27(ツナ)

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11/4/2025, 10:48:54 AM

キンモクセイ

秋を感じるひとり旅へ出かける。
公園は山吹色に輝く銀杏並木に枯葉の絨毯。
暖色に染る景色に安らいでいると、不意に甘くてさっぱりした香りに誘われた。

彼女は僕なんかには目もくれず目の前を去っていった。
ほんの一瞬。
一瞬だったけど、とても印象に残る香り。
学生の時分に僕が焦がれたあの子も同じ香りを纏っていた。

キンモクセイ。
それは"初恋"の香りだった。

11/3/2025, 11:12:08 AM

行かないでと、願ったのに

なにもない田舎、閉鎖的で薄暗い、楽しい事なんてひとつも無い所だった。
でも唯一、先輩だけは明るくてかっこよくて一緒にいる時間が凄く楽しかった。
そんな日々を守りたくて、私は毎日のように神社にお参りしていた。
「先輩がどこにも行かんように。この幸せがずっと続きますように。」

ある日の夕方、村の大人たちが何故か騒がしくて私は外に出た。「どーしたん?何かあった?」
よく見ると警察や救急車まで来ていて物々しい雰囲気に余計に不安が募る。
「あぁ、なんかそこん踏切で事故が。男子高校生が踏切ん中入ったか男ん子助けて、犠牲になったみたいやんな。」
近所の爺ちゃんも心配そうに遠くから事故現場を覗いていた。
私はなんだか凄く嫌な予感がして気づいたら事故現場の方に走り出していた。
「あ、こら!危なかけん、行ったらあかん!」
叫ぶ声を無視して、過呼吸になりながら全力で走った。

現場に到着して、すぐに警官に制止されたが腕の隙間から線路の方を見ると、スクールバッグが落ちていた。そこには私が先輩にプレゼントしたお揃いの手作りのお守りが付いていた。
「────ッ。」
声が出せない。体も動かなくて、目の前が真っ暗になって、その場に崩れ落ちた。

どこにも行かないでって、幸せが続くようにって、お願いしたのに。


11/2/2025, 11:52:31 AM

秘密の標本

人は強く禁止されると反発したくなる。
そこは立ち入り禁止の父の書斎。
県外で学会があるらしく今日は終日留守だと聞いていた。
書斎の鍵の隠し場所は事前に調べておいたので、
夜更けに母の就寝を確認し、静かに父の書斎へ侵入する。
室内を探るが、特に怪しいものもなく当てが外れたなと自室に戻ろうとした時、何か箱のようなものを落としてしまった。
鍵がかかっていたが落ちた拍子に古びていた錠が壊れ中身が飛び出した。

焦って元に戻そうと拾うと人の手や顔の一部のようなものだった。
人体模型の一部かとまじまじ触っていると、あることに気づいた。
「……これ、本物だ。本物の、人間の、もの。」
ガチャと書斎の扉が開く。
「…そうだ。本物の人体の標本だ。」
背後から、今日は居ないはずの父の冷徹な声が聞こえてきた。

11/1/2025, 12:08:36 PM

凍える朝

「北海道行こ!」
それは唐突に計画された。
「え〜関東平野にいても寒くて凍え死にそうなのに、嫌だよ〜。」
寒がりの私は急な友達の提案を即座に断ったが、意思は固いらしく、私を置いてけぼりにどんどん計画を進める。
「なんでこの寒い時にわざわざ北海道?」
「どうしても、あんたに見せたいものがあんのよ。寒がりなのは知ってるけど、この時期じゃないと見れないの!」
どうやら私の為に計画をしているようで、無下に断る事も出来なかった。

あっという間に北海道旅の日。
観光を楽しんで旅館に着くと心配そうに何度も携帯を見る友達。
「うん、天気も風も大丈夫そう。よし明日、早朝に出るから今日は早く寝よう。」
言われるがままに私たちは早めに寝て次の日、朝4時頃に起こされた。
何故か目隠しをされて腕を引かれてどこかへ連れて行かれる。

パッと目隠しを外されて、ゆっくり目を開けると
目の前には湖、よく見ると、大きな白い花?のようなものが湖一面に咲いていた。
そのあまりに幻想的な光景に私は言葉を失った。
「フロストフラワー、っていうんだって。水蒸気が寒さで花みたいな結晶になるんだって。条件が揃わないと滅多に見れない凄い神秘的な光景。……誕生日おめでとう。これはあたしからの誕生日プレゼントってことで、今日あんたとフロストフラワーが見れてよかったよ。」
「……。ありがとう。」
凍てつくような寒さで体の感覚がないのに、心がじんわり暖かくなって無意識に涙が零れた。

最高の誕生日プレゼントを貰った。
ある、凍える朝のお話。

10/31/2025, 10:50:55 AM

光と影

兄は光だ。
僕は兄の影。
でも、それでいい。
光り輝く兄を1番近くでずっと見ていたい。
光があれば影もある。
兄の光が陰る時、僕は兄だけの光になる。
光と影、兄と僕。
歪な愛情でも依存でもなんでもない、これは自然の摂理。


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