「明日地球人全員が突然死するとしたら…どうする?」
沈黙がなんとなく嫌で、唐突に投げかけた。
となりに座る君は、僕の目をちらりと見てすぐ手元の本に目線を戻した。無視されたかと思ったが、ページをめくる手が止まっている。意味のない質問の答えを、真剣に考えているようだ。ちょっと申し訳ない気もするが、せっかく二人でいるのに本ばかり構ってる君が悪いのだ。
『どうするって言われても。いつも通り、本読んでるんじゃない?』
急にどうした?と言いたげな君の顔が目に映る。読書の邪魔をされたのが気に入らないのかもしれない。でも遊びに来た友人をほったらかして、一人で読書にふけっているほうが悪いだろう。だから、やめてほしそうな君の表情には気づかなかったことにした。
「じゃあ次。もし自分だけ生き残ってたらどうする?」
また手が止まる。嫌なら無視すればいいのに…君って変に真面目なところあるよね。それが面白くて、吹き出しそうになる。
『どういう状況?…とりあえず、ほかの生存者を探す…かな。』
思ったより普通。本のことでいっぱいの君の脳みそなら、『図書館とか本屋に住んで本読む』とか答えると思ったのに。もしや…わざとつまらない回答をして妨害をやめさせる作戦なのか?
「……僕以外見つからなかったら?」
言葉にしてから思ったが…気持ち悪い質問だ。世界に君と僕の二人だけだったら?と同じようなもの。こんな質問をするのはラブラブでアツアツなカップルくらいだろう。君はなんて答える?そもそも、意味も意図も分からないこんな質問には答えない?
真剣に答えてほしいような、無視してほしいような…。
『きみがいるならもう探さなくていいかな。図書館か本屋か学校の図書室か…一緒にどこかに住んで本読みたい。』
なんだそれ。どういう意味…?
情報を飲み込めずにいると、さっきの答えに言葉がつけ足される。
『よくわかんないけど、きみとだとおちつくから。だから本に集中できる。……今みたいに話を振ってこなければ、だけど。』
僕だと落ち着く…?言い方的に、他の人じゃだめだけど「僕」なら…?なにそれ。本読むのやめて遊ぼって言いたくなくなるようなことを、わざわざ……。
僕が黙っていると、君はにやりと笑った。読書に集中できると思ったんだろう。そこでやっと、僕ははめられたことに気付く。
どこからが君の作戦だったの…?
「0からの」
未完成
階段を2段飛ばしで駆け上がり、廊下を全力で走る。先生がいれば捕まるであろう速さ。しかし今は自分だけだ。ぶつかる人も注意する人もいない。ラストスパートをかけて、2年4組の…自分の教室へと向かう。
「あ、おはよー」
勢いよくスライドした扉の向こうには、1人読書をするクラスメイトが座っていた。……またいる。
こんなに朝早くから学校に来たところで、やるべきことなどあるのだろうか。自分も人のことは言えないが。
「おはよう。いつも一番だよね。」
「まあ、たまたまだよ。いつも通りに家出てるだけだし。」
いつも通りに家を出て7:30に学校に着くことなんてあるか??
誰よりも
日記は気持ちを落ち着かせるのに良いらしい。
だが、それ以前の問題。
一文字も書けない。ペンが、手が動かない。
書くのも嫌になる自分の汚い思考。
自分の中で渦巻くグロいモノを、表に出すことができない。少しでも漏らせば、それに支配されてしまいそうで恐ろしい。とっとと追い出したいはずなのに。
『どこにも書けないこと』
気づけばここにたどり着いていた。
温かくも冷たくもない水で満たされている海の底。空を見上げても、深く暗い青がずっとずっと広がっているだけ。海水のこぽこぽする音しか聞こえない。静かで、暗くて、ちょっと苦しいけど……
ここにいればすべてを忘れられる。
悲しかったことも、辛かったことも、何もかも。何も感じなくていい。何も思わなくていい。それを許してくれるこの場所が大好きだ。
時間ができるたびに僕はそこに行って、一人で心を落ち着かせた。嫌なことを思い出した日は、一日をそこで過ごした。僕の心は、いつも穏やかだった。
海に沈むようになってから一ヶ月。
……最近、なんだかおかしい。「わからない」と思うことが増えたのだ。
泣けると話題の映画の良さが分からなかった。
野良猫のかわいさが分からなくなった。
やりたいことが分からなくなった。
今までの夢は、もうワクワクしない。
そもそも「ワクワク」とは何だったか…?
僕の心は、いつのまにか動かなくなっていた。
『海の底』
「おはよ〜。今日も寒いねえ」
ずっとずっと待っていた声が後ろから聞こえ、思わず飛び跳ねたくなる。そんな気持ちをぐっと抑えて、いつも通り「うん」とだけ返事をした。そんな私に友は、塩対応!冷たい!と楽しそうにからかう。
…楽しい。うれしい。
いつも「おはよう」って言ってくれること
消しゴム拾ってくれたこと
おすすめの本を教えてくれたこと
いちご味の飴をひとつくれたこと
ネームペンを貸してくれたこと
いつも「バイバイ」って言ってくれること
うれしかったこと、全部覚えてるよ。
いつも感謝してるよ。
積もるたび、思い出すたび、私の心はあたたまる。
『振り積もる思い』