花筏

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11/24/2025, 2:31:30 PM

「君が隠した鍵」

「落花流水」。死んだ親友が遺した小説のうちの一つ。
彼が自殺する1週間ほど前、俺はやつからこんなことを聞いた。

「『落花流水』には、ある特別なことを隠してるんだ。むかし、俺が言ってたこと覚えてるか?あるお宝を見つけたって話。そのお宝にまつわることが書いてある。場所、お宝の中身、あるいはまだ別の何かか。その辺を小説の中で探してみてくれ。ヒントは…、教えなーい笑。自分で探してくれ。お前なら見つけられるさ。親友だろ?もし見つけられなかったらって?その時はその時さ。いいんだよ別に。無理に見つけなくても。どんなものでも、いつかは塵となって土に還るんだ。ただ、あれを見つけるのがお前であって欲しいなって思っただけさ。」

そんなこと言ったって、831頁もある小説の中からそんなもん見つけろって言うのかよ…。
物語としては、ある少年が幼なじみの少女に恋をするが思いを伝えられず…とまあ、ありきたりな恋愛モノか。
まぁ、読むか…


800~801頁
「…どうしても伝えたいと願っていたけど、僕が意気地無しなせいで、彼女は行ってしまった。この思いはどうなるのだろうか。この思いとともに、塵となって土に還りたい。僕はどうすればいいんだ。…」

ん?この言葉…よくあいつが言っていたな。
あ、もしかしてこれか?
801頁13行目
「彼女への手紙を収めた箱は、よく通っていた神社の鳥居の右柱から4番目の木の根元に埋めた。箱の鍵は僕の部屋の机の上から三番目の引き出しの二重底に隠した。これは、彼女への思いを封印するという僕なりの意思表示と決意だ。もう僕は前に進もうと決め……。やっぱり、やっぱり…、でも……」

これか?あいつ言っていたお宝にまつわることって。
…はぁ〜。行ってみるか。あいつの願いだしな。


死んだあいつの部屋には、友人ということで簡単に入れた。まだ片付けられてないようだったから、引き出しや部屋もそのままになっていた。
案の定、引き出しの上から三番目の二重底に、鍵があった。むかし、あいつとよく一緒に行った神社の、鳥居の右柱から四番目の木の根元を掘ってみると、…あった、箱が。

鍵を開ける。
中に入っていたのは…
あまたの原稿用紙、手紙、便箋、そして、その底に隠されるように置いてあったトパーズ。
あいつの言っていたお宝ってこれか?
原稿用紙を見てみると、そこには…。
「俺へのラブレター?」
俺に気持ちを伝えたいが、幼なじみであり親友であるという関係性を崩したくなくて苦しいという旨のことが多く書かれていた。そして、そんな思いを昇華して作られた、恋愛小説の数々。未発表の、作家デビューする前のものと思われるものがほとんどだった。

…なあ、お前の気持ちはよくわかったよ。じゃあ、俺は今後、どうすればいいんだ?お前のいない世界で…


8/20/2025, 9:46:32 AM

後日あげます

8/18/2025, 3:48:24 PM

【足音】※BL注意
夏の夜というものはどうも暑くて敵わない。
ここはひとつ、背筋の凍る話でもいかがでしょう。

昔昔のある夜、冷房なんぞない時代。とある男が夜道を歩いていた時のこと。
男「今日も商売は上々、ちょいと宣伝ついでに散歩でも行くかねぇ」


ぼたっ、べとっ、べとっ……
男「(ん?なんだ、後ろから誰かが歩く音がする。)」

振り返ってもそこは真っ暗

男「(なんだ?提灯を持たずに出歩いてる奴がいるのか?…気味が悪い。今日はちょいと早歩きで回るとする)」

スタスタ
ぼとっ、
タッタッ
べととっ、べとっ、

男「(ちくしょう、着いてくる。なんなんだ一体)」

男「帰ったぞ!」
女「おや、早いねぇ怠けてんのかい?」
男「ちげぇよ。後ろから気味悪い足音がずっと着いてくるもんだから早めに周って帰ってきただけさ。べとっべとっって。」
女「おや、後ろからついてくる足音かい?そいつはもしかしたら”べとべとさん”ってやつかもしれないねぇ」
男「なんだそれ」
女「なんでもよ道を歩いてると後ろを着いてくるっていう妖怪だよ。お先にどうぞって言うと消えるらしいよ。ただ、足音がべとっ、べとっって言うからべとべとさんらしいよ」
男「ほぉ、妖怪ねぇ。面倒なもんだが、明日も着いてくるってんならいっちょ唱えてみる価値はありそうだなぁ。」

〜〜~

男「ほいじゃ、行ってくるよ。」

スタスタ
……とっ

スタスタ
…ベとッ

スタスタスタスタ
べとっ、べとっ、

スタスタ
べとべとっ、

男「(今夜も着いてきたか、俺が止まると一緒に止まるな。よし、確かお先にどうぞだったかな。)」
男「べとべとさん、お先にどうぞ」
男「(これで行ってくれ。)」
……
男「(何も行かない。結局妖怪なんかじゃねぇじゃねえか。……だとしたら後ろを着いてきてるやつは一体何だ?妖怪の類でないのなら……)」

???「いやはや、すいませんねぇ怖がらせてしまったみたいで」
男「お前さんは、斜向かいの魚屋の!何をしてらっしゃるんですか?」
魚屋店主「いやぁ、すいません。最近ちょいと家内とやり合いましてねぇ。家にいたくないがために提灯1個使うのも勿体なくて少し明かりを借りるつもりだったんです。」
男「声をかけてくれればよかったのに。どうです、これから池の方を通って裏路地から油屋の方に行くんですが、ご一緒しませんか」
魚屋店主「いいんですか?ではお言葉に甘えて」
男「いやぁ、しかし家内と争いごとになっちまうと家に居ずらくてしょうがねえでしょうなぁ。」
魚屋店主「ええ、そうなんですよ。おかげで夜の方もご無沙汰でございます。」
男「ははぁ、それはそれはまた大変ですなぁ。」
魚屋店主「ええ。……あなたが相手をしてくださってもいいんですよ?」
男「……はい?」
グイッ、ドサッ
魚屋店主「あなたのこと、ずっと綺麗な人だと思ってたんですよ。男のくせに色白の肌に、身奇麗で、佇まいも女のようだ。1度味見してみたいと思っていたんですよ。ああ、ご安心を。あなたが後ろを使うのは初めてだろうと思いましてね。ちゃんと用意してきましたよ。最近海藻がよく取れましてねぇ。質のいい海藻から作ったいぶちのり。たっぷり用意してきました。作りすぎたもんで道中道に垂らしてしまいましたが。あなたの奥様もあなたの帰宅が遅くても、出歩いた先で話し込んで油を売っていると思うことでしょう。何も心配はいりません。ふふっ。楽しみましょうねぇ……」

〜〜~

客「最近、あそこの染物屋の店主。気をやっちまったみたいであんま外に出てこないみたいねぇ。今まで夜の練り歩きも積極的にやってたけど、今じゃすっかりなくなってしまって。美丈夫だったからまた来てくれると嬉しいんだけどねぇ。なんか知ってるかい?魚屋さんや」
魚屋店主「いやぁ、知りませんねぇ。今度新鮮な魚でも差し入れしましょうかねぇ。フノリなんかでも……」





7/31/2025, 3:23:20 PM

【眩しくて】
今のように電気がない時代、夜になると人々は油に芯を浸し、そこに火をつけ明かりを灯しておりました。
冬になれば夜も長く、寒くもなりますから、火鉢の炭に行灯の油にと、何かと物入りになってきてしまい、貧しい家はほとほと困り果てておりました。
女「ああ、油がもうこんだけしか残ってないよ。一体この冬をどう越せって言うのさあんた。」
男「ああん?しょうがねぇだろ。油も炭も値が上がっちまってんだ。」
女「しょうがないね。あんたはちゃんと仕事しとくれ。あたしは油を何とか値切って買ってきますから」
女「しかしどうしたもんかねぇ。どこもかしこも売り切れだの値は下げられないだのケチ臭い」
商人「よぅ、おかみさん。油をお探しかい?ちょうどいいのがあるよ。」
女「なんだい?見せとくれ」
商人「こいつはいつまでたっても消えず、普通の行灯よりも明るさが段違いなんだ。どうだい?明るいだろ?おかみさん、どうやら油に困ってそうだったんでねぇ。どうだい?ひとつ1000文で売るよ」
女「1000文?ちょいと高すぎるよ。600文なら考えようかね。」
商人「そうかい。ちょいと厳しいがいいだろう。600文で手を打とう。毎度あり」
女「さて、何とか明かりは手に入ったけど、これで年越しまで持つかねぇ。どうだ、ひとつつけてみよう」
女「こりゃあ、明るい!しかも油もたっぷりあるねぇ。これはいい買い物をした。あの人にも後で見せよう」
男「おーい、帰ったぞう」
女「おかえりんさい、行灯買ってきましたよ。なんでも特別なもんで」
男「特別?行灯に特別も何もあるもんかい。どれ、いっちょ…」
男「眩し!おいあんたこりゃ眩しすぎるよ、こんなんじゃ夜つけたら近所迷惑だぞ!」
女「ありゃ、昼つけた時はそんなにだったんだけどねぇ。だからあの商人も値切りにイチャモンつけなかったんだね。こりゃ面倒なの掴まされたよ」
男「まぁ、買っちまったもんはしょうがねぇ。待っからな正月よか明るい方がいいだろう」
男「しっかし明るすぎるな。どれ、布でもかぶせてみるか。」
女「あ、お前さんそれは…」
チリヂリ、ボっ
男「ああ!」
女「ほら!早く火を消して!」

ジュッ

女「全く、何をやってるんだい」
男「すまねぇ。しっかしこいつはダメだなぁ。眩しいだけで、何の役にもたちゃしない」
女「いい買い物をしたと思ったんだけどねぇ、結局要らん骨董品掴まされただけかい」
男「俺達にはもうそりゃあ明るい火の車があるしな」

7/28/2025, 3:30:51 PM

【虹の始まりを探して】
シロが死んだ。
理由は単純、老衰だ。
20歳だった。
雨の降る日、シロの骨が火葬場から帰ってきて庭に埋めた。
次の日、友人でシロとも仲が良く、よく遊んでいた太郎が来た。
太郎「よう、遊びに来たぜ。あれ?シロちゃんはどうした。いつもなら尻尾振ってお出迎えしてくれるのに」
僕「シロはもう家にはいないよ。虹の橋を渡ったんだ」
太郎「虹の橋を渡ったから居ない?なら早く追いかけようぜ。今ならまだ虹もはっきり出てる。今から追いかけたらまだ間に合う。早く虹の足元に行こうぜ。まだ橋渡切ってないかもしれないし」
僕「おまえ、意味わかってないの?」
太郎「うちから逃げて虹の橋渡ったんだろ?なら追いかけりゃまだ捕まえられるかもしれねぇじゃねぇか。」
僕「はぁ、こういう時お前の馬鹿さに救われるとはね。いいよ。早く虹の始まりに行こう。」
太郎「おうよ!かっ飛ばすぜ!」







太郎「ところで、虹ってどうやって渡るんだ?ありゃ水蒸気だぜ?」
僕「…」

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