喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「今、何か言おうとしなかった?」
「いや、なんでもないよ」
「うーん、そう? ならいいけど」
冬の夜道に、肩を並べて二人分の足音を響かせる。
吐き出す息が薄白く登っていく。
「そう言えばさ」
唐突に立ち止まった君が空を見上げる。
「今日は満月らしいよ」
釣られるように見上げれば頭上にはぼんやりと浮かぶ満月が僕たちのことを見下ろしていた。
「……綺麗だね」
「……うん。綺麗だ。とっても遠いな……手が届けばいいのに」
浮かぶ月に手を伸ばせば、真似るように手を伸ばす。
「ねぇ、お月見がてら寄り道してこっか」
「いいね」
「じゃあコンビニで何か買って行こ! 後についた方の奢りね! よーい、どん!」
君は駆け出していく。
これが僕たちなりの形なのかもしれない。
飲み込んだ言葉がじんわりと熱を持ち、溶けていった。
『Love you』
いつか、そんな存在になりたかった。
誰かを照らしてあげられるようなそんな存在に。
それが難しいことは自分が一番わかってる。
だって、君は一人でも立って生けるし、足を踏み出せる。
結局のところ、照らされているのは僕の方だった。
君は太陽のような人だ。
あまりにも眩しすぎる。
気がつけば照らされていたのは僕の方で、近づき過ぎればきっと燃え尽きてしまうんだと思った。
だから僕はここで、君から溢れた光で誰かを照らしてみる。
君からもらった光で、誰かの暗闇をほんの少しだけ照らしてあげる。
僕の名前はねーー
随分と長いこと歩いてきた気がする。
途中からどれくらいの時間を過ごしたのか考えることは辞めてしまった。
考えてしまえば、
どれだけの時間を無駄にしたのか思い知らされてしまう気がした。
ひとりぶんの土を踏み締める足音が虚空へと飛び出しては消えてゆく。
一体、いつまでこうして歩けばいいのだろうか。
一体、いつまでこうして歩いていられるのだろうか。
最後にはどこに辿り着くのか。
どこを目指していたのだっただろうか。
伏せた視界に誰かの足跡が映り込む。
ふと、顔を上げれば見たことのある景色が広がっていた。
ーーああ、またここか。
気がつけば、一周回り帰ってきてしまったようだ。
足跡をなぞるように足を踏み出す。
またここから。
この場所から歩き始めよう。
ーー0から。
「同情なんかいらない」
そう言い放ったのは他でもない君だった。
「同情なんてされたって何も変わらない。
何一つ解決なんてしない。
わかったつもりになるだけで結局、いい方になんて向かうわけじゃない」
震える声音が、どれだけ傷ついてきたのかを物語っていた。
「でもさ、それでも、ひとりは寂しいよ」
だから、同情なんかじゃなく、寂しくないように僕が傍にいる。
乾いた風が体温と茶色に染まった葉を攫ってゆく。
駆け抜けてゆく風が、今年も冬を引き連れてこの街を訪れた。