ストック1

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12/19/2025, 11:43:49 AM

「手のひらの贈り物だー!」

突然、掌底打ちされた
なんだこの妹は
腰を落としたかと思ったら俺の腹部に衝撃を与えやがったぞ
俺はたまらず膝をつき、うずくまる
こんなプレゼントは御免被りたい

「このバカ兄め
私が友達と分けるはずだったお高いチョコレートを食い散らかしただろう!」

何を言い出すかと思えば……

「知らねえよコノヤロー
俺はいかにも高そうなチョコを見ると圧を感じて足がすくむんだ
そんな人間が食うわけねえだろ」

「え、そうなの?
決めつけてごめん……
じゃあ誰が食べたんだ?
他に食べそうなのは……」

ま、嘘なんですけどね
高いチョコを見て足がすくむとか、適当に言ったのに本気で信じてやがる
んな状況あるわけねえ
相変わらずチョロいな

「小春かなぁ
あの子ならしかたないか
チョコを見つけて目を輝かせて思わず食べちゃったんだろう」

そして、罪を末妹になすりつけることに成功した
この妹……春奈は小春には甘い
ゆえに小春を追究しないため、真相は闇の中
春奈が追究しない以上、小春が否定することもない
我ながら完璧だ
俺は怒られず、春奈は小春ならしょうがないとなり、小春は濡れ衣を着せられたことに気づかない
誰も傷つかないじゃないか
さらに俺はうまいチョコを堪能できた
これ以上ないハッピーエンド

「そういえば、小春が苦手なヘーゼルナッツが入ってるのがあった気がしたけど、それも食べちゃったのかな?」

ヘーゼルナッツ?
ああ、この間家族用に親父が買ったテリーチョコと勘違いしてんな

「イワノフのチョコはナッツ類は使わないから、大丈夫だろ」

「あ、そっか
テリーと混同していたよ
……ん?」

ふと、春奈がなにか違和感を感じたような顔をした
そして、こちらを睨む
え?
なに?

「お前、どうして私が買ったのがイワノフだと知っている?」

あ、ヤベ

「私はね、チョコを食べただけなら、掌底打ちと説教だけで済ませたよ?
けどお前、可愛い小春に罪をなすりつけようとしたよな?」

「春奈、一旦落ち着こう
たまたま見かけたんだ」

「時間的にありえないね
お前が帰ってきたのは小春が出かけたあとだ
小春が食べたならお前はチョコの包装を見ることはない」

「あ、あ……
もしかして、これ、詰み?」

「やることは色々あるが、まずはもう何回か、手のひらの贈り物をさせてもらおうかな」

俺が逃げる姿勢を取る前に、春奈は一気に距離を詰め、強烈な連撃を食らわすのだった
いやもう勘弁してください
同じやつプラス謝罪分を買いに行きますから

12/18/2025, 12:04:33 PM

一緒に競い合うライバル
対等な関係
戦い合いながらも、お互いを高め合う存在
それが私たちだった
そのはずだった
けど、心の片隅で侮っていたのだ
この子では私を追い越せないと
失礼なのは重々承知
でも、あの子が私より先へ行く姿は、どうしても想像できなかった
実際、私が負けたことなんて一度もない
なのに
まさか
私が圧されるなんて
私の魔法は水属性
炎属性のあの子は、私が相手ではそもそも不利なのだ
そのことを差し引いても、私のほうが魔力は高い
それがどうだ
劣勢なのは私の方
どれだけ力で押そうとしても
どれほど技術で翻弄しようとしても
あの子はその上をゆく
対等なライバルに対して、抱いてはいけない感情が吹き上がる
"屈辱"
その時、嫌というほど思い知った
自分の嫌なところを
結局、私はあの子を見下していたのだと
対抗すればするほど、どれだけ私が舐めきっていたか、理解させられる
なぜなら、私の攻撃は防がれ、私の防御は突破され、その度に屈辱感が心をつついてくるのだから
この期に及んで、吹けば飛ぶような格下相手に手も足も出ない、という感覚に支配されている私の醜さ
自分の中にある汚い部分
それを見せつけられているような気分になる
結局私は、あの子に惨敗を喫した
涙が止まらない
試合に負けた悔しさの涙じゃない
あの子の前で膝をついた、屈辱の涙だ
私はなんて矮小なのか
あの子は対等なライバルのはずなのに

「知ってたよ、あなたが私を下に見ていたこと」

私にあの子が告げる
そっか、気づいてたんだ
きっと自分でも気づかないうちに、普段の態度で出ていたのだろう

「だから私はたくさん努力した
あなたを越えられるように」

それが今日、実ったのか

「そうすれば、私は本当の意味で、あなたの対等なライバルになれる気がしたから」

ああ、この子はあくまで私と対等なライバルになりたかったんだ
私に見下されるのでもなく、私を置いていくでもなく

「今日からは、対等なライバルとして、切磋琢磨していこう」

そう言って、手を差し伸べてきた
私はその手を掴む
格下だったのは、私の方だった
力ではなく、心が
ようやく、私はあの子の対等なライバルになる資格を得た
そんな気がした

12/17/2025, 11:51:14 AM

雪の降る中、私はひとり公園のベンチに座っていた
周囲には誰もいない
あるのは積もった雪だけだ
雪の静寂
私に積もろうとする雪を度々はらう以外は、動きもない
降り積もる雪以外は時間が止まったかのようなひと時
静寂は、静かで寂しいと書くわけだが……
私はこの寂しさが嫌いではなかった
普段、様々な人たちと関わるからだろうか
時々、孤独になりたいことがある
その時は人の気配を一切断つのだ
テレビもつけないし、SNSどころか、ネット自体にもアクセスしない
ここは屋外であり、公共の場所でもあるから、本来孤独には向かない場所
しかし、今日は不思議なことに公園だけでなく、隣接する道を通る人や車すら無い
外で感じる静寂、孤独というのも気持ちのいいものだ
雪が降るほどだから気温はとても寒いが、この寒さが寂しさへのいい味付けになっている
やはり寒さと雪は、孤独や寂しさ、静けさといった要素によく合うものだ
人が恋しくなるまでは、このままでいたい
私は特に人嫌いだとか、ひとりが好きなタイプの人間というわけではない
だからしばらく孤独を楽しんだら、ちゃんと誰かとのふれあいを求めるようになる
寒さには、温かさが必要なのだ
そして、暑くなれば涼しさを求めるだろう
心も同じ
私は人々との関わりで、心が暑くなってしまった
だから雪の中、孤独な静寂で涼んでいる
そして、心が寒くなった頃に、人の温かみに触れに行くのだ
さて、心は涼しいが体は寒さで冷えて来た
そろそろ帰って、体だけは温めよう
風邪でも引いたら、静寂を楽しむどころではない

12/16/2025, 11:30:36 AM

度々妙な夢を見てるって、言っただろ?
普段の君は研究所で日夜頑張って働いてるよね
でもバリバリに学生をやってる夢を何度も見ている、と
確かに妙だ
ただ、大変申し上げにくいんだけど
……この際だから言うよ
君が見た夢のほうが現実だ
この世界は……君がひととき、現実を忘れて楽しむための世界
仮想空間なんだ
ここにいる間は現実での記憶はないはずだけど、不具合があったみたいだね
夢を見たような感覚で現実の記憶を思い出してしまっている
僕の予想だと、この不具合を放置していると、いずれ現実の記憶をここにいる間でも覚えてしまっている状態になる
そうならないように、メンテナンスとアップデートが必要になるわけだけど……
もちろんその間、君はこの世界へアクセスできない
心の拠り所をひとつ、1ヶ月間ほど失うことになるけど、大丈夫かい?
まあ、その分現実を大事にできるとも言えるから、悪いことばかりじゃないだろうね
でも、不安要素も大きい
この世界での3日間は、現実での1時間
そしてこの世界にいない間は、この世界の時は進まない
だから君は、フラッと気軽にこの世界に来てはもうひとりの自分、もうひとつの人生を楽しんでいた
習慣みたいにね
それが1ヶ月間奪われるんだ
けっこう、つらいと思う
とはいえ、アップデートはしないともっと大変でつらいことになるかもしれない
この世界の不具合拡大とか、存続危機とかね
だから、1ヶ月間のメンテナンスはほぼ確定事項
君が現実でメンテナンスの間どう過ごすかを考えないといけない
現実の記憶が曖昧な今の君に話しても、いまいちピンとこないだろう
というわけで、今から一時的に君の記憶をONに設定するよ
思い出したみたいだね
さあ、時間はまだあるし、現実での生活を考えようか
大丈夫
僕は君をサポートするためにいるのだから
現実での過ごし方も、知恵を出すという形でサポートさせてもらうよ

12/15/2025, 11:04:15 AM

笑えない冗談だ
他人を見ずに、ひたすら自己中心的に生きてきた俺がピンピンしていて、他人のために奔走し続けたこいつが、不治の病で死へ向かってるなんてな
善行を積んだ報酬がこんな結末だなんて、つくづくこの世は救われないようにできてるとしか思えないぜ
だがまさか、自分勝手な俺が他人に対してこんな感情を抱くとは思わなかったな
こいつは俺のために、もっと人を気にかけろとか、色々言ってくれたからかもしれない
友達と呼べるのは、こいつくらいだしな
とはいえ、俺がしてやれることなんて何もないわけだ
無力感はあるが、しかたないとも思う
やっぱり世の中、自分のために身勝手に生きるほうが幸せなのかもしれねえな
俺が幸せかどうかは……まぁ自分でもよくわからん
ひとつわかるのは、俺にできることが、こいつを見守ることだけってことだ
けどな
自分でもびっくりしたが、代われるもんなら代わってやりたいよ
なんというか、こういう奴が幸せになれない世の中なんて、間違ってると思わないか?
俺は自分の価値が低いとか、こいつよりも下等な存在だなんて思っちゃいない
むしろ、人ってのは価値なんか付けて比較するようなもんじゃねえって考えだ
それでも、自分を犠牲にしてでも、こいつだけは生かしてやりたい
それが心の底から俺が思っている、偽らざる本心だよ
そんなことを考えてたら、頭の中で何かに問いかけられた
俺の命を捧げて、目の前の友を救うか?ってな
悪魔の契約か?
なんて思ったものの、邪悪な感じはしない
誰が、どういうつもりで言ってるのかは知らねえが、こいつを助けられるなら、俺が迷うことはない
とっとと救ってやってくれ
俺は別にいいが、こいつには明日への光を掴み取って欲しい
俺は願う
こいつの命が救われることを
これからも他人のために動くことを
これからは自分自身のことにも目を向けることを
俺の体が軽くなるのを感じる
浮遊感に包まれて、俺は自分の死を悟った
こいつはきっと、俺が死んだら悲しむんだろうな
でも、俺は満足だよ
お前のために命を使えて
だから、気にしないでくれよ
俺がそうしたかっただけなんだからな
お前の働き、これからは遠くから眺めさせてもらうわ
せっかく俺が命をやったんだ
いつまでも元気でな
じゃあな

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