小さな命
友人は小さな命命潰すのが好きな変人だった。
夏になれば、道の隅に小さく行列を作っている蟻の前に、わざわざ砂糖をおいて誘き寄せて潰す。
そんな光景を目撃した。
何故そんな事をするのか理解ができない。
それからも友人は昆虫は見つけ次第何かに憑かれたかの様に追いかけて潰していた。
虫だけに留まらず、爬虫類も、尾を引きちぎり、目をくり抜いたりしていた。
気色悪いことこの上ない。
しかもその行為を人に自慢気に話でして回るのだ。
当然学校では距離を置かれていた。
ある日の事だ、彼はいつものように蟻の行列に砂糖を置いているとき、彼の近くに鳥が止まった。
少し大きい、烏だったと思う。
それを見た彼はニヤリと気色の悪い笑みを浮かべ、
リュックサックに挿してあった虫取り網を取り出した。
嫌な予感はしていた。
彼は烏に網を勢い良く被せた。
烏は逃げようとしたが一足遅く、捕まってしまった。
カーカーと喧しく鳴き喚き助けを呼ぶが仲間は来ない。
彼は網に囚われた烏に、殴る蹴るの暴行を加え、ケラケラと頭のネジが外れたかのように笑いだした。
『これだ、こういうのがしたかったんだよ』
『虫なんかじゃ物足りなかった!』
『嗚呼これが命の重みなんだね…』
怖い、そう思った。
人は理解出来ないものに一番恐怖を感じると言うが、今がまさにそれだ。
此奴の行為が、理解できない奇行が、恐ろしくて堪らない。
そうやって足をガタガタ震わしていると
一人の男が奴の所へ向かっていった。
中年くらいの、サングラスをかけたおよそ表の社会には生きていなそうなガラの悪い男。
『なぁ、ボク…それ何してんの?』
そうやって案外優しく狂人に尋ねた。
奴は答える。
『遊んでるんだ!命の重みを知る遊び!』
動じず、男性は続ける
『それ面白いん?』
『うん!とってもね!
烏は今日初めて殺るけどこうやって苦しい声上げてくれると命の重みをヒシヒシと感じられるよ』
男性は真っ直ぐに彼を見ていた。
烏の鳴き声は響かなくなった。
それでも尚、彼はその黒い亡骸への暴行をやめない。
男性は最後に何か言い残し去っていった。
翌日学校に行くと彼は休んでいた。
元々休みがちな彼だったので、誰も気にも止めなかった。
しかし、担任が慌てた様子で教室に飛び込んで来たので、いよいよ雰囲気は鋭いものに変わった。
どうやら友人は亡くなったようだ。
原因は交通事故だ。
なんとなく、昨日の中年がやったのだろうと思った。
悲しむものは少なかったが、その日はそのまま帰された。
校舎の門を潜るとそこには昨日の中年が立っていた。
驚きのあまり転んでしまうと、見つけた男が大きく声を上げて笑った。
顔が熱くなる。
『まぁまぁ、そんな驚かんでエエよ別に取って食ぅたりせーへんし』
肩を叩き私を落ち着かせる。
『君、昨日のあの場おったやろ?』
コクリと肯定の意を示すと、男性は大きくため息をついた。
『結論から言うとあの子殺したんは俺や、
どう考えたってあの思考のガキは生きてたらアカンって言う判断』
『あの…なんでこんなところにいるんですか?』
率直な疑問をぶつける
『君に用があったんや、今のの確認と忠告や』
忠告?と首を傾げると男は続けた。
『見てるだけってのも同罪やからなぁ?』
『人間観察もほどほどにしぃや』
と私の額を軽く小突いた。
『そんじゃあ、今日の用はこれだけや、また縁があったらよろしくなぁ~』
と黒い車に乗り込み帰っていった。
できれば縁などありたくないものだが。
それにしても見てるだけも同罪か。
言いたくとも言えない人間だっているのに。
love you
無邪気な君が好きだ。
君は僕を一人にさせない。
例えば僕が一人で居たとしても、居たくても、
独りぼっちをつくらない君は必ず僕の方に来る。
それは嬉しくて、少しチクチク目障りだった。
まるで恩の知らない不義理。
醜いものだ、自分に反吐が出る。
夢を語る君の横顔が好きだ。
明るくて、遠い先で、僕は居ないだろう未来。
どうして、どうしてこんなに想っているのに。
君は一度も振り向かないの?
まるで被害者だ。
何故僕はこんなに醜いのだ?
君は沢山の友人を引き連れている。
仲の良くて、明るくて、優しい、君みたいな子達。
君は僕の知らない笑顔を振りまいている。
胸がムカムカしてうざったい。
僕だけを見ていてくれたら、それで良いのに。
ところで目障りと言ったのは誰だったか。
君は僕を置いてどんどん未来を見ている。
僕にポッカリ穴が開く。
今までで感じたどの喪失感より、胸が苦しい。
今日も一人で居ると君が来た。
絶対僕の気持ちなんて悟られないよう、
絶対ボロは出さないように。
君はどうせ遠くに行くんだから、今だけ夢を見させてよ。
僕はずっと愛してるよ。
金木犀
小さな花びらから甘い香りのする植物
その香りどこか懐かしさを感じる人もいるようだ。
今日金木犀のような女を見た。
甘い香りを纏った、どこか既視感を感じる人。
どこかであったか、咄嗟に今居たカフェを飛び出しそうになったのをギリギリ理性が止めた。
もし、何処かで会ったと思ったのが思い違いだったら?
私はただの不審者になってしまう。
それは避けたい、そう考えた矢先、
件の女が何かゴソゴソと探している様な素振りが見えた。
探し物が見当たらない事が分ると女の顔がみるみる内に青ざめていき、
金木犀の女は走ってこの私のいるカフェに近づいて来た。
『すみません!鍵見ませんでしたか?』
呼吸を荒げながら勢い良くマスターに訪ねる。
入ってきた途端、甘い柑橘類のような匂いが店を包み込む。
ほう、どうやら女は少し前までこのカフェにいたようだ、私とは入れ違いになったんだな。
そして捜し物はどうやら鍵のよう。
マスターは少々お待ちくださいとスタッフルームに下がって行った。
眺めていると女がこちらに気づいて、近寄って来た。
『何?君、外歩いてるときもずっと見てたよね?』
流石にバレバレだったか、言い訳の言葉を頭をフル回転させながら考える。
その様子が面白かったのか、女はケラケラ笑った。
『そんな怖がらなくてもいいよー気にしてないし』
サングラスを上げをした。
…思い出した。この女は今有名のドラマで主演を務める女優だ。
『多分、私のファンとかだよね?……違った?』
首を横に振りファンですとアピールした。
『そっかぁー嬉しいな……これも何かの縁だね』
そう言うと女優の女は、店の机に常設してあるナプキンを取り出し、サラサラと何かを書き始めた。
『何か合ったらここに連絡して?いつでも出るからさ』
そう言いまたウィンクをしたところで、マスターが顔を出し、お客様と声を上げた。
『私そろそろ行くね!じゃあこれからも応援してねー』
そう言い優雅にさろうとする女に私は声を出した
『ありがとうございます!』
女は親指を上げ去っていった。