るに

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12/23/2025, 2:45:43 PM

ぼっ。
キャンドルに火をつける。
薄暗く照らされる部屋の中、
ふわりと広がる
無地のワンピースを着た少女が1人。
ゆっくりと、透き通る声で
何かを話し始める。
むかしむかし、
ある所に、
何かをとにかく集めることが大好きな
収集家がいました。
普段使い出来るものから
ただ見るだけのもの、
見ないのに集めて
倉庫に保管するものまでありました。
収集家は好きなものを
好きなだけ集めて
眺める時間が大好きでした。
ある日、
収集家は収集することに対して
意味が欲しくなりました。
意味のない収集こそ
楽しく満たされる瞬間だったのに、
いつの間にか意味というものを
持ちたくなったのです。
人は年月が経つと
ガラッと変わってしまうものですね。
それから収集家は
何でもかんでも集めるのを辞めました。
もう収集家では
無くなってしまったのです。
趣味は無くなり、
その人はその人では無くなっていきました。
意味を求める中で
自分という
無くし物をしてしまったのです。
これは何のためにある?
どんなことに必要?
最低限欠かせないのは?
いや、本当に意味が欲しかったのは?
私、なんで生きてる?
風で揺れるキャンドルの灯り。
少女が窓を閉めることなく、
そのまま風で
キャンドルの火は消えてしまった。
いや、
風で消えたかのように思えた。
"Good Midnight!"
生きている事に意味なんか無くても、
自分さえ無くさずにいれば、
幾らでも意味を作り出せたのに。
そう微笑みながら話し終え、
風が届く前に
ふーっと息を吹きかけた。

12/22/2025, 3:24:00 PM

私はずっと
長い道が嫌だった。
何の変哲もない、
変わらない道。
いつも同じルートで
いつも同じ景色で
特別楽しめる四季も無くて。
この道を通ると、
あぁ、帰ってきちゃったなぁって
今の今まで味わっていた
外の雰囲気が全部消えて、
実家のような既視感だけが残る。
毎日違うことがあったのに
ここまで来れば
いつも同じ日。
でも今日は違った。
和傘がいくつも並んでいて、
ぼんやりとした灯りが道を照らしていた。
私は心が踊った。
薄暗い道は
私をどこかへ導いてくれるかのようだった。
楽しい。
私は思わずスキップをする。
家に帰るのが
今日は楽しかった。
光の回廊は
いつもの道を
ここじゃないどこかに
変えてくれたのだ。
"Good Midnight!"
ゆずを湯船に浮かべる。
シャワーで流しても
ほんのり香るゆずの匂いは
私を包んでくれる。
1番夜明けが遅くて、
1番夜更けが早い、
今日は冬至。

12/21/2025, 2:44:40 PM

人といる時
私の中で降り積もる想いは
苦くて汚くていらないもの。
雪と一緒に溶かして
水に流してしまいたいくらい。
子どもの頃、
不意に気づいてしまったこの想い。
人、人、人。
うっ。
吐き気、頭痛、めまい。
自己嫌悪に陥って
どうも上に上がれそうにない。
私は人を傷つけてしまう。
自分で自分の日常を
壊してしまう。
会話が好きで、会話が楽しい。
でも会話しすぎると
頭がだんだん働かなくなってきて、
嘘や思ってもないこと、
相手を傷つけることを言ってしまう。
良くは無いが、
それだけならまだ良かった。
私は行動にも出てしまう。
軽く叩く、蹴る。
後悔してもし切れない。
だってもう謝る相手は
友達ではなくなっているのだから。
嫌われて、嫌われて、
謝る機会も与えて貰えなくて
1人になっていく。
それでも積もるものは積もっていく。
黒いものがどんどんと、
私の型に流し込まれて
私じゃない私が出来上がっていく。
私じゃないのに…。
私じゃ…。
"Good Midnight!"
よく言うわ。
どこかで人を見下して
自分を高く評価してたくせに。

12/20/2025, 3:19:56 PM

パラレルワールド。
銀河の数ほどある
パラレルワールドを
1つにまとめて管理してるのがここ。
「ドリームゲート」。
私はドリームゲートの番人で
主にパラレルワールドを管理している。
たまに時間も管理するけど、
時を結ぶリボンは
解けやすくて
千切れやすくて
細かったり太かったりするし、
パラレルワールドが多すぎて
時間までは管理し切れないから
あらゆるパラレルワールドに
時間管理局がある。
でもパラレルワールドを管理するのは
ここだけ。
パラレルワールドを結ぶのは
透明なガラスパイプで、
先代から受け継いで1200年ほど
私はずっとこの景色を見ていた。
毎日数通だけ
パイプから手紙が来る。
それは特別な案内をされた
特別な方だけが送れる手紙。
どの世界に行きたいのかや、
案内人の名前を書いた手紙を送ることで、
私はその方がいる世界とは
違う並行世界へ
ゲートをくぐって
限られた時間のみ移動を許可する。
同伴者は案内人、もしくは私自身。
もしこの選択をしていたら…という
ほぼ隣の世界へ行く人もいれば、
もしこの人と出会わなかったら…という
少し離れた世界へ行く人もいる。
限られた時間しか居られないし、
並行世界で
その方がいる世界とは
違う世界なので
世界は影響を受けない。
おまけにその並行世界側は
起きた出来事を夢だと認識する。
だからドリームゲート。
私はなんだかんだ
番人という役割にやりがいを感じている。
"Good Midnight!"
1200年ほど前までは
私にも私の世界があったけれど、
今はもう人ならざるもの。
その世界がどんな世界だったか
誰とどんな関わりがあったか
もうとうの昔に忘れてしまった。

12/19/2025, 4:24:31 PM

小包が届いた。
中身は
小さな小さな
手のひらの贈り物。
ユニコーンの角が
少し欠けていて、
でも足はしっかりとしていて、
斜めになったりはしない。
出窓に飾っておいたら
次の日また小包が届いた。
中身は
小さな小さな
手のひらの贈り物。
ロバの耳が
少し欠けていて、
でも足はしっかりとしていて、
斜めになったりはしない。
出窓でユニコーンの後ろに飾っておいたら
また次の日小包が届いた。
中身は
小さな小さな
手のひらの贈り物。
ペガサスの羽根が
少し欠けていて、
でも足はしっかりとしていて、
斜めになったりはしない。
出窓でユニコーンとロバの後ろに飾っていた。
深夜1時半。
月の光が出窓を照らす中、
ユニコーンが先頭でロバ、ペガサス、と
3匹は外へ飛び出した。
空へ向かって駆けていくその足元は
七色に輝いていて、
足取りは音楽に乗るかのように
軽やかだった。
"Good Midnight!"
3匹が届けたのは
自分たちではなく
ささやかな、
小さな小さな幸せだったのだと
3匹は口を揃えて言いました。

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