休み〜🐦⬛☪︎🌃
ぺこ૮( ̳ᴗ ̫ ᴗ ̳ )ა今日は休みます
揺れるキャンドル
夜の帳が降りきった頃、仮面師はひとり、古い礼拝堂に入った。
扉を閉めると、外の風が途切れ、静寂が深く沈む。
ただ一つ、祭壇の上で揺れるキャンドルだけが、彼を迎えた。
その火は、まるで呼吸するように揺れ、
影は壁に長い物語を描き出す。
仮面師は歩み寄り、そっと手をかざした。
熱は弱く、しかし確かに生きている。
「まだ、ここにいるんだな」
誰に向けた言葉か、自分でもわからない。
ただ、この灯りだけは、彼がどれほど姿を変えようと、
どれほど名を変えようと、
ずっと変わらずに揺れていた。
火がふっと強くなり、
仮面師の影が壁いっぱいに広がる。
その影は、かつての名を持つ者の姿にも、
これからの名を背負う者の姿にも見えた。
彼はキャンドルの前に膝をつき、
胸元から小さな花弁を取り出す。
それは、長い旅の途中で拾った、
色褪せない記憶の欠片。
花弁をそっと火のそばに置くと、
炎は柔らかく揺れ、
まるで祝福するように光を返した。
「行こう。まだ続きがある」
仮面師は立ち上がり、
揺れるキャンドルに背を向ける。
その火は、彼の背中を照らしながら、
静かに、静かに揺れ続けた。
まるで――
新しい物語の始まりを告げる鐘のように。
なんとなくのやつです( ̄ω ̄;)
光の回廊
セツナがその場所を初めて訪れたのは、黄昏が街を金色に染める頃だった。
古い聖堂の奥、誰も近づかないはずの扉が、まるで彼を待っていたかのように半ば開いていた。
扉の向こうには、光でできた長い回廊が伸びていた。
壁も、床も、天井も存在しない。ただ、淡い光の帯が幾重にも重なり、ゆっくりと脈動している。
足を踏み入れた瞬間、セツナの影は消え、代わりに胸の奥で微かな音が鳴った。
それは心臓の鼓動ではなく、もっと古く、もっと深い何かの呼び声だった。
回廊を進むたび、光は形を変え、過去の記憶が浮かび上がる。
幼い頃に失った母の笑顔。
初めて剣を握った日の震え。
そして、ずっと胸に秘めてきた「問い」。
——自分は何者なのか。
光の回廊は、ただの道ではなかった。
それは歩く者の魂を映し出し、真実へ導くための儀式そのものだった。
やがて回廊の終わりに、ひとつの影が立っていた。
それはセツナと同じ姿をした“もうひとりのセツナ”。
光をまといながら、静かに言う。
「ここから先へ進むには、ひとつだけ選ばなければならない。
“過去を抱いて進むか”、それとも“過去を手放して進むか”。
どちらを選んでも、君は君だ。ただし、歩む未来は変わる。」
セツナは息を呑んだ。
光の回廊が揺れ、まるで彼の決断を待っているようだった。
長い沈黙のあと、セツナはゆっくりと手を伸ばした。
その選択が何をもたらすのか、まだ分からない。
だが、光の回廊を歩いた者として、もう迷うことはなかった。
そして、回廊の光がひときわ強く輝いた瞬間——
セツナの物語は、新たな章へと踏み出した。
❄️ 降り積もる想いの下で
雪が降り始めたのは、夕暮れの鐘が三度鳴った頃だった。
王都の外れ、小さな工房の灯りだけが、白い世界にぽつりと浮かんでいる。
工房の主――仮面師・ヨウジは、机に広げた白木の仮面をじっと見つめていた。
削りかけの頬、まだ形にならない瞳。
そのどれもが、胸の奥に降り積もった想いの重さを映しているようだった。
「……まだ、言葉にならないか」
呟いた声は、雪の静けさに吸い込まれていく。
この仮面は、ある少女のために作っている。
名をアサギという。
春の花のように笑うのに、心の奥には深い影を抱えていた少女だ。
彼女は言った。
「仮面がほしいの。私の本当の顔を隠すためじゃなくて、
私がまだ知らない“私”を見つけるための、鍵として」
その願いが、ヨウジの胸に静かに積もり続けていた。
削っても削っても、形が定まらない。
彼女の想いと、自分の想いが、どこで重なり、どこで離れていくのか。
それを確かめるように、彼は手を止めては雪を眺めた。
やがて、工房の扉が小さく叩かれた。
「ヨウジさん、起きてる?」
アサギの声だった。
雪の中に立つ彼女は、白い息を吐きながら微笑んでいる。
「……まだ、完成していないよ」
「ううん。見に来たんじゃないの」
アサギは首を振り、そっと工房に入った。
「あなたの想いが、どんなふうに降り積もってるのか、知りたくて」
その言葉に、ヨウジの胸がわずかに揺れた。
彼は仮面を手に取り、アサギに差し出す。
未完成のままの白木の仮面。
だが、アサギはそれを両手で包み込むように受け取った。
「……あたたかい」
「まだ形になっていないのに?」
「うん。
あなたが迷って、悩んで、考えて……
それでも私のために手を動かしてくれた時間が、全部ここにある」
アサギは仮面を胸に抱き、目を閉じた。
その姿は、まるで雪の中で祈る花のようだった。
ヨウジは気づく。
降り積もっていたのは、彼女の想いだけではない。
自分自身の想いもまた、静かに積もり続けていたのだと。
「……アサギ。
この仮面は、君の“鍵”になるだろうか」
アサギは目を開け、柔らかく笑った。
「うん。
でもね――
あなたの想いが降り積もったこの仮面は、
きっと私だけじゃなくて、あなた自身の扉も開けるよ」
その瞬間、工房の外で風が吹き、雪が舞った。
白い世界の中で、二人の影が寄り添うように揺れる。
未完成の仮面は、まだ名を持たない。
だがその白木には、確かに二人の想いが降り積もっていた。
そして物語は、静かに動き始める。