彼女と行くデートで一番お気に入りだったのが海だった。時間や季節を問わずに、偶然にも二人とも海に行きたい気分になる時がある。車を走らせ、少し肌寒い春の海、夏は暑いからと夜の海で花火をした。秋には海のシーズンが終わったら、何処までも続く海辺をよく歩いていたっけ。凍える風が吹き荒れる冬の海から見上げる夜空は、一層輝いていて、雰囲気に呑まれて思わずキスをした。
浜辺を歩くとき、君はいつも素足のままで凍える寒さに「冷たい」なんて小言を言いながらも笑っている。それにつられて笑う僕は、このまま海辺のように何処までも、二人の足跡をつけて歩んでいく。そう思ってたのに、なぁ。
/素足のままで
この想いを胸に留めて何年の月日が経っただろう。
あなたの隣に他の女の子が季節の移り変わりのように横を歩いて、心臓にチクチク針が刺さる。わたしの心、針山じゃないんだけど。
「お前と居ると気が楽だわぁ」
だったら私とずっと居ればいいじゃん。こうやって放課後に教室でだらだらお喋りするのも付き合ってあげるし、アンタの好きな事ぜんぶ付き合ってあげるのに……付き合わせてよ。
一生このまま、ずっと、彼が他の誰かと添い遂げるのを見送る事しかできないのかな。
そのころにはーー知らない誰かが私の隣にも居るのかな。
「でもさ、私も恋人出来たら一緒に居られないよ?」
「はあ?誰だよそれ。俺を通してから付き合えよ」
「なんでアンタを通さなきゃいけないの。誰目線よ」
お前に娘はやらん!なんて昭和のドラマじゃないんだから。心の中で溜息を吐くのに対し、彼は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。え、何だそれ。
「誰目線って……そりゃあ、俺とお前の仲だし。付き合い長いじゃんか。お前が泣かないようにしてやろーと思ってんの!」
「それならアンタも私を通してよね。彼女コロコロ変えちゃってさ」
「だってそれは……元カノと遊んでても、お前の事が頭に浮かんで……仕方ないだろ」
言葉が途切れ途切れになっていく先を聞く度に、心臓がどくんどくんとスピードを早めて、針山に刺さった針が吹っ飛んでいく。
何それ、まるで恋してるみたいじゃん。そんな事言われたら期待しろって言ってるようなものだけど、こんなに鈍感だったっけ?
でも、ここで一歩踏み出さなきゃ、何も変わらない。あっちから告白されるのなんて待ってらんない。もう他の女の子に先をこさせない。
彼の名前を呼んで深呼吸して息を整える。大丈夫、がんばれ私。
/もう一歩だけ
赤煉瓦が敷き詰められた白い建物の続く街、途方もなく歩み続ける。行く先など分からず、また帰る道さえ分からず。
見たこともない、訪れた事もない街の風景に、さんざめく人の声。誰も知らない、誰も私なんて見ていない。
まるで置物があるみたいに、ぽつんと佇む私を避けていく。
誰か私をみつけて。
/見知らぬ街
蒸し暑い夏、広がる青空を見上げて風鈴の鳴き声がそよ風と共に聞こえる。首元から湧き出す汗をじんわり浮かべながら、棒アイスをぺろぺろと舐めた。
縁側から見える花壇の花は首を垂れて、萎れている。水をやっても砂漠のように水は蒸発し、まるで熱中症のようだ。
また水を上げれば良いのかもだけど、やり過ぎもよくない。それにこうも暑いとやる気が出ないのが一番の要因。
いっそのこと台風がやってきて雨風とともに少しでも涼しくなれば、気分も変わるだろう。なんて、縁起でもないことを浮かべているうちに遠くの方から雷の音が聞こえてきた。
ピコン、となるスマホの通知をタップすれば隣町から大きな雨雲がこちらにやってきている。家の扉を閉め回り、再び縁側へ戻ってくると雨粒が花々に栄養を与えて、はしゃぐように雷の音が鳴り響いていた。
/遠雷