静かな終わり
別れ際の事
孫が冬の青空の下金色の雨を降らせた
庭の紅葉は葉を全部落として足掛かりとなる幹と枝をくっきりと際だたせている
一歩ずつ慎重に足で探り木登りする様子は性格の現れ
3年前にジジババに抱え上げられながら怖いようーを連発していた彼女からその成長がはっきり見てとれる
「いいこと思いついた その枝とって」
百合の枯れ枝を指さしている
その上向きの蛍袋の様な花殻には薄っぺらいタネがぎっしりと詰まっている
背伸びして孫に手渡すとそれを片手にてっぺんまで登り枯れ枝の一番旗を高々と掲げた
彼女の背中にはあかあかとした陽が射している
「いくよー 見ててね」
左右に大きくその枝を振り始めると一斉に舞い上がる種
青空を背景にまるで蒔絵の金粉が撒かれたよう無邪気な孫の笑顔がぽっかり青空に浮かび上がって一枚の作品に見えた
「金色の雨みたい…キレイだったでしょう」
孫がうっとりした声で言った
帰るよー 遠くで息子の呼ぶ声がする
金色の美しい雨と笑顔の余韻を残し
僅か3日の滞在の締めくくりは静かに終わった
凍てつく鏡
ザクザクザクザク
霜柱を崩して行く
クリスタルの氷柱が顔を出した
何百本もの繊細な氷の芸術
氷柱の奥には雪の女王のための鏡の間があるらしい
覗き見気分で氷柱の塊を両掌にのせた
キラキラと輝いて溜息を誘うが
女王に会う前に涙を流し始め
儚さは美しさと表裏一体だと静かに語りかけてきた
雪あかりの夜
どんぷく(ちゃんちゃんこ)着て湯気の立つ甘酒を啜る東北の冬の楽しみ かまくら
点々と灯るともしびは癒しの色
冴え冴えとした月が雪あかりの中
小さき人の営みを見つめている
今年の灯は鎮魂のようだ
熊に犠牲者に捧げる来る年の祈り
生きとし生けるものに幸いをそう思うのは私だけではないはず…
人達が自然の感覚を失って来たことに対する辛辣なメッセージの様な気がする
生かされていることに真摯になるときが迫っているような
人間ファーストを声高に邁進するのはもう終わりにしませんか
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地雷展示館を訪れ思うことが多々あった年末に
祈りを捧げて
大仏様にすがる思いで祈りを捧げにきた
…んだけど
お堂入り口に立ちしずしずと前へ
見上げた瞬間
信じられない
全身金色コスメの彼が座していた
薄っすら笑みをたたえる口もと
目鼻ほうれい線顔の輪郭
どこからどう見ても大沢たかお様
日本人の誰が見ても彼でしょ
そのうち異国の仏様に妙な親しみが湧き
おかしみに全身が震え始めた
全身ガチガチに張り付いてた悩みが揺れた
ニヤリ顔のたかお様に見下ろされている私
すでにご利益の光に包まれている
今更祈りを捧げるまでもない
遠い日のぬくもり
思い浮かべるのは子供会のキャンプの人
歌ってゲームしてスイカ割りしてカレーを食べて…近所の若いお父さんが15人ぐらいの子供たちを集めて毎夏休みに企画してくれた
締めはキャンプファイアー高く上がる炎がみんなの顔を照らし出していた
半世紀経った今も色褪せない非日常の思い出
レクレーションリーダーの黒メガネの彼は細身で小柄な人
例えるならおかあさんと一緒の体操のお兄さん
子供達を魅了する笑顔動き喋り…
大人が子供目線で楽しむ姿が封建的な田舎育ちの私には新鮮でとっても魅力的だった
今思い返しても一夜のエンタメだった
そんな小学生時代が過ぎ、こども会から離れた
ある夏帰省の折にこのキャンプの話をした
彼はもうこの世にいないという
残念に思う一方、良い人は早逝するんだと軽く納得した
♪遠き山に日は落ちて〜追悼するつもりではなかったが自然に口をついて出てきた
この歌は思いっきり楽しい時間の後に来るキャンプファイアー最期の定番で 物悲しい響きが別れを惜しむ気持ちを増幅させるのだった
最近彼の死因を知って
♪いざや楽しきまどいせん〜が頭を離れない
皆んなで丸く集まってくつろごうという意味だ
ボランティアで子供らにぬくもりを与え続けていた彼が、信じられないことに若くして独り命を絶っていたとは
あなたは私の記憶の中、子供たちに囲まれ
くっつかれ笑顔で走り回っていて…
新世界で生きたいように生きてらっしゃることを願ってやみません 遠い日のSさんへ