小5の春、5つ下の弟ができた。
その小さな命は無邪気な笑顔で寄ってきて俺の人差し指をぎゅっと掴んだ。___お兄ちゃんが護ってやるからな。
決意の日から13年
「兄さん」
声のした方へ振り向き、斜め上に視線を向けた。
あの時の小さな命は、でっけー命になっていた。
「お〜久しぶり!元気だったか?……また身長伸びたんじゃないか?あんなに小さかったのに、こんなに大きくなるとはなぁ……」
ついしみじみと口をついて出た。
「年寄りくさいよ」
少し眉間にシワをよせる。失礼なヤツ。
「そんな嫌な顔するなよ〜ピカピカの新社会人だぞ」
グリグリと人差し指で眉間のシワを伸ばしてやる。
眉間を赤くした姿が可笑しくて、ぷっと小さく吹き出す。
図体が大きくなっても、可愛いものは可愛い。
あの時ついたフィルターは、どうにも外れない。
_____
13年前、兄ができた。
かっこよくて後ろをずっとついて歩いた。
兄さんも、そんな俺を当たり前のように連れて歩いた。
小学生になった時は本当に嬉しかった。
でも、一緒に登校できたのも1年だけ。
そして兄さんは、中学生になり、高校生になった。
それなのに、俺はまだランドセルを背負っていた。
俺への接し方は変わらないのに、時々、知らない人のように思えた。
追いつけないまま時間だけが過ぎ、気づけば高校三年生になっていた。
部屋で問題を解く手が止まっていた時、春から一人暮らしを始めた兄さんからご飯に誘われた。
待ち合わせ場所に着くと、すぐに兄さんを見つけた。
「兄さん」
声をかけると、こちらを振り向き笑顔で
「お〜久しぶり!元気だったか?___」
俺の体調を気遣う兄さんは少し痩せたように見えた。
慣れない環境で食事を後回しにしているのだろう。
「___大きくなるとはなぁ……」
言い方があまりにも年寄りみたいだったから、つい悪態をついた。
眉間によったシワをグリグリと伸ばされる。少し痛い。
赤くなったのか兄さんは小さく吹き出した。
兄さんの目には、まだ俺が可愛く映っているらしい。
「今日は兄さんにたくさん馳走してもらおっと。受験生特権」
「そのつもりだけど、あまり高いのは勘弁してくれ」
困ったようで少し嬉しそうに笑う兄さん。
もうしばらくは可愛い弟でいようか。
『Love you__』テレビの中でブロンドの女性が恋人に愛を囁く。僕が生まれるよりもずっと前の古い映画。隣にはただ真っ直ぐ画面を見る君。なんだか少し気まずい。
「……この映画ちょっと退屈だね」
気まずさを誤魔化すために話しかけてみる。
「んー退屈ではないけど、また愛か。って」
「███って冷めてるとこあるよね」
「よく言われる」
なれた感じで微笑む君。
自分の事なのにまるで他人事のような。
「みんな愛 愛 愛 愛ってさ、押し付けられる側の気持ちは無視。そんなの愛とは言えないだろう?」
「……贅沢な悩みですね。まぁ言ってることは分かるけど。逆に███は何か愛してないの?」
うーん……と、わざとらしく顎に指を当てる。
それから僕を見て、
「ないね」
声は軽いが、目の奥が重い。
「教えてよ」
「え?」
「俺に愛を」
時々、こういう突拍子もないことを言う。
「それって僕が君を愛してることが前提にないとダメなんじゃない?」
「愛してないの?」
「……まぁ。好きだけど愛してるとは別かな」
「何か傷つくな」
一丁前に傷ついた顔をしている。
「███だって僕を愛してないのに、僕に愛してほしいのは傲慢だよ」
「たしかに」
可笑しそうに、目を細めて笑う。
気づけば映画はエンドロールが流れていた。
「あ、終わっちゃった。次はどれを観ようか。コメディ系にする?愛控えめに。……これちょっと愛っぽくない?」
「どうして?」
「君も悪いね」
君の太陽のような笑顔を覆い隠す雲になりたい。厚く、一筋の光も通すことさえ許さない。僕だけを照らして。
今年もまた季節は勝手に冬支度を始めてますね。ね。
そして、月はまた1つ増え、3つになった。
2つまでは神秘的に思えたが、3つとなると少し気持ち悪いな……。