今度はアダルティなびーえるで。
「なにそれ」
広めのソファーに横たわりだるそうに机の上のお洒落な袋を視線で示しながら聞いてくる同居人。
「あぁ、これ?」
その袋を摘み上げて見せる。
「バレンタインのチョコレートだって」
「誰にもらったの?」
「同じ大学の…」
説明しようとして冷たい視線を送られてる事に気付いて慌てて付け足す。
「お前にだよ。渡してってさ」
毎度のことだけど参っちゃうよね。苦笑しながらソファーの彼を見ると不機嫌な顔と視線がぶつかる。
「お前はそれを受け取ったのか?」
「そだよ、ダメだった?」
いつもより声が低い。
「別に…」
今日の彼は機嫌が悪い。
何かしたのだろうか。
「食べてみる?何だか美味しそうだよ」
シンプルだけどお洒落な装飾で包まれたそれは送り主のセンスの良さが伺えた。
渡した本人も美しいひとだった。
思わず受け取ってしまったけど本当は…。
無言でずっと見つめられていて居心地が悪い。
こんなもの受け取らなきゃよかった。
恨めしくチョコレートを睨みつけてしまう。
「食べさせて」
突然破られた沈黙に聞こえて来たその言葉を理解出来なくて無言で彼を見返してしまう。
「食 べ さ せ て」
ゆっくりと低い声で一字ずつ丁寧に発音される。
食べさせて。
脳内でまたゆっくりそれをなぞって信じられなくて自分を指差してそれから彼を指差す。
それを見届けた彼は目は笑っていない意地悪そうな微笑みで持って頷いてみせた。
「いや、でも…ねぇ」
もはや何て答えていいか分からずに訳もわからない言葉を発してしまう。
「いいから、早く」
声がより一層低くて怖い。
おずおずと綺麗に飾られたその箱を開けてみる。
一つ一つが丁寧に作られた豪奢なチョコレートたちが並ぶ。
その中のひとつを摘んで彼の元へ行き口元へ運ぶ。
彼はちらりとこちらを見上げそのまま俺の指ごと口の中に含んだ。
指に絡みつく熱に手を引こうとするが手首を掴まれて取れない。
そのままさらにねっとりと舌でなぞられる。
俺を見つめたまま離さない。
しばらく執拗に指に絡み付いていたその舌からやっと解放された。
「甘すぎる…」
「チョコレートだからね」
動揺を気付かれまいと舐められたその指先を後ろ手に隠しながら何でもないように答える。
「まだ…」
「甘いって言ったのに、また食べるの?」
「早くよこせ」
目で指図してくる。
仕方なくまた一粒口元に差し出すと。
「そうじゃないだろ」
俺の唇をそっと指でなぞって笑う。
「それはちょっと…」
逃げの態勢に入る俺の腰を逃げれないように掴まれた。
近づいて来るその顔に逃げるように自分の口を手でカバーする。
「手をさげろ。キス出来ねぇだろ」
真っ直ぐ射抜くような視線で命令されて仕方なくおずおずと手を外すと、それと同時に俺の手から奪われたチョコレートを口に含んでそのままキスされた。
閉じてた口の間にねじ込むようにチョコレートが入って来て甘さが口の中で広がった。
中からとろりと流れ込むアルコール。
甘さと熱さを味わってるとそこに割り込んでくる彼の熱いその舌が。
俺の口内を自由気ままに蹂躙する。
押しのけようとしてもどこまでも追いかけて来て絡まれ吸われる。
息も上手く出来ないままむしゃぶり尽くされてやっと解放された。
「やっぱり甘すぎるな」
自分の口を舐め上げながら呟く彼に酸素が足りない俺は反応が出来ない。
「お前相変わらず息継ぎ下手くそだな」
離さないのは誰だよ…!!と言いたいけど疲れて声が出ない。
恨めしい視線だけ送った。
いつの間にか機嫌も治ってるし。
「なに…?」
にんまり笑いながらなおも近づいて来る彼に逃げようとしたけど遅かった。
「チョコもいいけどやっぱり俺はこっちがいいな」
そう言って引き寄せられてまた深い口付けをされる。
いつ終わるかも分からない口付けにめまいを感じながらそのまま目を閉じた。
(バレンタイン)
昨日フライングでバレンタインネタをあげた直後のこのお題発表…。1人戦慄するあたし。
そんなにバレンタインネタなんかないよ!!!(笑)
こりずにびーえる。
「はっぴぃばれんたいん!」
そんな声と同時に現れた彼は大きなバラの花束を抱えて入って来た。
「はい、俺の気持ちだよ」
渡されたその花束のバラの本数は33本だった。
“何があっても変わらない愛”
それを意味している。
この前は11本。あなたひとりだけ。
その前は1本。あなただけ。
どんどん増えていく。
その意味はちゃんと理解している。
だけど素知らぬふりで受け止める。
知らないふり。
気付かないふり。
「ありがとう。おれ食べ物がよかったなー」
なんて目を合わさないでいると不意に手首を掴まれて顔を覗かれる。
「俺には?俺にはなんかないの?」
思わず意識してしまいそうなのを知られないように咄嗟にその手を振り解く。
「あ、あるよあるある!」
ほらこれ。なんて彼の目の前に差し出したそれ。
「これなに?」
目の前に突然差し出された箱を不審げに見つめている彼に。
「開けてみてよ」
丁寧にその箱を開ける彼は、そこから出て来たものを不思議そうに見た。
「これなに…アップルパイ?」
「そう、それ!俺が作った!」
「お前が!?何これ食べれんの?」
「お前何気に失礼だな!!」
「うそうそ。嬉しいありがと」
決して上手に作れてないそのアップルパイと言い張っているそれを目の前の彼は嬉しそうに見つめる。
「これ食べてみてもいい?」
「どーぞどーぞ」
味に保証は出来ないけど。
彼はあらかじめ食べやすくカットしてたアップルパイをひとつ摘んで口に入れる。
それを心配そうに見つめて様子を伺っていると。
彼は味わうように咀嚼してひとつ頷いて笑った。
「美味しいよ。君も食べて」
そのひと口かじったアップルパイをおれの口元に運んでくる。
少したじろいで後ずさるけど追いかけて来るから諦めてそのままかじった。
さくり。
見た目は悪いけど味は成功したみたいだ。
安心してるおれに向かって突如伸びて来た手に驚いて身を引く。
「口の端。付いてる」
そのままなおも伸びて来た手に口の端を軽く拭かれた。
「ありがと」
お礼を言うとにっこり笑われた。
「でも何でアップルパイ?俺好きって言ったっけ?」
「それともこれもなんか意味があったりする?」
「いや別に」
「ふぅん」と何やら納得してない様子でスマホを取り出す。
「何してんの?」
「いや。アップルパイの意味調べようと思って…」
「別に調べなくていいよ!!これと言って意味なんてないから」
慌てて彼の手からスマホをひったくる。
スマホを取り返すべく伸びて来た手に取られまいと必死でスマホを遠ざける。
後ろ手に隠したスマホ。
取り返すその手。
図らずしも抱き付かれるカタチになった。
「絶対何か意味あるでしょ」
近くで見つめられて必死で目を逸らす。
「円周率!!」
「…は?」
必死で叫んだおれの言葉が理解出来なくて彼は間抜けな声を出した。
「円周率ってなにそれ」
「円周率は円周率だよ。π(パイ)!」
「もしかしてパイってあのπ?」
やや間をあけて呆れたように聞き返す。
「駄洒落かよー」
ぎゅっと抱きしめられた。
「もっと深い意味であってくれよー」
ため息をついてさらに力を込めて抱きしめる。
「深い意味って何だよ」
笑いながら答えるけど心は乱れてる。必死だ。
「そりゃあ、好きとか。死ぬほど愛してるとか?」
「馬鹿じゃないのお前」
「ひどい」
「お前こそ頭おかしいんじゃないのか?」
「俺はいつでも本気だよー。あいしてるー」
なおも一層ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
「はいはい」
適当に返事してその背中を軽くポンポンと叩く。
「俺はいつでも待ってるからなー」
耳元で聞こえた声は聞こえないふりした。
アップルパイの贈り物の意味は永遠に続く愛。
その意味を彼は知らなくていい。
まだ彼の想いには応えられないから。
でもいつか。
いつかちゃんと言うから待ってて。
おれも、お前が好きだよ。
(待ってて)
長い長い遠征から旦那が帰って来たとの知らせを受けて急いで駆け付けた旦那の屋敷。
「帰って」
そう奥様に撥ねつけられた。
「旦那が帰って来てると聞いた」
「誰のせいでこうなってると…!!!」
何故だかすごく怒っているようだ。
旦那に何かあったのだろうか。
嫌な予感がする。
「奥様お願いだ。旦那に合わせてくれ」
「一目でいいんだ」
追い縋って袖を掴んで必死で懇願する。
「離してよ!!」
奥様は振り払おうと必死だがこちらも譲るわけにはいかない。
「一目でも、一目でもいいんだ!!お願いだから」
うんざりしたのか奥様は俺が掴んでた袖をもぎ取りながら睨みつけた。
「もう勝手にして。自分の目で確かめるといいわ!」
道を開けられたその隙間を駆け抜けるように旦那のいる寝室に向かう。
そこで目にしたのは目を閉じたまま横たわる旦那の姿だった。
「もう長いこと目を覚まさないわ」
いつの間にか横に来てた奥様に話しかけられた。
「身体中怪我だらけだし目も開けない」
射抜くように目が合った。
「あなたのせいよ」
「あなたがあんな事しなければこの人はこんな目に遭わなかった」
静かにたんたんと責められる。
よろよろと駆け寄り旦那の身体を必死で揺すると周りから止められた。
「何してるの!!」
そんな声を無視してさらに旦那の身体を揺する。
「旦那!旦那!!目を開けてください!!」
何度も何度も語り掛ける。
それでもその目が開く事もあの憎たらしい笑みですらも見ることが出来なかった。
旦那はずっと昏睡状態で居るらしかった。
「いつまで居るのよ」
あれから旦那のそばにずっと付いて離れない俺に向かって奥様が言い放つ。
「旦那が目を覚ますまで居る」
「帰りなさい」
「いやだ」
「医者だって手を尽くしたのよ。貴方にやれる事はないわ」
「それでも側にいる」
こうなったのは俺の責任だから。
俺が考えもなしに行動して敵国の舞を舞ってしまったから。
だから旦那は俺の尻拭いをするために戦地に赴いた。
「勝手にしなさい」
ひとつ大きなため息を吐いて奥様は居なくなった。
旦那の部屋に旦那と俺、ふたり。
そっとその色を失った頬に触れてみる。
「旦那。旦那…なぜ目を開けない」
どうしてこんな事に。
俺のせいだ。
「起きてください。お願いだから」
その手に腕に胸にそっと触れる。
腕にも脚にも大きな傷があった。
ごめんなさい。ごめんなさい。
こんな事になって。
俺が考えなしだったから。
何だってするから。
お願いだから目を開けて。
そしてまた罵倒してもいいから。
もう会えなくてもいいから。
お願いだから、また目を開けて笑ってよ。
まだ生きようともがいているその胸に懇願するように顔を埋めた。
「旦那…旦那…帰って来て。頼むから」
🍁(伝えたい)
びーえるだとしたら…?
ぴんぽーん。
店内に響き渡る軽快な来店音。
顔に影が掛かると同時に声を掛けられる。
「ひさしぶり」
最後に会ったのはいつだったか思い出せないその顔は思い出のままふにゃりと笑う。
変わらな過ぎて笑えてくる。
「なに笑ってんの?」
ちょっと困り顔でおれの目の前の席に荷物を置きながら笑い返される。
「いや、変わらないなって思って」
「そっちこそ」
目を細めて笑う。
その笑い方。
相変わらず好きだなぁって思う。
「まぁ座りなよ」
そう言ったらジッとおれの隣の席を見つめて。
「オレそこに座る?」
指を差しながら真剣な顔で返してきた。
「いやいやいや、何でだよ。そっち空いてるからそこに座りなよ」
真面目な顔で何言っちゃってんの。
咄嗟のことで半笑いになりながら目の前の席に案内する。
「そぉ?」
残念そうに向かいの席に素直に収まる。
「オレはお前の隣りに座りたかったのにな」
「男2人で並んで座ってたらおかしいだろ」
笑いながら返すけど目の前のこいつは釈然としない様子で見つめてくる。
「オレは気にしないけどなぁ」
「おれは気にする」
何年経ってもテンポが合わない。
でもこれがおれとこいつの日常だった。
「本当久しぶりな。元気にしてた?」
こうして2人で会うのも何年振りだろう。
どこに行くのも何をするのも一緒なおれらだったけど、高校卒業と同時に進路が分かれてそれっきり。
こいつが遠方の大学に進学したのもある。
でも連絡しようと思えばいくらでも出来た。
あえてそうしなかったのはおれだ。
こいつからの連絡も次第に途絶えた。
あんなにいっぱいこいつは送ってくれてたのにな。
「まさかアイツらが結婚するなんてな」
物思いにふけってたら突然現実に戻される。
「そうだな。あんなに喧嘩して別れる別れないを繰り返してたのに」
今回こうして久しぶりに会っているのもこれが理由だった。
いつもつるんでる友達の1人がずっと付き合ってたこれまた同級生と結婚するって事でその結婚式のためにこいつは帰って来てるのだった。
「それにしてもさ。まさかここがファミレスになるなんてな、思いもしなかったよ」
そう笑いかけられておれも釣られて笑う。
そうここは元々は公園と言うには少し寂しい作りの空き地でよくこいつと遊んでた場所だった。
こいつが居なくなってファミレスが建つことが決まったその時にひとりこっそりと覗きに来たことがある。
無くなってしまうこの想い出の場所に立ち尽くしたあの日。
その場所に今こいつと共にいる。
「本当だよな。おれらの想い出の地」
冗談めかして笑い掛けるけど目の前のこいつは薄っすらと笑って。
「でもまたここでお前とたくさん会えるね」
そう言った。
またここで、たくさん。
そう聞こえた。
言われた意味を咀嚼してる間に重ねて発されたその言葉は、
「オレ、こっちに転勤になったよ。帰ってくるんだ」
真っ直ぐにおれに刺さる。
思わず目を見開いて何も言えずにただ目の前のこいつを見つめることしか出来なかった。
「だから…」
その後に続いた言葉が遠く聞こえた。
そんな都合のいい展開なんてあるはずないんだ。
(この場所で)
彼について問われたらみんなこう言うだろう。
傍若無人なゴロツキだと。
「あんたまた街で騒動起こしたそうじゃないか」
朝早く屯所の自室で深酒で酔いの冷めやらぬ風情で横たわっている男に、この組織を取りまとめる男が詰め寄る。
「あぁん?そんな事した覚えねぇな」
大きな体躯でぞんざいに横たわりながら上目遣いでその男に視線をよこす。
「角の問屋を襲ったのはおめぇさんじゃないってことかい?」
静かに怒りの色を添えて上から見下ろす男は問い返した。
「しらねぇな。どっか他のやつがやったんじゃないのか」
とぼける男に業を煮やしたのか、その男はピシャリと盛大に音を立てて障子を閉め足高に去っていった。
「うるさい」
ポツリと言ってまた寝返りを打って寝直す。
後に知れるのだが、その問屋は物品を買い占め私腹を肥やしていた。
それが彼は気に入らなかったのだ。
またある日は屯所によく遊びにくる女の子が行方不明になった。
かくれんぼをしていたらしい。
周りのみんなが必死に探したが、次の日にはその子の訃報が伝えられ、その葬儀からその男はふらりと飲みに消えたらしくそこでも周りの反感を買った。
実はひっそりとひとりで涙を流してた事は誰にも知られていない。
またある時はこの男に付いていきたいと幼い剣士が願った時。
「邪魔だ。付いてくんな」
とそこにあった茶碗を投げられた。
子供相手にと非難を受けたが、その時この男はこの屯所内で自分がよくない方向に向かいつつある事を知っていたのだと思う。
度重なる目に余る暴挙、程なくして彼の粛正が決まった。
その男にはその男なりの正義があった。
誰にも理解されなくても譲れない正義があったのだ。
荒々しく振る舞うその裏で。
この国をよくしようと、その男なりのやり方で成し得ようと。
思う気持ちは誰よりもあったのだ。
誰にも知られる事もなく。
その強い信念は。
そして、
彼がどんな人だったかと聞かれたらみんな変わらずこう言うだろう。
彼は、傍若無人なゴロツキだったと。
⚔️💙(誰もがみんな)