薫お嬢様は紅茶がお気に入りらしい。最近は「ルフナティーが良いのよ」と言っている。
そんなこだわりを持っているのに、お嬢様は私に紅茶を淹れさせるのだ。それも頑なに。
私はプロではない。お嬢様が満足のいくような仕上がりには到底及んでいないだろう。それが毎日申し訳なくて仕方が無い。
「お嬢様、その……私でよろしいのですか」
「何が?」
「私が紅茶を淹れるのは、良いのですか」
「どういう意味、やりたくないって事かしら」
「いえ、私は元々家事や育児、その他雑用を想定して作られた型なので」
「それで?」
「その……不慣れです。お嬢様に満足していただけるか分かりません」
お嬢様は分かりやすくため息をつき、何かをつぶやいた。ああ、怒らせてしまっただろうか。こういう時のお嬢様は、御両親に似てとても怖い。
「貴方はね、確かに私の子守をするために買われたアンドロイドよ。でもね、もうそんなの必要ないの」
「家事をやらせようと思ったらそれに特化した型にさせればいいの。分かる?」
もはや私は劣化版で時代遅れな型番だ。もう私が必要とされるような時代ではないのだ。分かっていたはずなのに、お嬢様が淡々と指摘することでそれが事実になってしまう。
「だから……これは個人的な趣味よ」
「趣味?」
「……『紅茶がお気に入り』だと思ってるでしょ」
「違うんですか?」
「はあ……私のお気に入りは貴方よ。別にお菓子だってショッピングだって、何でもいいわ。貴方がそこにいるなら、それで良いわ」
お題 ―「お気に入り」
「誰よりも、誰よりも美しいものを見つけたんだ、見た目だけじゃない、生き様も泥臭いことを嫌がらない精神性も、すごく美しい。もちろんつぶらな瞳もかわいらしいと思っているよ。ああ、なんて美しいんだろう、水も滴る……まあ滴ってはないけど。なんだっていいさ、比べるのもおこがましいんだから」
佐藤が水槽のメダカに夢中になってから半年が経った。最初の頃はクラスメイトも気味悪がったり茶化したりしていたが、今はもはや誰も関わらない。
佐藤が繰り返す「誰よりも」という言葉は魚基準なのか人基準なのか、泥臭いとは比喩ではなくそのままの意味なのか、疑問は尽きないが、幸せそうで何よりだ。
お題 ―「誰よりも」
学生時代に埋めたタイムカプセルが郵送で届いた。味気ないことするなぁ、こういうものは掘り返して土を払うのまで含めてロマンがあるというのに。
まあ地球は大気汚染と海洋汚染が急速に進行し、すでに自分や家族は地球を離れ宇宙船にいるのだから仕方ない。
ロマンは安全の二の次、そういう時代だ。
届いた小さいチップを手の甲にかざすと、青みがかったホログラムがかつてのタイムカプセルとその中身を再現してくれる。
ああ、こんな事書いてたのか、懐かしいな。
将来はどうしてるか、ご飯は食べられているか、どこに住んでいるか、夢の城には住めたか、なんて平凡な事が書いてある。
レーションには慣れたし、バリエーションも悪くない。どこに住んでいるか……と聞かれると困るな、定住はしていない。城っぽい内装にもできるけど、そうする意義もないな、うーん、現実はロマンの欠片もない味気ないものだ。
あ、そうだ。今の技術があればこちらから昔の自分に手紙を送る事もできるだろう。
十年前の自分へ……いや、十年後のあなたです、かな。
まあまあな生活で、いつでも星が見える家に住んでますよ、食事も毎日違うメニューで、サイコーの毎日!
なんて、まあ嘘は書いてないから良いはずだ。
お題 ―「10年後の私から届いた手紙」