なんとかなりそう」
「人と連絡取れるアイテムかなー」
宿での夜、興奮して眠れず、みんなで集まってそんな話をしていた。
まさか、こんなことになるとは思わなかった。
「魔物が現れて、魔物に捕まったり、海に落とされたり、飛び乗って戦っている間に、まさか船に置いていかれるとはねー!」
「文句言っても仕方ねぇ」
長らく旅を続けている彼らは、魔物にも慣れていた。
だから、当然乗客を守る為に(自分達も乗客ではあるが)魔物と戦った。
船員も戦ってくれたが、大勢の乗客の命が優先だ。魔物慣れしている彼らは大丈夫だろうと踏んだのか、一瞬の隙を狙って、船はその場から逃げ出した。
彼らは置いていかれたのだった。
そうして、いつの間にか無人島に流れ着いていた。
「まぁでも良かったよ。みんな一緒で」
幸い、パーティーメンバーは揃っていた。むしろパーティーメンバーだけだった。
「本当に無人島に着いちゃったね」
「どうする?」
「うーん……」
旅をしているだけあって、野宿にも慣れている。別段困ることはない。島内以外に行く場所がないことを除けば。
「…………あ」
そもそもだ。
船に乗ったのは、乗ってみたいからだった。
彼らには足があった。どこにでも行けてしまう足が。
「そうだよ。背中に乗っていけばいいんじゃーん」
変身できる仲間が、翼を持つ大きな生き物に姿を変え、みんなを背に乗せる。
そんなこんなで、あっという間に無人島生活は終わったのだった。
「一泊くらいしても良かったかなー」
「たしかに」
遭難したとは思えない気楽な会話。
彼らは、仲間がいれば、どこへ行っても無敵だ。
『無人島に行くならば』