『同情』
僕は散々と言われるほどの家庭で育った。
「大変だったね」
という大人たち。
"大変"という一言で今までの自分の行動がひとつにされるぐらいなら同情なんていらない。
『星になる』
最近、光が痛い。
街灯の下を通るたび、胸の奥を針で刺されるみたいに息が詰まる。スマホの画面を開くだけで目を細めてしまう。きっと疲れているだけだと自分に言い聞かせてきた。
名前を呼ばれなくなったのは、いつからだっただろう。
会話は私を避けるみたいに流れていって、気づけば相槌を打つ必要すらなくなっていた。誰かが笑うたび、私は少しずつ、薄くなる。そんな感覚だけが、やけに確かだった。
夜、洗面所の鏡を覗くと、瞳の奥に小さな光が浮かんでいた。
星みたいだ…
なんて思う自分…笑えなくなる。
星は綺麗だ。でも、触れられない。
ああ、そうか。
私はもう、星になる準備をしている。
夜風が冷たい。
それなのに、身体の感覚はもうほとんど残っていなかった。指先から順番に、私じゃないものに変わっていく。光だ。重さのない、名前を持たないもの。
見上げた空は、思っていたよりずっと高かった。
星は綺麗だ。誰にも邪魔されず、誰にも触れられず、ただそこにあるだけで許されている。
――いいな
と思ってしまった。
そのとき、背後で誰かが私の名前を呼んだ気がした。
振り返れば、きっとまだ間に合った。
でも私は、もう振り返らなかった。
星になるって、こういうことなんだと思う。
誰にも必要とされなくなって、やっと静かになれる。
その夜、空に星がひとつ増えた。
それが私だったことを、知る人はいない。
『贈り物の中身』
「今年のさ、クリスマスって何か予定ある?」
彼氏のいない歴=年齢の私に尋ねる幼なじみ。
「ないよ。多分バイトだろうし。」
私は携帯に入っているスケジュール帳を見る。
…水曜日。バイトはない。
「ごめん、バイト休みだったわ」
「そうなの?ならさ、イルミネーション見に行かない?」
私はギョッとした。
幼なじみは外に出るのがあまり好きではない。なのにこんな提案をしてくるものだ。
「え!?ま、まぁいいけどさ。」
私は特に何も無いし。
当日。
…やっぱり十二月って寒いな。
しかもイルミネーションだから夜じゃないと綺麗じゃないし。
どこを見ても彼氏・彼女ばかり。…完全に浮いちゃってる、私。
「あっ、いたいたー!」
幼なじみが息を切らしながら来た。
「…別に今来たばりなんだから、走る必要ないよ。」
「一緒に回る時間、多く取りたいし。」
「そう?」
うん!と頷く幼なじみに。
「あのさ、今日…ちょっとした物だけど。」
と私は幼なじみにネックレスをプレゼントした。
「え?いいの!?これ欲しかったやつ!」
「良かった。まぁ…もう少しバイトしてたらいい物買えたかもだけどさ。」
そういう私に幼なじみはきょとんとした。
「…いい物って何?」
「え?それは…ブランド物とか?」
ちがうよ〜、と幼なじみ。
「こういうのって、気持ちだから。だって、仮に安いものでも貰い物って嬉しいもんなんだよ。」
と言い、幼なじみが私に箱を渡す。
「プレゼント!用意してたんだ!」
え…と思い、箱を開けるとまさかの同じネックレス。
「嬉しくない?全く同じものだけど。」
私は首を横に振って
「ううん、とっても嬉しい。」
良かったと微笑む幼なじみ。
「それじゃ、行こっか!」
と二人、同じネックレスを付けて歩き出した。
『凍てつく星空』
「僕、南極に行く」
そんな事をつい、言った。
親友と向かう南極。初めての土地。僕は楽しみ半分、不安半分だった。
事の発端は親友が見せてきたチラシから。
「見た?今朝の新聞に入ってたチラシ。」
「なんだよ、それ。南極…?僕らが行ける訳ないだろ。」
お金もないんだし。と付け加える。
「いやいや!これ、募金制のやつ!企業連携だからさ。ねぇ、お願い!」
と懇願されてしまったのがはじめ。
「バイト代、全部無くなりそうなんだけど。」
まぁ、親友の為…。
「お願いだって〜。じゃあ六割、俺がだすよ。」
「はいはい。そこまでして行きたい理由って何だよ。」
「それは…!星空、そして!オーロラが見たい!」
「はぁ…そんな事かよ。そんなのプラレタリウムでも見に行けよ。」
「分かってないな〜!とりあえず、言ったんだから、お前も準備しとけよ!」
…となって今。僕は親に言った。
「分かった。」と親。
そんなすんなり了承してくれるのだなと思うと。
「お金は出してやる。その代わり、ちゃんと勉強してこいよ。」
と。
『親が出してくれるから僕は行ける。』
とメール。
『了解!ちなみに一月だからな!』
と返信。早くにどうも。
僕は自分の分、少しでも稼ごうとバイトを頑張った。休みの日は朝から晩まで。学校の日は少しづつでも稼いだ。
八月の夏の暑い日に南極に向かうから極寒だし。体温調節が難しいと思いながら…日々は過ぎていった。
前日。
これ持った。あれ持った。そして…と準備し、早めに寝るか。
『待ちに待った明日だな!募金、だいぶあるみたい!企業にも連絡してるから明日、九時に空港な!』
と親友。
『了解。また明日な。』
とだけ返信し、今日は寝た。
まだまだ暑い日なのに僕は長袖とかアウターなど季節外れの服装を持って空港へ向かう。
夏休みというのもあり、人混みが凄い。
「やっぱり人が多いな。」
俺がぼそっと言うと、隣にいた親友が、
「そうだな〜!」と元気なやつ。
飛行機でオーストラリアまで向かい、そこから船で向かう。
そもそも飛行機なんて乗らないし、オーストラリアなんて行った事もない。
僕は、ちょっと旅行気分になっていた。
なんて思った自分にちょっとイラッとしてた。
思っていたより、オーストラリアって暑いし。長いフライトで酔ったり。勉強してこいってこういうこと?
なかなかに勉強になりましたっと。軽くメールで親に連絡。
ここからは電波すら危ういらしいので企業の人に合わせる。
船に乗る。日本の船ではないのだから、安全面は…?とか思ったのだが、大丈夫そうだ。
「おい、大丈夫か?」
僕が親友に聞くと、
「うん!何か心配事?大丈夫だよー!そこまで長くないし。」
ただ数日いるだけ。
船はどんどん進んでいき、南極と思われる場所に着いた。
「急に寒くなったり、大変だな。」
僕が、分厚いアウターを羽織りながら言う。
「分かるわ〜!日本の四季に感謝」
「どこに感謝してんだよ。」
と突っ込みを入れた。
「最近さ、ずっと思ってたんだよな。こうやって世界の隅ばっかりに固まるのもどうなのかなって」
急に親友がボソッと言う。
「いや、楽しいよ、こんな旅行。初めてで何も分かんないけどさ。こうやって知らない人と来るのもいいんじゃないの?」
僕は言う。
ほら、と上を指す。
「わぁ…綺麗。写真に収める!これの為に来たんだからな!」
テンションが上がったり下がったり…忙しいやつだな。
「転ぶなよー」と周りの大人。
「なぁ。」
親友が言う。
「また、来たいな。」