夜空を超えて
私はまた新しい地へ降り立つ。
星屑の子という名を与えられてから、
私はただひたすら
世界を飛び回る役割を果たしている。
星空のクジラがジャンプするところを
見たことがあるし、
星座のスープは
3日に1回は飲んでるし、
星のカケラも集めたりばらまいたり。
結構毎日が充実していて
どこへ行っても
やっていける気がしてた。
星のブランコに出会うまでは。
他のブランコと何が違うのか
私にもわからない。
わからないけど、
何故か惹かれる。
ガラスみたいに透き通ったブランコで
漕ぐと不定期に
ブランコの中にある星が光る。
その光り方に魅了されるのか、
ブランコの透き通り方に魅了されるのか。
とにかく目を奪われる。
ずっとここに居たいと
思ってしまう。
私は星屑の子だから
ずっと同じ地には居られないのに。
夜空を超えて
朝日の向こうへと
飛び回っていなければいけないのに。
これじゃあもう
私やっていけない。
この役割をすごく気に入っていたけど
数回しか乗ったことのない
ブランコに負けてしまう。
私の飛び回る気ままな真夜中が
終わってしまう。
でも1つ願いが叶うなら、
流れ星にお願いができるなら。
"Good Midnight!"
星のブランコはいつの間にか
少女の像が漕ぐブランコとなった。
少女の像の中には星屑が煌めいていて
まるで星屑から生まれた子みたいだった。
ねぇ、
本当はそんなこと思ってないって
今突然言ったらどうする?
ねえ、
本当はみんな大嫌いで
1人が嫌だから何でも頷いてるだけって
言ったらどうする?
ねぇ、
本当の友達が欲しいって
友達の前で言ったらどうする?
ごくっと
唾と一緒に飲み込むのは
言えない事ばかりの
本音みたいな何か。
言ったら全部壊れるのに
言うことに惹かれるのは
きっとそういう人間だから。
日頃の幸せを
自分から壊すことに
少し楽しさを覚える人間だから。
どこにでもいる顔の
あの普通な子のことが好きだった。
けどあの子も
その子が好きだったから
私は好きじゃなくなった。
背が低いのを嫌がる
あの普通な子のことが好きだった。
けどその子は
誰にでも優しくて
誰にでもしっぽを振るから
わからなくなった。
私の好きはきっと好きじゃない。
ゲームで言うならば
他のキャラより
ちょっとだけお気に入りみたいな
そんな感じ。
でもふと思う。
あー、なんか
しんどいなって。
自分の気持ちに境界線が見当たらなくて
結局どっちかわからない。
本音みたいな何かには
いつも飲み込まれてしまいそうだ。
何食わぬ顔で簡単に飲み込んでくる。
私は毎日必死に飲み込んでいるのに。
"Good Midnight!"
ずっと本音みたいな何かに
飲み込まれても
全部受け止めてくれる人を探してた。
いつでも安心させてくれる
暖かい人。
どこかにあるはずなんだ。
暖かくて、ぽかぽかしてる
何かのぬくもりの記憶。
凍える指先、
震える身体。
味気ない朝に
ピッタリで最悪な目覚めだ。
お腹にはずっと
鋭いトゲトゲが
転がっているような痛みがある。
今日も身体は重くて
頭は痛くて。
吸う空気が冷たくて喉も痛くなって。
最低限の生命活動すら
もう面倒くさく思えてしまう毎日。
いつか報われると
幸せがあるかもわからない未来に
必死にしがみついている。
諦めてしまえば、
今ここで諦めて
今までの自分の頑張りを否定して
ゆっくり部屋で休んでしまえば、
きっともっと楽なんだろうな。
重たい瞼を擦って
何とか開いた目には
眩しすぎる太陽の光。
私が布団を離さないんじゃない、
布団が私を離してくれないんだ。
テキトーな言い訳を自分に言って
楽な方への逃げ道を広げていく。
私って、
何でこんなのになるまで
頑張ってるんだろう。
考えても無駄なことは
考えない方がいいって
ずっと前から
分かっていたはずなんだけどな。
"Good Midnight!"
ミッドナイトは真夜中。
いい真夜中が恋しい午前7時。
寒い空気と眩しい太陽は
私からどうにも離れてくれない。
寒くて
冷たくて
雪だらけの外。
身体だけ先に大人になって
いつまで経っても
子どものまま。
どんなに願っても
時は待ってはくれなくて
ずっと私が私から離れていく。
子どもの私が
裸足のまま、泣きながら
雪の上を歩いていく。
大人の自分を置いて。
頭が痛くて
お腹も痛い。
心地いい匂いが鼻を包んで
このまま甘い夢を見られたら、
そんな叶いっこない
少しの望みを
雪と共に溶かしていた。
届かないから夢は甘くて美しい。
でも目を閉じて
倒れてしまえば
雪は服に染み込んで
水になっていった。
何かを諦めた時
雪は少しずつ溶けていく。
夢さえも溶けていく。
それが嬉しくて、嬉しくて。
雪を空いっぱいに投げて
裸足で走り出した。
なんだか暖かかった。
大人の私はどこかにずっと居たままで
子どもの私だけが私だった。
今ここがどこだか
何もわからなかったけど、
凄く魅力的で楽しかった。
"Good Midnight!"
見慣れない駅、
ネオンサインが輝いていた。
外は真っ暗で雪が降っている。
最初は寒かったのに
今ではポカポカして
どこへでも行けそう。
夜行列車に揺られ
雪原の先へ、もっと奥へ。
いつかの埋もれてしまった
懐かしい場所へ。
最低気温がまとわりつく夜中。
冷凍庫で氷に囲まれているような
刺すような寒さ。
手はかじかんで
上手く動かせない。
毎日毎日疲れた。
はぁ〜っとついたため息から
白い吐息が宙を舞う。
ひらりふわりと
のぼっていく。
あぁ、
私も連れて行って欲しい。
ここじゃないどこかへ、
まだ見ぬ世界へ、
現実を捨てれるほどの
非現実へ。
目を瞑れば
毎日夢見る景色が浮かぶ。
冷たい風は草を撫でるそよ風に。
大きな緑の山や草原は
想像が鮮明に再現してくれる。
小さな湖が所々あって、
少し遠くの方にお城もあって…。
そのお城には今は誰も住んでいないけれど
過去を語るように
ただそこにあって。
あぁ、そんな所に行きたい。
草原で寝そべって
大きな山に映る雲の影を見ていたい。
風の匂いを楽しんで
のんびり過ごしたい。
"Good Midnight!"
いつの間にか寝ていた。
目を開けると
そこはいつもと同じ場所。
私の家で
見慣れた景色と家具があって
冷たくて寒い。
さっきまで最高だったのに
今は最悪。
社会に少しでも貢献するなんて
私も随分つまらない人間になったなと
ぼんやり思う。
でも、
どんなに夢見ても
どんなに願っても
無理なものは無理なんだと
諦めきれるほど
大人にはなれなかった。