心の境界線
彼女は良い意味で誰に対しても同じ態度だった。
例外はなく、僕にも。
みんな平等に親しげに接するけれど、絶対に踏み込めない境界線がある。
笑顔だけど、誰にも心を許していない。
誰にも心からの笑顔を向けない。
決してその境界線は越えられない。
そんな君に僕は恋してしまった。
叶わなくてもいい。
一度でいいから君の心の境界線を超えてみたい。
そう、思ってしまった。
透明な羽根
空を飛んでみたくなった。
これはきっと人生で最後に見る空だ。
前日まで曇天だったのに、今日に限ってなんて綺麗な青空なんだろう。
すると目の前に小さな女の子が突然現れた。
おかしい、そんなはずない。
だって目の前はビルの谷間。建物は何にもない。
何かで浮いているようだった。
「だめだよ。ヒトは羽根がないと飛べないんだよ?」
大きな瞳をぱちぱち瞬いて不思議そうに言う。
「……て、天使?」
思わずそう言った瞬間、意識がプツリと切れた。
目を覚ますと、元いたビルの屋上の真ん中に寝ていた。
夢だったのかと体を起こすと、手に何か握っていた。
目を凝らして見ると、一枚の透明な羽根だった。
灯火を囲んで
灯火を囲んでやることなんかひとつしかない。
そう、百物語。
と言っても私たちの百物語は一味違って、怖い話を百ではなく面白い話、すべらない話を百、語るのだ。
ひとつの灯火を5人で囲んで、1人ずつ面白い話を繰り出していく。
薄暗い部屋に5人の狂ったような笑い声がこだまする。
これがわたしたちの秋の風物詩、
オリジナル・おもしろ百物語だ。
冬支度
来週から、ついに雪が降り始まるそうだ。
寒いのが嫌いな私は憂鬱な気持ちで、葉が落ちてすっかり寂しくなった庭を眺める。
よく見るとゴソゴソ動くものがいた。
小さな体で木の実や果物を巣へ運ぶリスだ。
他にも、夏より何倍もふくよかになった雀。
ウサギは茶色い体毛から雪のように真っ白い体毛に衣替えしていた。
見ているとなんだか、私もやる気になってきた。
動物達に負けじと私も重い腰を上げて冬支度を始める。
時を止めて
『時が止まればいいのに』なんてこれまでの人生で一度も思ったことなかったのに。
貴方に出会って、私は変わってしまったのかもしれない。
あまり得意じゃないメイクに無頓着だった洋服のコーディネート。
女っ気がないのは自覚していた。
でも、貴方に出会ってからメイクや髪型を研究したり、コーディネートを勉強したり、私とは無縁だと思っていた色んな事に挑戦し始めた。
たくさん努力をしてようやく貴方とデートすることができた。
2人きりでいるだけで心が舞い上がって、
生まれて初めて『時が止まればいいのに』なんて思った。