星になる
友達と真冬の天体観測に行った。
仕事で嫌なことがあって気分が沈んでいた時、ちょうど「星、見に行こうよ」と連絡があった。
駐車場から少し歩いた高台に登って空を見上げると、2人とも言葉を失うほどの満天の星空が輝いていた。
「……。あぁ…なんか星になりたいな。あんな────。」
話し終える前に、突然友達に後ろからぎゅっと力強く抱きしめられた。
「!?」
「だめ!私を置いて行かないで。」
友達は半泣きでそう言う。
腕の力から本気なのが伝わったけれど、私は意味がわからなかった。
「え、えっと、どした!?置いてかないよ。てか、あんたの車で来たんだから。」
「違う!今、星になりたいなんて言うから…。」
「え?」
「星になるって、天国に行くって事でしょ?死んじゃ嫌だぁ…。」
あ、そういう事か。
普段から天然だけど、今日はその天然に救われた。
変な勘違いでおかしな事になったけど、抱きしめられてなんだかモヤモヤしていた気分が晴れた。
遠い鐘の音
シャン、シャン、シャン、シャン───
一定の感覚で錫杖を鳴らす音が聞こえる。
昼間ならともかく、深夜にどこからか聞こえてくる。
こんな夜中に迷惑だなと思いながら目を閉じる。
次の日、そのまた次の日も同じ錫杖の鐘の音が聞こえてくる、遠かった音が日に日に近づいているようにも感じる。
「なぁ、最近どっかの寺の坊さんが夜中にシャンシャン煩くて眠れないんだ、お前はどうだ?」
別室で寝ている女房に聞いてみたが、
「……。」
何故か虚空を見つめて黙ったままだった。
疲れているのかと思い、今日はいつもより早めに床に就く。
深夜になるとまたシャンシャンと音がした。ああもううんざりだ、一言言ってやろうそう言って外に出ると、あろうことか私の家の庭に托鉢僧が立っていた。
驚きよりも怒りが混み上がり僧侶の胸ぐらを掴むと、錫杖をダンッと力強く突いて経を読み始めた。
その途端、俺の身体中が燃えるように痛みだす。
あまりの痛みに声すら出せなかった。
助けを求めようと家の方を見ると玄関から女房が出てきた。
「…毎晩、ご苦労さまです。主人もこれできっと成仏できますよね?」
成仏?なんだ、誰の話だ?
お経を止めて僧侶が話し出す。
「死後、ご主人の魂に悪霊が憑いたせいでこの家、土地に縛られ、もう少しで貴女に危害を加える寸前でした。今日で完全に悪霊から切り離してご主人の魂を成仏させます。」
…あぁ、そうか俺は
スノー
子供の頃はいつもの景色が真っ白に染まった光景に胸踊らせた。
いつしか、それは疎ましい存在になった。
寒い、雪かきめんどくさい、車の雪おろししなきゃ。
大人になっていく度に、鬱陶しくなっていく。
昔はあんなに好きだったのに、今では嫌いになってしまった。
また、いつか好きになる日が来るかな?
今年も変わらず雪は降り注ぐ。
夜空を越えて
こんなの初めてだったよ。
君といると時間の流れが早くて、あっという間だった。一緒にいるだけで幸せで、気づくと時間が過ぎていた。
夜空を越えて、ふたりで朝日を浴びることもあったね。
本当に、君が僕の運命の人だと思ったよ。
君と残りの人生を歩んでいくんだって。
でも、僕の隣には君はいない。
僕は、君の運命の人になれなかったんだ。
それでも僕はずっと君の幸せを願っているよ。
君の笑顔が好きだったから。
ぬくもりの記憶
赤ちゃんの頃の記憶ってありますか?
赤ちゃんの頃、私は前世の記憶を覚えていました、厳密には産まれてくる直前の記憶。
前世亡くなって、天国に行った私は今の"私"として転生しました。
天国には転生するための滑り台があって転生先を選んで産まれてくる母体の中に滑り落ちます。
その時、私の隣には同じように滑ろうとしている女の子がいましたでも、その子は滑ることはできませんでした。
その子は私と同じ場所へ行くはずだったのに行けませんでした。
「私は行けないみたい。あなたはあのお家にちゃんと行って幸せに暮らしてね。」
私の手をぎゅっと握りしめてその子は言いました。
その話を聞いた私の母は泣き出してしまいました。
私が産まれてくる少し前に、お腹の中にお姉ちゃんがいたけれど、流れてしまったんだと泣きながら話してくれました。
天国で出会ったあの女の子は私のお姉ちゃんになるはずの子だったんです。
私は私の人生が終わるまでこのぬくもりの記憶を忘れないよう胸に刻みました。