pH

Open App
2/17/2026, 8:05:44 AM

「誰よりも」

親が子を愛し、子が親を愛す。
世界の常識として語られている。

子供が出来たら、その瞬間から親になる。
大人という型から外れ、親という型にはまるのだ。

子はいつしか大きくなり、成長する。
その成長のスピードは驚くほど早い、しかしその過程は苦痛と困難の連続だ。
人生は「山あり谷あり」と言うが、実際は「山」などなく、殆どちいさな「坂」だ。登ればまたすぐに落ちる。

それを繰り返して人はいつしか大人になる。
それは突然で唐突だ。
手本なんてない、練習すらない。予告すらないのだ。
ある日突然、「お前はもう子供じゃない」と宣言されるのはある種の罰のように思える。

親もそうだったのに、何も知らぬ子供はそうかんがえる。
そしてこの子供は大人になるのだ。
あぁ、あっという間だったなと他人事のように言うのだ。

大人になると人間は子供の頃の自分とは別人になる。
そして、大人が親になると、またこれの繰り返しだ。
一定のリズムで繰り返されるこれは、世界の常識として覆ることはない。なかったのだ、今までは。

このリズムが崩れ始めたのだ。
女と男が愛し合うという常識や、親子の愛し愛されの関係から抜け出し始めたのだ。
それが幸福なのか、はたまた不幸なのかは定かではない。その正確な数値を求めるには、我々は遅かったのだ。

自由を求めるには不自由という足枷をつけられる。
差別、迫害、偏見、それらの妨げを耐え続けた者にのみ自由は与えられる。


◇◇◇


「というのを、本で読んだんだ。どう思う?」

コイツはいつもこうだ。急に押しかけて来て、茶を要求して何時間も居座る。「帰れ」と言っても聞かない。
「子供か」と嫌味ったらしく言えば、目を丸くしたかと思えばフッと笑う。
凄い腹が立つ。殴るぞ。

「どう、とは?というか、来るなら言えと何回言えばお前は分かってくれるんだ?」

「まぁ、もういいだろ。お前も慣れたろ?」

ぶん殴ったろかコイツ。
そんなことを思いながら、インスタントコーヒーを入れたカップの中にお湯を注ぐ。湯気がゆらゆらと立つのを見ながら、ふと考えてみた。

「常識だ、なんだ、随分気難しそうな作者じゃないか。そんなのに囚われるから、文字書きは早死するんじゃないか?論文書いてみようかな」

そう言いながら突然の来客者にコーヒーを渡す。

「相変わらず変な着眼点だなぁ」

眉を上げてコーヒーをすする。アチッと言って口を押さえた。火傷したか。ざまぁみろ。

「じゃ、お前は『常識』から抜け出すことが幸せだと思うのか?」

口を押えたまま、話を続ける気のある彼を見る。
真剣さはなく、ただの雑談らしい。良かった、今日はもう頭を使いたくないんだ。疲れてるから。

「別に、そういう訳で言ったわけじゃない。
ただ、世の中の常識と規則を一緒くたに考えるのはあまりよくないと言っただけだ。」

「『常識』と『規則』を?似たようなものだと私は思うけど。まぁ、確かにそうかもしれないな。」

「そうだろ?
例えば、人を殺すことは常識からも規則からも逸脱している。だが、仮にその殺人者にやむを得ない事情があったらどうなる?親を殺されたとかかな。
常識は人の心で何にでも姿を変えるんだ。」

「規則は心のないロボットだって例えるんだろ?」

「そうだが?」

「やった、当たった」

「子供か」

「大人だよ」

「見れば分かるよ」

「で、結局、この本の感想は?」

「“頭の固い人間が世界を語るべからず”」

「その通り過ぎて私何も言えない」

「じゃさっさと帰れ。私も忙しいんだよ」

12/16/2025, 4:35:48 AM




8/26/2024, 4:49:02 PM

「私の日記帳」


9月7日 晴れ

今日は彼奴が飴をくれた。2日後はおれの誕生日だから、毎日こうやってものをくれるのだと。
誕生日の当日はもっとすごいのをくれるらしい。
楽しみだ。きょうは少し早めに寝よう。
最近、疲れてるのか、すぐに息切れを起こしたりする。
外に出て運動でもするか。


9月8日 曇り

今日は体調がすぐれない。そのせいで彼奴に心配をかけてしまった。明日はおれの誕生日だから、海に行ける日だ。おれの先祖はなんでも海賊だったらしい。その影響だとは思わないが、おれは海が好きだ。
どこまで自由に続く海が昔から好きだった。
咳がひどい。熱も出てきた。明日は病院に











彼奴の日記帳を受け取ったのは、彼奴の葬式の三日後

8/19/2024, 2:33:04 PM

『空模様』


「傘を返してくれ」
下駄箱で、くすくすと笑う“男”と“女”を見てそう言った

時間は放課後。昼間はカンカンに晴れていたのに、今は雨が音を立てて降っていた。天気予報では一日中晴れ間が続くと言われていたので傘を持ってきた奴はおれの他に少しだけだった。
皆んなも占いぐらいすれば良いのに。心の中でそう思いながら教室から出る。
家で朝と夕と夜、少なくとも計3回はタロットカードの結果で物事を決めている。それに、占いの結果が外れたことなんてないから親も何も言ってこない。いや、そもそも親なんて自分にはいるようでいないものだから違うかもしれない。
前に学校でタロットカードを取り出したら周りの奴らに盗られそうになったから学校では占いができない。
親なんて呼ばれたら今日食べるご飯もなくなる。別にご飯なんて出されたことないけど。おれは昔からお婆様に育てられてきたから、自分の母にあたる女の作った飯の味など知らない。

ぐるぐると要らない思考が入ってくるのを頭を振って忘れようとする。下駄箱に着き、自分の靴を取り出して傘を取ろうとするが、そこにはあるはずの自分の傘がない。周りをキョロキョロと探すが、やはり見つからない。
誰かに隠されたか、それともなくしたか。
暫く探していると、後ろからクスクスと複数の笑う声が聞こえた。やっぱりか、そう思いながら後ろを振り返ると、いつもと同じ顔ぶれだ。
化粧の濃い、汚い女
爪が長くて、おれのカードを奪った女
口が汚く、うるさい男
髪色が汚く、下品極まりない男。
嫌になるほど憂鬱な気分になる。見てるだけで気が滅入るようなこんな下品な集団に自分のものを触られたと考えるだけで吐き気がする。

「傘を返してくれ」

そう言うが、やはり嘲るかのようにこちらをニヤニヤと見ながら笑う。気持ち悪い。

「あれは、おれの大切な物だ。返せ」

少しだけ語気を強くする。あの傘は、おれの爺様から貰った、いわば形見のような物だったから。
すると、そいつらおれの反応が気に入らなかったのか、ズカズカとおれに近づいて胸ぐらを掴む。

『#/@tjegP@mxpaWjp@!!』

何を言っているんだろう。聞く気がないから何を言っているのか分からない。こいつらの言う言葉は聞く価値もないので、おれが聞くとよく分からなくなる。
おれの胸ぐらを掴んできたやつは、右手で拳を作り、振りかぶっておれの左頬を殴った。
唇の端が切れて血が流れる。目にも当たったせいでちかちかする。
それでも尚、そいつらを睨みつけていると、そいつらの後ろから見慣れた奴がそいつらをバットで殴りつけた。
死んではいないだろうが、気絶はしているだろう。そう思いながら襟を直す。

バットで後ろから殴りつけた奴は、おれの家の近くに住んでいる。いわゆる不良だが、成績優秀で家庭科が得意だ。同じくそいつとつるんでいる真っ赤な紅色をした男も、不良だが勉強ができる。
というか、何故こいつらここにいるのだろうか。ここは市の北にある高校なのだが、こいつらの学校は南にあるのだ。

『おい、お前なんでまた絡まれてんだよ。殴ればいいだろーが。馬鹿が。』

『大丈夫か?これ、傘。お前のだろ?』

傘を受け取り、礼をして帰路につく。
あいつらはバイクの二人乗りで帰って行った。


今の空模様は晴れ。先ほどの雨は天気雨のようだ

8/16/2024, 2:19:40 AM

「夜の海」 



夜の海には行っちゃいけないよ。怖いお化けに連れ去られるからね。

俺の婆様が生きてた頃にずっと俺に言い聞かせていた話。正直、夜に出歩くのは危険だからやめろ、という注意を子供に覚えさせるための作り話だと思った。

俺は別に幽霊とか宇宙人とか、そんなの信じちゃいなかったし。
正直、婆様は俺のことを子供に見すぎている。
14歳だった俺に、怖いお化け、なんてこと言って信じるとでも思っていたのだろうか。
だけど、婆様は俺に優しくしてくれたし嫌いでもなかったからそんな野暮なことは婆様が亡くなってからも言わない。

俺の16歳の誕生日、望遠鏡を買ってもらったのを覚えてる。16歳の俺の趣味は星を見ることだったから、とても心躍ったのを覚えているし、その日の夜は寝ずに星を眺めていたのを覚えてもいる。

ある夜、その日はとても綺麗な夜空だったから外に出て星を見たかった。
親に言っても反対されるだろうと思ったし、それに星を見る場所は前から決めてた近くの海の砂浜だったから平気だと思い、家を抜け出した。


砂浜の砂が靴に入るのを鬱陶しく思いながら海を見る。
海には夜空が映っていた。むしろ海が夜空のようだったと言った方が、表し方に合っているのかもしれない。

いざ望遠鏡を覗こうとすると、後ろから足音がした。
まさか父さんにバレたのか?そう思いながら振り返ると、そこには一人の人、がいた。

綺麗な金髪、いや銀髪だろうか。どちらにせよ綺麗な髪色をした人がいた。年は俺より2個下だろうか。
少し袖が余るくらいの白のカッターシャツを着て、足は裸足だった。女、だろうか。

その人は俺のことをじっと見つめている。少しの沈黙が流れた後、その人は口を開いた。


『ここはおれの家の土地だぞ』


なんと、男だったのか。いやそれよりも、此処が私有地だったとは。すぐに彼に背を向けて急いで望遠鏡を片付けて、彼に謝ろうと前を向く。

「ごめん、ここが私有地だったとは知らなかった」

『…』

彼は黙ったままだった。怒っているだろう。勝手に知らない奴が家の庭に入ってきて、勝手に望遠鏡で星を見ようとしたんだ。

『星、好きなのか』

彼はそう言った。
俺はすかさず頷いた。それが彼にとって可笑しかったのか、クスリと笑った。

『おれも星は嫌いじゃない。だけど海の方がおれは好きだ』

海を指差す彼は、どこか懐かしそうな顔で海を見る。
まるで故郷が海であるかのように。

『おれの先祖は海賊なんだ』

彼はポツリとそう言った。

それが彼奴との出会いの話。

Next