#10年後の私から届いた手紙
―――
古びれた便箋だ。
少しよれた、名前が書いてある。
書いた覚えはないが、自分の字で
多分、覚えてないだけなのだろう
...私はそれを、真っ二つに破った
中身も見ずに、ビリッと言う音だけが部屋に響く
知りたくなかった
見たくなかった
あの頃の、青い春を生きていた私の言うことなんて
――くすんだ紙くずが、バラバラと床に散らばる
今の、灰色に沈んだ私には眩しいから
――たった数動作なのに、妙に息が切れている
嗚呼、なんだか疲れた
私は身体の重みに任せ、背後のソファーに倒れ込んだ
未来なんてろくでもないでしょ
...誰かが、そう呟いたような気がした
#バレンタイン
―――
変わらない大きさ、色、柄、中身。
...その中の、一つにだけ
小さなシールを貼り付ける
きっと分からないし、気が付かなくて良いよ
ただ少し、君に渡す手に、力が籠ってしまうだけだから
受け取って貰えるだけで嬉しいの
だから、どうか気が付かないでいて
私が君を、諦められるその時まで
#待ってて
―――
桜に攫われるぞ、と
冗談を叩きあったのは、何時だったか
春一番にまたここで、と
そう約束をしたのは、何時だったか
この木を眺めるようになって
幾つ年が経っただろう
記憶の中の君は
一体何処へ行ってしまったのだろう
「帰るから待ってろ」
そう約束したのに
「嗚呼、待ってるよ」
そう言ったのに
何、すっぽかしてくれてんだ
写真の中の笑顔な君に、何度問いかけただろう
約束は守れと、口酸っぱく言っていたのは君だろう
君が破ってどうするのだ、と
...俺はまた、桜に問い掛けた
なぁ、桜さんよ
彼をどこにやってしまったの
お願いだから、返しておくれ
#伝えたい
―――
気が付かないフリをしていた、のだと
気が付いたら傍に居て
大っぴらに愛を告げられ
目線を合わせれば、一本線の口が少しだけ動く
もはや言い逃れのできない想いをぶつけられ
いつの間にやら外壁を埋められ
...それを拒否できない、自分もいて
だから今はただ、絆されていようと思う
今は言えなくても
今は受け取るだけで精一杯でも
彼奴が、飽きてしまわない限り
この想いを抱いていよう
そうして、いつしか伝えられるように
#この場所で
―――
我儘だと思う
また背負わせてしまうと思う
目の前に、作り笑顔がある
水滴が、ポタリと頬を濡らした
...嗚呼、俺は最低だ
そんな、取り繕わさせているのは自分なのに
きっと、此奴は引きずってしまうのに
最後が此奴の腕の中で
最後に見るのが此奴の顔で
「―――ありがとな、」
”幸せだ“と思ってしまった