ひどりみ

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2/12/2026, 9:33:35 AM

【この場所で】

 私はまだ、君を自宅へ招いたことはない。時折、ここで同じ時を過ごせればどんなに幸せかと考えることがある。私たちは何をするだろうか。
 ゲーム。私は対戦型ゲームを持っていないから、戯れながら協力プレイをすることになる。
 だべり。何もせずとも、近い距離を感じるだけで私は満たされるだろう。
 食事。料理を振る舞って、君に美味しいと言ってもらえたなら、私は他の何でも満たせない達成感に包まれると思う。
 睡眠。君に寄り添って眠ることは、私が体験した中で最も心地いいものだった。
 全ての瞬間が特別で、なにより幸せで、一時一時が過ぎて欲しくない瞬間になると分かっている。だからこそ、私はその幸せを迎えたい。

 けれど、同時に思う。君がいなくなってしまった後、わたしはきっと寂しさに耐えられなくなってしまう、と。
 今でさえ、ほんの少しのきっかけで君と過ごした時間がフラッシュバックしてどうしようもなく恋しくなるというのに、この場所で過ごした思い出が出来てしまっては、きっかけと共に暮らすことになってしまうから。
 何もしていなくても君の姿を思い出し、眠っても君の夢を見て、気を紛らわすために触れるものすら君の存在を思い起こさせるだろう。

 それがどうしようもなく苦しくて、寂しくて、とても幸せだろうと、今日もこの場所で思った。

2/4/2026, 11:50:00 AM

【Kiss】


 リアルな体験談はきっとみなさん好きでしょう。だから、詳細に綴ってみようかと思い立ちました。英字表記になぞらえたおしゃれな書き方が出来ればよかったのですが、生憎そこまでの技術はありません。大人しく、写実路線で攻めようかと思っています。人はこれを逃げと呼ぶのかもしれませんね。

 私のファーストキスの相手は今の恋人です。幼きころ恋愛のいろはも分からぬまま、恋に恋して付き合った相手とは違って、自ら触れたいと強く思う相手でした。
 中々会えない事情も相まって、私は写真に口付けすることで恋しさを紛らわせておりました。柔らかく暖かな体に焦がれて、凹凸のない無機質で冷ややかな画面に唇を重ねる。きゅうんと胸の奥が締め付けられる感覚は、どこか心地の良いもので。写真だというのに、私はもうその感覚の虜になっていました。

 ようやく会えたその日。前日までは会ったその瞬間にキスしてしまうかも、なんて話していたのに、私たちは緊張もあって手を繋ぐことすら躊躇していました。もどかしいですね。
 人目を避けて駆け込んだカラオケルームで、私は距離を詰めて、画面へ向かうより深く、顔を近づけました。するとなんということでしょうか、恋人は顔を逸らしてしまったのです。勇気を出した行動が実を成さず、照れの感情に支配された私は、はにかみながらも少しむっとして、「逃げたあ」なんて言った気がします。
 今度は逃がさないように。しっかりと捕捉してから、ようやく、私は初めてのキスをしました。勢いよく行き過ぎて歯がかちりと当たりましたが、それは紛うことなき口付けでした。焦がれていた感覚がそこにはあって、なによりの幸福感と、あたたかな感情と、切ないような苦しいような、……ああ、そうですね。私はこれを簡単に形容する言葉を知っています。「好き」だと。感じました。

 それからはもう、イチャイチャちゅっちゅです。またねをする頃には、とてもキスが上手になっていたというオチ。
 どんな顔をしていたとか、どんな発言がかわいかったとか、言いたいことはいろいろあるのですが、これは私の宝物ですから、大事に胸の内にしまっておこうと思います。

2/3/2026, 12:20:44 AM

【勿忘草】

 あなたからもらったその花で、私は恋占いをした。五枚の花弁をつけた小さな花。
「好き。」
 勿忘草というらしい。少しはにかみながら教えてくれたその名前も、表情も、きっと二度と忘れられないのだろう。
「嫌い。」
 それは呪いと呼ぶべきか。想っていても苦しいだけなのに、断ち切れない。
「好き。」
 初恋だった。そして、私の人生を決定づける恋だった。異性と恋をしてみようとも思ったけれど、あなたに替わる人なんていなかった。
「嫌い。」
 結果は分かりきっていた。花占いの結末も、恋の結末も。
 あなたは今日、新たな家族となった人の元へとこの土地を発ってしまった。私に恒久の友情を誓って。それがどんなに残酷なことかも、ついぞ私は口にできないまま。
「好き……」
 茎だけになったそれを、いつまでも見つめ続ける。花弁はもう戻らない。あなたももう、戻らない。
 湿っていく花弁が青色なら、真実の愛を示していたのに。散ったそれは、真実の友情を示す恋の色をしていた。

1/29/2026, 7:52:26 AM

【街へ】

 たまには筆を取ろうと思ったんですよ。だらだら話すのもいかがかと思いますけどねえ。人にはやはり自己顕示欲というものがあって、自語りするのは気持ちが良いものです。どうしてそういう生命維持に関係ない愚かなサガが備わって人間が出来てしまったのか、不思議ですね。

 いつだったでしょうか。あれは秋の目前に迫った夏のことだったような気もします。なんだかどうしようもなくフラストレーションが溜まって、わたしは深夜2時に家を飛び出しました。毛玉だらけのパジャマでイヤホンをつけて、スマホ片手に、靴を履かずに。夜の静けさと冷たさが私を癒します。足裏から伝わる、普段は知りえない凹凸が新たな刺激を私に与えます。粘度の高い汚れた思考から、淀み落ちていく感情から解放されていくのを感じました。
 何もかもから離れたくて、私は川のある方へと歩を進めていきます。足裏に感じ取られる刺激が、押し込められたコンクリートから土道に変わって、またコンクリートに変わって……。しばらくして、私は川辺に辿り着きました。思っていたより街に取り込まれていたそこは、わずかな街灯に照らされて水面をきらめかせています。案外明るいじゃん、なんて思いながらも、心が洗われていくのを感じました。
 本当は川辺まで降りたかったのですが、高く草の生い茂ったそこに素足で降りる気にはなれません。ガラス片などあったら、私はナメクジのように帰り道を示していくことになってしまいますし、虫嫌いの私は生で彼らに触れるなんて言語道断でありましたから。
 帰り際にまるまると太った野良猫と戯れて、自宅へと辿り着きました。特になにかをしたわけでもないのですが、家を出る前のどうしようもなく落ち込んだ気持ちからはとっくに解放されていて、健やかに眠りにつくことができました。

 街から離れようとして、結局街へ歩いただけの話。意味はなくとも、ひとさじの非日常の体験と夜の雰囲気が、私を励ましてくれた思い出です。落ち込むとその日のことを思い出して、また深夜徘徊に勤しみたくなるのですが、近頃はめっきり寒くなっていて断念してばかりなので、早く暖かくなってほしいですね。
 また春を待つ理由がひとつ増えました。

12/4/2025, 8:42:51 AM

【冬の足音】

 たまにはこの文体で書こうと思いましてね。エッセイというのでしょうか。エッセイって何が良いのか未だに分かってないのですけどね。まあでも、枕草子とか土佐日記とかは面白いエッセイだと思ってますよ。「春はやっぱ明け方が良くて卍。だんだん白くなってく山際が明るくなって、purpleの雲がたなびくのマジ乙って感じ。ほんとグラデーション綺麗でイケてる!」ですからね。ギャルくて草という感じで。土佐日記に至っては「男の人が書いてる日記、ワタシも書いてみようと思うの。」(男著作)ですよ。やはりネカマという主要な文化というものは昔からあるんです。
 さて、お題の冬の足音ですが、うるさいなんてもんじゃないですね。師走は冬区分なので、今足音がするのは許容します。しかしまだギリギリ秋だった3日前くらいの足音は酷いものでした。上の階で海外パリピがジャンプしまくっているような酷さでした。いえ、どちらかといえばジャンプの勢いで床つき破ったみたいなはみ出し具合でしたね。まあ冬の3日前とかほぼ冬なのて仕方ありませんが。
 身近な人にガチガチに冷帯、北海道の人間がいるので、11月中旬に雪降った報告を聞いた時は驚きました。冬の足音はきっとそちらから聞こえているのでしょう。
 今はもう冬は傍にいます。多分もっとうるさく足を踏み鳴らすので、覚悟をしておきたいと思います。今度は北海道からでなく、直ですから。

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