『揺れるキャンドル』
いつもありがとうございます😭
今日も仕事が終わらずスペースのみです。
お足元悪いですが、みなさまご自愛してお過ごしくださいませ。
『光の回廊』
いつもありがとうございます。
仕事が終わりません……😇!
スペースのみ残させていただきます。
『降り積もる想い』
いつもありがとうございます。
スペースのみです💦
楽しみにしていたチョコファッションドーナツを家族に食べられてしまっていじけてました😇
まとめるのが難しそうな『時を結ぶリボン』を先に更新しています。
お題が既に詩的でこれは放置するといつまでも書かないだろうなってなりまして、勢いで仕上げました。
「リボン」とは少し異なりますが、ご興味がありましたら目を通してくださるとうれしいです。
本日もご自愛してお過ごしくださいませ。
『時を結ぶリボン』
結婚して3年目。
相変わらず、彼女にとって師走という時期は忙しなかった。
毎年改定されるカードゲームのレギュレーションのように、我が家ではイベントごとにサプライズという解釈が明瞭化されていく。
そして今回、ついにサプライズという行為自体が禁止された。
改悪もいいところであるが、推しへのプレゼント贈呈のイベントそのものが消滅する可能性をチラつかせてきたため、不本意ではあるが了承する。
リビングでマットを広げてストレッチをする彼女に、俺は声をかけた。
「『今年のクリスマスプレゼントは自宅で手渡しをする予定です。俺はあなたに、なにを贈ったら喜んでくれますか?』」
挙げ句の果てには、5W1Hを明確化したフレームワークまで導入されてしまった。
全くもって面白くない。
ストレッチの手を止めないまま、彼女は横目で俺を捉えた。
「すっごいイヤそう」
「ええ。とても不本意です」
「黙ってると調子に乗るからじゃん。だからきちんと口を出すようにしてるの」
「それは大変ありがたい限りなんですけど」
年々俺に対してワガママになっていく彼女は最高だ。
しかし、最近はそのワガママの方向性がおかしい。
どこかでお育ての舵取りを間違えてしまったのか、特に彼女の誕生日、クリスマス、バレンタインデーのイベントでは、警戒心が高くなっていた。
「勝手に黙って家を建てようとしたこと、忘れてないから」
「違います。計画しようとしただけです。予備罪にもいたってないと思います」
「予備罪とか言葉が出る時点でダメだからな?」
「ワハハ」
ぐうの音も出ない彼女の正論には、雑に笑ってごまかした。
「……ったく。結婚して『俺の金』も『私の金』になったんでしょ? 変な理屈こねて変なもの用意するのやめてよね」
マイホームのどこが「変なもの」なのか。
小一時間かけて問い詰めたいくらいだ。
ドリームしか詰まってないはずだろう。
計画を練ろうとした段階でバレたのは想定外だったが、彼女のための家なのに俺基準で推しのための最強の家を建てるのも違ったから、そこはおとなしく引き下がった。
断じて「俺の金は彼女の金」という素晴らしいキャッチコピーに感銘を受けたわけではない。
「髪の毛、結んで」
「は?」
彼女の言葉を噛みしめていると、耳を疑いたくなる要望をされた。
ついに金すらも使わせてもらえなくなってしまった……?
いや、それよりも、だ。
「俺、不器用です」
「知ってる」
「だから、明日から早起きして練習して」
「!?」
一度、彼女がリビングを出たと思えばすぐにヘアセットアイテムを抱えて戻ってくる。
ブラシや鏡をはじめ、ヘアゴム、ヘアピン、……今年、彼女の誕生日に贈ったハンカチをローテーブルの上に、彼女は静かに並べていった。
「ちゃんとハンカチも結べるようにしてね?」
「正気ですか?」
結婚してから、彼女の小さなポニーテールに俺が贈ったハンカチが加わる。
今ではすっかり彼女のトレードマークになっていた。
「やり方なら教えるよ?」
「それは大前提でしょう」
合法的に彼女の髪の毛に触れることを許されることはありがたいが、要求がデカすぎる。
彼女が着飾るための舞台裏を見てきているとはいえ、実際に同じようにやれるかと言ったら否だ。
サラサラで細い彼女の髪の毛を結うことなど、できる気がしない。
「なんなら今から自主練につき合うけど?」
自主っ!?
え!?
これ、ガチのヤツかっ!?
イラズラっぽく口元を緩める彼女に、俺はただただ狼狽えたのだった。
*
冗談ではすまされなかったポニーテール講習を終え、早朝から叩き起こされた俺は震えた指先で実技試験に臨んでいた。
彼女が手を下せば5分もかからないシンプルな髪型である。
だが、柔らかな髪の毛はトゥルントゥルン手から滑り落ちるから、仕上がりにずいぶんと時間がかかってしまった。
「できましたよ」
「ありがと」
リビングで、彼女は出来上がったポニーテールを何度も鏡で確認する。
「んー……」
今日から数日間、彼女はホテルに宿泊する。
大切な試合があるにもかかわらず、彼女は宣言どおり、俺に髪を結ばせた。
1週間程度では俺の努力は実らず、頼りないポニーテールと歪なリボンができあがる。
「崩れそう」
「……返す言葉もありません……」
リップサービスのカケラもない彼女の素直すぎる感想に、俺は項垂れることしかできなかった。
「んふふっ」
それなのに、彼女は歪んだポニーテールを満足そうな表情で見つめている。
「せめてハンカチは、あなたがやったほうがよかったんじゃないです?」
「いいの。大丈夫」
愛おしそうに、彼女はリボンになったハンカチの先端に触れる。
交際期間含めて、彼女とのつき合いも長くなった。
だからこそわかる。
来年も同じことを頼まれるだろうと、確信した。
「来年はもう少しきれいに結べるように尽力します」
鏡を片づけたあと、すぐに玄関に向かう彼女を見送るついでに宣言すれば、まろやかな声で笑った。
「そんな大げさに捉えなくても」
「気持ちの問題ですから」
気合の入ったメイクを崩さないように、耳の後ろにキスをする。
「体調には気をつけて」
「ん。ありがと」
スニーカーを履くだけで、いつもより不安定にポニーテールが揺れる。
「いってきますっ」
ハンカチが髪の毛から滑り落ちないか気が気でない俺の心情を、彼女はいつものきらめいた笑顔で吹き飛ばした。
『手のひらの贈り物』
夕食をすませて食器を片づけたあと、ひと息つくためにコーヒーを入れた。
彼女はぽやぽやと頭を揺らしながら、リビングのソファに座っている。
特番が続く年末特有の賑やかしいテレビ番組を、意識半分で見つめていた。
テレビの音量を下げながら、彼女の隣を陣取る。
スプリングの反動で、彼女の体がわずかに跳ねた。
微睡んでいた彼女の瞼と持ち上がる。
肩口で柔らかく揺れた青銀の毛先を目で追っていたら、彼女は勢いよくソファから立ち上がった。
そそくさとリビングから出ていってしまった彼女に、俺は首を傾げる。
あれ?
もう寝るのかな?
就寝時間にはまだ少し早いが、年末の試合に向けて彼女は追い込みをかけている。
疲れているだろうし眠るのはかまわなかった。
ただ、ひと言もなく出ていかれてしまうのは切ない。
せめて「おやすみ」くらいは言ってほしかった。
いや、やっぱりおやすみのチュウはしたい……っ!
悶々と頭を抱えていたら、ひょっこりと彼女が戻ってきた。
俺の顔を見た瞬間、彼女は怪訝そうに眉を寄せる。
「百面相するなら、きちんと表情筋を動かしてからにしてくれる?」
「どういう日本語ですか、それ」
表情筋が働かないと百面相にはならないだろう。
「寝るんじゃなかったんですか?」
「まだ眠くないもん」
ブスッと頬に不機嫌を詰めた彼女は、再び俺の隣に座る。
握り拳ひとつ分、空いたスペースを彼女の腰を引き寄せて潰した。
「ちょ、狭い」
「それが?」
悪態をついて照れる彼女が愛らしくて、さらに距離を近づけようと顔を近づける。
「ね、待って」
俺が彼女を押し倒したことで距離の攻防は制した。
そのまま唇を重ねようとすると、ガサッとなにかが潰れたような乾いた音を立てる。
ん?
「あぁー!? もうっ」
違和感に手を止めるよりも先に、隙をついた彼女が体を捩った。
焦った声をあげながら器用に俺の腕から抜け出した彼女は、ぷりぷりと眉毛を釣り上げる。
「ほら! いきなり寄っかかってくるから潰れちゃったじゃん!」
「すみませんっ!?」
「せっかく紙袋もかわいくしてもらったのに」
潰れた紙袋から中身を取り出した。
小さなギフトボックスを俺の手のひらに乗せる。
「包装紙も少し破れちゃったけど、自分でやったんだから文句言わないでよね」
「う。すみませんって」
じっとりとした視線で責められてしまっては平謝りするしかなかった。
彼女のご機嫌を宥めたあと、改めて手のひらサイズの箱に目を向ける。
「ところで、なんですか? これ」
「クリスマスプレゼントだけど?」
え、俺に?
精神的にも時間的にも余裕がないと思っていたから、彼女からプレゼントを貰えるなんて全く期待していなかった。
箱から彼女に目を移すと、照れて落ち着きをなくした彼女は指を遊ばせる。
「欲しいものとか全然教えてくれないから、消え物だけど」
「ミニスカサンの格好で『プレゼントはあ・た・し♡』ってしてくれるだけで満足ですって言いました」
「オッサンみたいなリクエストはイヤ」
俺の要望を容赦なく一蹴した彼女は、唇を尖らせた。
「それに、それだとプレゼントにはならないじゃん」
「え、なんでですか?」
「なんでって……。もう、私はれーじくんのだよ?」
俺の服を控えめに掴みながら、おずおずと上目遣いで様子を伺ってきた。
ギュンッッッ♡
間もなく1日の幕を下ろすというのに、キラキラと絢爛なエフェクトを纏う彼女のツラがいい。
「だから、今度はちゃんと欲しいもの教えてね?」
「わかりました」
俺の欲しいものは、あなたとの結婚指輪一択ですけどね♡
どうせ断られるから、今はおりこうさんに彼女の言葉にうなずいた。
「これ、開けても?」
「ん」
ギフトボックスの中身はジャータイプのリップバーム。
シンプルなデザインで、無香料と相まって使いやすそうだ。
保湿力も高そうだから、この時期にリップバームはありがたい。
指で掬って唇に馴染ませていると、彼女からの熱視線を感じた。
俺も大概、愛されてるよな。
なんて自惚れながら、わざとらしく彼女と目を合わせる。
「どうかしました?」
「や、……つ、使い心地どうかな、って」
頬を赤らめながらも俺の口元に視線を置いたままの彼女の顎を掬い、お預けされたままだったキスを迫る。
キュッと流されるまま素直に目を閉じる彼女の無防備さには心配になりつつも、息を溢した。
「いい感じですよ」
それでも委ねてくれるならと、俺は塗ったばかりのリップを彼女に移すように唇を重ねた。