ほとんど眠ることができず、時々腕を上に動かして人感センサーを光らせる。充電が切れかけているが明日までは持つだろう。この先の未来は二股に分岐していた。このまま何もせず待つか、幸福になる手段としての金銭を得るために健康を崩す可能性がある仕事へ募集するか。揺れるキャンドルは、人生の残り火はどれだけ残っているだろうか?何の根拠もなく上手くいく未来と失神して病院のベッドで目覚める未来。希望と不安がマッチ箱で擦れて生じた灯火が眠ることを拒絶していた。目を閉じると複眼のような大量の黒点がざわめいていた。目を開けて思考を停止させる。とりあえず一歩前へ。鶏のように生きる。今日はクリスマスイヴ。ハッピーチキンと揺れるキャンドル。
題『揺れるキャンドル』
オゾン層の破壊された世界では太陽は光害だった。夜廻り猫は光の回廊を避けながら徘徊する。変わらない日常の中で青カビのように目先のパンに齧りつくことだけを考えて生きている。
題『光の回廊』
嫌いな人は顔も見ないし、話が噛み合わない相手は話すだけ無駄。だからこそ、感情を爆発させて傷つけるのは最も信頼している人だ。私にとっては母がそうだ。互いに信頼しているのに傷つけあってしまう。自分の中の絶対的な琴線に触れて、先に謝ることを頑なに拒絶する。他人から見れば先に謝った方が良いというのは簡単だ。だけど、いざ自分がその立場に立つと絶対に受け入れられないのだ。それこそ、このまま絶縁状態になるのではないかと生まれて初めて思った。今回は母が先に謝ってくれた為、関係を持ち直すことができた。ボクから謝ることが出来ただろうか。難しいかもしれない。ボクの期待した言動や表情と180度違う反応をされて絶望してガッカリしていた。そんな状態で全てを飲み込んで"もういいや、もうなんの期待もしないからあっちに行ってくれ"なんて思うなら、それこそ信頼していない証拠だろう。爆発するのは信頼の裏返しだ。互いに微妙な気を配る関係は、ジェンガみたいに息苦しい。
題『降り積もる想い』
万病を防ぐと云われるリボンは重さを感じさせず、蝶々結びの輪っかは左側が少し膨らんでいた。
北極星に背を向けて歩き出す。
文字を打つ左手から携帯を地面に叩きつけたくなる。
"ちゃんと心配しろよ!"と寝ている親をメールで叩き起こしたくなる。曲がった首にリボンが食い込む。両方の輪っかを引っ張り、さらに首を締めつける。結び目がキツくなりすぎて緩められない。煩わしくなり歯で紐に噛みつく。奥歯でギリギリと削るがどうしようもない。鋏で切る。乱れた呼吸と掻きむしった頭髪と千切れたリボン。全てを乱雑に結んで思いきりぶん投げる。軽かったリボンは重力に引かれて坂の上を転がっていった。全部消えてなくなれ、ばーかっ!
心の叫びは誰にも届かず、ふらつく頭でその場に崩れ落ちる。
ボクを否定するなよ…なんで分かんないんだよ…
題『時を結ぶリボン』
部屋のインテリアについて考えるが、そもそも自室の構造自体が気に入らないため考えるだけ無駄な気がする。時間の感覚が曖昧で歩いていると思ったら炬燵から一歩も出ておらず、冷蔵庫の中身はすっからかんで困ったなと思いつつ身体は動かない。電池切れを期待して生きる。身体がゾクゾクするたびに風邪をひかないかと期待する。足掻けば足掻くほど超現実主義になっていく。お気に入りのジャムを売っている店は途中に顔を覚えられた店員がいる場所を通らなければならず、買いに行く気力がない。モデルルームを見るたびに、これが自分の部屋だったらなとガッカリする。生きる為には金を消費する必要があるのに"周りのことを優先して自分のためには使っていない"と節約を訴える。ならもういいや。調理家電もホテルの部屋のようなカーペットも諦める。メープルシロップもピンクソルトも自家製ヨーグルトも何もかも。日常を支えるあらゆる要素が手のひらから溢れていく。寿命の半分で願いが叶うなら穏やかな終わりを願う。手のひらを閉じて次に開いた時にそんな錠剤が現れないだろうか。もうすぐクリスマスなんだ。そのくらいの贈り物を貰っても許されるのではないか。AIは相変わらず専門医やカウンセラーへの相談を推奨し続ける。そんな段階はとっくに過ぎている。
題『手のひらの贈り物』