好きな人が浮気した。
同情の余地はない。絶対復讐してやる、と心に決めた。
好きな人が女とおしゃれな店に行った。
ずっと私が行きたいと思っていたのに。あなたと一緒に行くため我慢していたのに。全部水の泡だ。
目の前の席からあなたの馬鹿みたいな顔を遠目で覗き込む。あなたは気が付かない。
好きな人が女の髪に触れた。
私があなたの好みに合わせてロングヘアーにしてもそんなことしなかったくせに、なんでショートの女の髪なんかに。
好きな人が女と服屋に入った。
可愛いワンピースを持って女が試着室に入る。
私のほうが可愛いワンピース着てるよ?あなたの好きな、花柄。そんな無地なんて可愛げない服着てる女、なにがいいの
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「ねぇ、さっきからなんかあの人につけられてない?」
彼女に言われ、俺は振り返る。知らない長い髪の女がこちらを見ていた。
「うわ、気味悪…」
「ねぇ、なんか恨み買うようなことしたの?」
「わかんない…“記憶喪失になる前に”なにかしたのかな」
俺は数ヶ月前事故に遭い、記憶喪失になった。
でも、彼女は毎日お見舞いに来てくれた。でも、たくさんの人がお見舞いに来てくれたなかで、あんな女は知らない。誰なんだろう?そういえば、お母さんが髪の長い、特に花柄の白いワンピースを着た女には注意しろって言ってたな。それにしても、知らない人につけられるのはだいぶ気分が悪い。
「ストーカーするって、どんな心境なんだろう?」
「同情できないな」
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彼と浮気相手が私の話をしている。なぜわかるって、目が合ったから。ヒソヒソと話しても、何言ってるかはだいたいわかるわよ。
あいつは、浮気していた。私はそれを知っていた。
だから、轢いてやったんだ。思いっきり。
馬鹿みたいな顔してたなぁ。恋人に車で轢かれたんだから、そうなるのは当たり前だろうけど。私が浮気に気がついてるなんて知らなかったんだろうけど。
そしたらあいつ、記憶喪失になったの。
防犯カメラとかなかったから警察には私がやったってバレなかったけど、勘のいいあいつの母は、お前がやったんだって言ってきたな。警察にも言ってたけど、証拠がないから私を逮捕できないって。ヤバい人か?ってヒソヒソ言われてたな、あの人。でも、あの人が粘ったせいで私は病室に入るのを禁じられた。だからだ。だから私は病室に入れず、あの女がずっと入り浸って。だからあの女が唯一の彼女だと思ったんだ。
絶対、次はその幸せ壊してやる。
元カノとして。
悪いけどあいつらに同情なんかしてやらない。
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彼はストーカーされてる。元カノに。
もう諦めなよ。私は知ってる。あの子は復讐しようとしてるんだ。そんなことさせないよ
確かに浮気してたけど、今は記憶を失って真っ当な人生を送ってるんだもん。絶対、私は彼を幸せにしてあげる。
彼女として。
悪いけどストーカーさんに同情なんかしてあげない。
お気に入りのペンダントを、見せびらかすように付け廊下を渡る。
「うわ、あのペンダント…」
「お嬢様じゃん」
ふっ!!そうよ、金持ちよ!!!!崇めなさいっ!!
そう思っていたんだけど…
「どわっ?!?!」
ぱりーん。廊下で走って飛び出してきた芋っぽい男とぶつかった直後そんな音がして、音のなったほうをみると…
宝石が割れた私のお気に入りのペンダントが転がっていた。
「ぎゃーーー!!」
多分、衝撃で飾りの部分からチェーンが外れて落っこちたのだろう。
「私のバイト代5ヶ月分がー!!ちょっと、どーしてくれんのよ!!!」
芋っぽい男のほうに振り返る。
「あ…すみません。弁償します。いくらですか?3千円?」
「んなわけないでしょ?!55万円よ!!」
え…そんなに?!とでも言わんばかりにポカーンと口を開けているので、つい殴りたくなった。しかし、過ぎたことはせめても仕方ない。
「ちょっとこっち来なさいよ!」
人気のない道に連れて行く。「うわ…カツアゲ?」とヒソヒソ言われながらも、そんなことは50万円弱の前ではカンケーないのだ。
「これから放課後、必死に働きなさい。」
「う…やっぱり…蟹漁船とか、?」
「そんなコトに手を出すわけないでしょーが」
はあ…とわざとらしく溜息をつく。
「あんたは今日から、私といろんなバイトをはしごするのよ。平日は放課後8時まで。土日は朝から昼までね
2人で頑張れば3カ月もかからないわ」
「え…お金持ちじゃないんですか?」
「違うわよ!コツコツ必死に貯めたの!」
ほえー、と間抜け面をする…この…えっと
「名前…なんて呼べばいい?」
「え…じゃあ、山本さん、?」
「山本…苗字だるいから芋太郎でいいわ。よろしく芋太
私は北条まり」
「えぇ…でも、すみません。今まであなたのこと誤解してました。てっきり親が裕福でお金に物を言わせている方かと…」
な、何こいつ。さっきまでうじうじしてたのに急に失礼なこと言うわね。
「でも、あなたの努力だったんですね。失礼なこと言ってすみません。そんなちいさな装束品の為に働き詰めする方だったなんて」
「引っ叩くわよ」
まあ、いい。
「今日から貯めていくわよ!ほら!えいえいおー!」
「ぇ゙っ…えい…えい、おー?」
ペンダント代…残り55万3200円。
今日は土曜日…そして、バレンタインデー。
つまり―――
学校がない今日、好きな人にチョコを渡すには、“家に行く”か“呼び出す”しかないのである。勇気さえあれば渡せるのだ!
だけど、一つ問題があるとすれば…
「私、好きな人の家と連絡先知らない…」
詰みです。もー無理です。
渡す手段を考えずにチョコレートを作ってしまった…
愛しの涼先輩。確か北杉小学校出身だから、どの辺り、っていうのはわかるけど、正確な場所までは…
そうだ!
同級生で幼馴染の寛太。
こいつは確か、サッカー部だったはず。
私は電話をかけた。
「やっほー、元気してる?」
「え、してるけど…今部活だからあとでいい?」
むしろ、部活中だからこそ好都合だ。
「あのさ、あんたってサッカー部よね?
涼先輩にチョコ渡したいんだけど…」
「え?涼先輩?あの人今日休みだぞ」
「えっ…じゃあ連絡先知ってたり…」
「あの人スマホ持ってないけど」
…終わった
私の青春がーーーー
「何お前バレンタインチョコ用意してたの?
先輩にあげれないなら俺にくれよ笑なーんて…」
「そうね、もったいないしあげるわ
あんたのお母さんに渡しとくから家帰ったら貰っといてね」
「えっちょ」
ぴっ
はー…来年こそは、ちゃんと涼先輩に渡せるようにしとこう。チョコ作る練習もしとこうかな…
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「えっちょっ」
好きな人に、冗談を言ったらチョコを貰えてしまった。
帰ったら好きな人のチョコが。そう考えたらその後の部活になんて全然集中できなかった。
「あんたー、香織ちゃんがあんたにチョコ持ってきたわよー」
お母さんにチョコを貰ったがーーーー
ハートのチョコには、でかでかと
『涼先輩LOVE♡』と書いてあった。
…好きな人の、他人への愛が詰まったチョコを食べた。
来年は、俺用にもらえたらいいなー…なんて。